館柳湾

館 柳湾

館 柳湾（たち りゅうわん、1762年4月5日 - 1844年5月29日）は、江戸時代後期の日本における著名な漢詩人及び書家である。本姓は小山氏で、養子として館を名乗った。彼の本名は機、字は枢卿、通称は雄次郎であり、「柳湾」という号は、故郷の信濃川河口にある柳の入り江に由来している。また、石香斎や三十六湾外史といった別号も持っていた。

生い立ちと経歴

新潟市の廻船問屋小山家に次男として生まれた柳湾は、幼少期から高田仁庵に儒教の経典を学びました。両親を早くに失った彼は、質屋の養子となりました。1784年に江戸に出た柳湾は、亀田鵬斎の指導を受け、その後代官の手代や小旗本の家臣として仕官します。婚姻により家族を持ちましたが、妻の病死後に妹を後妻とし、さらに子どもをもうけます。

1798年、大典顕常と出会い、翌年には昌平黌にて林述斎に入門します。1800年には小出照方の赴任に伴い飛騨高山へと異動しましたが、その後江戸に戻ります。晩年、故郷である新潟に帰り、傘寿を祝う盛大な宴が催されました。最終的には目白台の自宅で生涯を閉じ、長源寺に眠っています。

人物像

柳湾は温和な性格で寡黙だったと伝えられています。彼の外見は色白で背が高い一方、飲酒はせず、一日一升の飯を食べたとされています。実直な役人として上司から信任を受け、領民のことを考えた行動を取ることで評価されていました。また、亀田鵬斎とは長い師弟関係を築いており、義理堅い性格がうかがえます。

彼は詩や書に優れ、和歌や篆刻も好みました。数々の著作を発表し、江戸庶民の人気を得ています。同時代の岡本花亭と並び称される存在で、詩人としての人生を謳歌しました。子息の館霞舫は画家となり、実家の文脈を引き継ぐ存在となります。

詩風と作品

当時の詩壇は、華やかな唐詩から写実的な宋詩へと流れが変わりつつありましたが、柳湾は中晩唐の高雅で典麗な詩風を追求していました。特に、絶句集の刊行に力を入れ、杜牧や温庭筠といった詩人の影響を受けながら、澄明で平易な詩風が大いに人気を博しました。

彼の詩はその情趣深さや洗練された表現によって、多くの詩人に愛され、広められました。永井荷風は彼の詩を、「江戸名所の絵本をひらく思いがある」と讃え、近代フランスの叙情詩に匹敵すると評しています。

交友関係

柳湾は、多くの著名な文学者や詩人とも交流を持ち、亀田鵬斎や巻菱湖、原士簡、松崎慊堂などと親しい関係を築いていました。彼の人脈は、詩の発展にも寄与し、多様な影響を受けながら創作活動を行う基盤となったことでしょう。

出版作品

彼はまた、多くの詩集を世に送り出しました。代表的な作品には『金詩選』『晩唐十家絶句』『樊川詩集』『柳湾漁唱』などがあります。これらの作品を通じて、彼の詩的感性や文学的貢献は後世に引き継がれています。

館 柳湾は、その詩の世界に独自の色を持ち、江戸時代の文化を豊かに彩った重要な存在であったと言えるでしょう。

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