高柳賢三

高柳賢三

高柳賢三（たかやなぎ けんぞう）は、1887年（明治20年）5月11日に生まれ、1967年（昭和42年）6月11日に生涯を閉じた、大正から昭和期にかけて日本の法学界を牽引した法学者です。その専門は英米法、特にアメリカ法学の発展に大きく貢献しました。

生涯の歩みと教育者として

埼玉県熊谷市に生まれた高柳は、正則英語学校、府立四中、第一高等学校を経て、1912年に東京帝国大学法科大学を卒業しました。翌年には大学院を中退し、母校の助教授に就任。1921年には教授へと昇進し、後に附属図書館長も兼務しました。

当時の日本の英米法研究はイギリス法が主流でしたが、高柳は1915年から5年間にわたり、ハーバード大学ロースクールなどに留学し、アメリカ法研究に本格的に取り組みました。特に、違憲立法審査権といった重要なテーマを探求し、その成果を日本に紹介しました。アメリカの著名な法学者であるロスコー・パウンドの著作を翻訳するなど、日本の法学界に新しい思想や概念を導入する役割も果たしています。また、「司法権の優位」を唱え、法の支配における裁判所の役割の重要性を説きました。東京大学教授としては、末延三次、田中和夫、守屋善輝といった多くの優れた門下生を育成し、日本の法学教育の発展に尽力しました。

戦後の公的な活動

戦後、高柳は多岐にわたる公的な場で重要な役割を果たしました。1945年12月には帝国学士院会員（後に日本学士院会員）に選ばれ、1946年6月からは貴族院勅選議員として、その廃止まで議政に関わりました。

極東国際軍事裁判（東京裁判）においては、日本側弁護団の一員として法廷に立ち、重光葵や鈴木貞一の弁護を担当しました。しかし、1948年にはCIE（連合国軍総司令部民間情報教育局）により教職不適格とされ、同年11月に東京大学を依願退官せざるを得ない状況に直面します。その後は仙台法経専門学校の副校長や、1949年7月から1957年3月にかけて成蹊大学の学長を務めるなど、教育への情熱を持ち続けました。

特に後世に影響を与えた活動として、憲法調査会の会長としての役割が挙げられます。1956年に鳩山一郎内閣下で設置されて以来、歴代内閣のもとで会長を務め、日本国憲法の成立過程やその解釈、特に自衛権などに関する政府見解と憲法原則との整合性について、調査研究と議論を主導しました。新憲法擁護の立場を基本としつつ、現実的な課題に対する憲法論議を深めました。

また、ハーバート・パッシンの提唱に応じる形で設立された「文化自由会議」と連携する日本の組織「日本文化フォーラム」の初代会長も務めています。

晩年と業績

東京大学、成蹊大学から名誉教授の称号を贈られた高柳は、1964年11月3日に勲一等瑞宝章を受章しました。1967年6月11日、ヨーロッパ出張からの帰途、滞在先の香港で客死しました。その功績に対し、正三位が追叙され、銀杯一組が賜られています。

高柳賢三の研究活動は多数の著書として結実しており、現在も日本の英米法研究において基本的な文献とされています。代表的な著書には以下のようなものがあります。

『新法学の基調』岩波書店
『法律哲学原理』岩波書店
『英米法源理論』有斐閣
『司法権の優位 理論と実際』有斐閣
『極東裁判と国際法 極東国際軍事裁判所における弁論』有斐閣
『英米法の基礎』有斐閣
* 『天皇・憲法第九条』有紀書房

共編著としては、末延三次との『英米法辞典』や『日本国憲法制定の過程』などがあり、日本の法学研究における基礎資料となっています。高柳賢三は、その生涯を通じて日本の英米法学、特にアメリカ法学の確立と発展に貢献し、戦後日本の法制度や憲法論議においても指導的な役割を果たした、日本の法学史における重要人物です。

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