高橋文室麻呂

高橋文室麻呂（たかはし の ふんやまろ）は、平安時代前期に活躍した貴族であり、卓越した雅楽家として知られています。彼の出自は信濃国にあり、膳氏（ぜんうじ）の一族でした。曾祖父の倭（やまと）が母方の姓である錦部（にしきべ）に改姓し、さらに父の彦公（ひこきみ）が高橋朝臣（たかはしのあそん）に改姓したという複雑な系譜を持っています。この背景には、当時の社会における氏姓制度の変遷が影響していたと考えられます。

父の彦公は五経を深く理解していたことから、嵯峨天皇に近侍していました。文室麻呂も幼少の頃からその才能を発揮し、9歳にして嵯峨上皇に仕えました。嵯峨上皇は自ら琴を教え、文室麻呂はその才能をめきめきと開花させました。その上達ぶりは目覚ましく、他に琴を習う者が誰も及ばなかったため、「琴師」という号を授けられたほどでした。この逸話は、彼の音楽的な才能の非凡さを物語っています。

天長8年（831年）、16歳で元服し蔵人（くろうど）となった文室麻呂は、嵯峨上皇の崩御後も、仁明[[天皇]]に引き続き仕えました。その後、常陸大掾（ひたちのだいじょう）や右兵衛尉（うひょうえのじょう）といった官職を歴任しました。さらに、勅命により仁明[[天皇]]の皇子である時康親王（ときやすしんのう、後の光孝[[天皇]]）や本康親王（もとやすしんのう）に琴を教授しました。このことは、彼の琴の腕前が皇族にも認められていたことを示しています。

文室麻呂は、文徳天皇の時代末期から清和天皇の時代初期にかけて昇進を重ね、斉衡4年（857年）には外従五位下、貞観元年（859年）には従五位下に叙せられました。清和朝では越後介（えちごのすけ）を遙任として務めています。彼の琴の技術は当時最も優れていると評され、文徳天皇や清和天皇も彼を殿上に召して琴を習ったと言われています。嵯峨・仁明・文徳・清和の四代の天皇から寵遇を受けたという事実は、彼の音楽家としての才能だけでなく、人柄も高く評価されていたことを物語っています。

貞観6年（864年）2月1日、文室麻呂は49歳で亡くなりました。最終的な官位は従五位下行越後介でした。彼の生涯は、平安時代初期における貴族社会と音楽文化の隆盛を映し出しており、特に琴の演奏家としての業績は、後世にまで語り継がれています。


官歴

天長5年（828年） : 錦部から高橋朝臣に改姓
天長8年（831年）: 元服、蔵人
時期不詳: 正六位上、常陸大掾、右兵衛大尉
斉衡4年（857年）: 外従五位下
貞観元年（859年）: 従五位下（内位）
貞観3年（861年）: 越後介
貞観5年（863年）: 次侍従
貞観6年（864年）: 卒去（従五位下行越後介）

高橋文室麻呂は、その生涯を通じて、雅楽の発展に大きく貢献しました。彼の存在は、当時の宮廷文化において、音楽が重要な役割を果たしていたことを示しています。また、彼自身の才能と努力が、後世に語り継がれるべき優れた音楽家としての地位を確立したと言えるでしょう。

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