高倉登

高倉登：競輪黎明期を彩った天才レーサーの軌跡

高倉登は、1932年生まれの元競輪選手で、日本競輪選手会埼玉支部に所属していました。競輪学校ができる前に選手登録された期前選手であり、登録番号は851です。埼玉県出身で、競輪黎明期にその名を轟かせた名レーサーとして知られています。

天才の名をほしいままにした初期の活躍

1951年8月、高倉はホームバンクである大宮競輪場で開催された第1回全国都道府県対抗争覇競輪の6000メートル競走で、初の特別競輪（現在のGI）制覇を果たします。さらに同年10月には、大阪中央競輪場で開催された第5回全国争覇競輪で、1着入線の高橋恒が失格となったため繰り上がりで優勝。当時18歳という若さで日本選手権競輪を制覇し、現在もその最年少優勝記録は破られていません。

翌1952年には、高倉の快進撃はさらに加速します。5月に開催された第6回全国争覇競輪（川崎競輪場）では完全優勝を飾り、同大会連覇を達成。続く6月には高松宮同妃賜杯（高松宮記念杯競輪）でも完全優勝を果たします。さらに8月には、福岡競輪場で開催された第3回全国都道府県対抗争覇競輪6000メートル競走でも優勝し、史上初の特別競輪3連覇という偉業を成し遂げました。

わずか2年の間に5つのタイトルを奪取した高倉は、ファンやマスコミから「天才・高倉」ともてはやされました。そのルックスも抜群だったことから、女性のファンも多く、熱狂的な「おっかけ」まで出現したそうです。また、この年には賞金王（374万3000円）にも輝きました。しかし、高倉の栄光の時代は、事実上ここまででした。

伝説的なエピソードと転落

高倉には数々の伝説的なエピソードがあります。当時の競輪には「普通競走」という、いわゆる「トップ引き」が必要なレース形態がありましたが、高倉はトップを引いた上で逃げ切って勝利したことがありました。トップを引く選手は最後に力尽き、集団から大きく引き離されてゴールするのが普通でしたが、高倉はそれを何度もやってのけたのです。高倉に対抗できたのは、「燕返し」の異名を持つ山本清治くらいでした。1951年のGIタイトルは、山本が3つ、高倉が2つとほぼ2人で分け合いました。

高倉の強さに対抗するために生まれたのが、東京の熊坂克己が最初に行ったとされる「二角先行」、つまり現在の「捲り」でした。強靭な地脚を持つ高倉は、正攻法でペースを上げると誰も手がつけられませんでしたが、2コーナーからダッシュする奇襲戦法を使えば、高倉も最後は力尽きてしまうだろうと考えられたのです。この戦法は、熊坂のほか、松本勝明や中井光雄といった選手にも広まり、彼らは瞬く間にトップ選手の仲間入りを果たしました。

しかし、その後高倉の成績は振るわなくなり、私生活でも乱れが生じ始め、トップから転落してしまいます。1954年の第7回全国都道府県対抗争覇競輪（高松競輪場）の2000メートル競走で優勝しましたが、これが最後のGIタイトルとなりました。その後は、一般戦などの下位レベルのレースでは時折往年の強さを見せることもありましたが、トップクラスでは通用しなくなってしまいました。1978年に引退し、通算勝利数は739勝でした。

高倉自身は、全盛期には世界自転車選手権に出場したいという夢を持っており、競輪の会報誌で、世界の舞台で自分の走りを試したかったと語っています。全盛期の高倉を知るファンや関係者の間では、その強さは驚愕だったという声も多く、今でも伝説のレーサーとして語り継がれています。

引退後も、1980年に大宮公園で泥棒を追いかけ、取り押さえたというニュースで久々に新聞に登場しました。この時、各紙は元競輪選手の快足ぶりを書き立てました。また、作家の阿佐田哲也が、高倉がホームレスをしているという誤った情報をエッセイに書きましたが、後に訂正しています。

高倉登は、競輪史に燦然と輝く伝説的な選手として、その名は今もなお多くのファンに記憶されています。

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