本康親王

本康親王

本康親王（もとやすしんのう）は、平安時代前期の皇族で、仁明天皇の第五皇子として生まれました。母は参議滋野貞主の娘である縄子です。官位は一品・式部卿で、八条宮とも呼ばれました。

生涯

承和15年（848年）に元服し、仁明天皇の時代末期である嘉祥2年（849年）に四品に叙せられました。翌嘉祥3年（850年）には上野太守に任じられます。清和天皇の時代に入ると、貞観2年（860年）に弾正尹、貞観5年（863年）に兵部卿を歴任し、貞観13年（871年）には三品に昇叙されました。陽成天皇の時代には、元慶7年（883年）に二品、翌元慶8年（884年）には式部卿に任じられ、その後長く式部卿を務め、時期は不明ながら一品に叙せられました。醍醐天皇の延喜元年（902年）12月14日に薨去し、最終官位は一品式部卿でした。

人物

本康親王は、香の調合に非常に優れていました。現存する日本最古の薫物指南書である『薫集類抄』には、21種の薫物の処方が記されており、そのうち5種（梅花、侍従、黒方、薫衣香、百和香）は本康親王によるものとされています。その調合法は独特で、沈[[香]]を主成分とし、甲香、丁子、白檀などを混ぜ合わせ、一日酒に浸してから乾燥させたり、一晩馬糞の下に埋めたりするものでした。

また、『源氏物語』には、紫の上が「八条の式部卿の御方を伝へて」と薫物の処方を伝授されていたという設定があり、本康親王の香りの才能が物語にも影響を与えていたことが伺えます。

日記『八条式部卿私記』は、朝廷の公事記録を主な目的とした私的な日記であり、その先駆け的な存在とされています。日記自体は散逸してしまいましたが、その一部は『西宮記』に逸文として残っています。

勅撰歌人としても知られ、『続後撰和歌集』に和歌が1首収録されています。また、70歳の賀の際に紀貫之や素性法師が詠んだ和歌が『古今[[和歌集]]』に採録されています。

「琴師」と呼ばれた高橋文室麻呂から琴を学び、その演奏に感動した菅原道真が漢詩「感吏部王弾琴、応制（一絶）」を詠んだという逸話も残っています。

官歴

承和3年（836年）11月3日：近江国野洲郡の空閑地35町を賜る
承和4年（837年）1月22日：河内国の荒廃田30町を賜る
承和15年（848年）4月14日：元服
嘉祥2年（849年）1月7日：四品
嘉祥3年（850年）1月15日：上野太守に任官、5月17日：上野太守
貞観2年（860年）2月14日：弾正尹、上総太守を兼任
貞観5年（863年）2月10日：兵部卿、2月14日：帯剣を許される
貞観11年（869年）2月16日：上総太守を兼任
貞観13年（871年）1月7日：三品
貞観18年（876年）12月26日：大宰帥を兼任
元慶7年（883年）1月7日：二品
元慶8年（884年）3月9日：式部卿
時期不詳：一品
寛平元年（889年）11月19日：輦車の使用を許される
延喜元年（902年）12月14日：薨去（一品式部卿）

系譜

父：仁明天皇
母：滋野縄子（滋野貞主の娘）
生母不詳の子女
男子：雅望王
男子：行忠王
男子：修平王
男子：惟時王
男子：源兼似
男子：源兼仁
男子：源朝鑑
男子：源朝憲
男子：源保望
男子：源由道
女子：廉子女王（?-935） - 藤原時平正室
女子：元子女王

参考文献

森田悌『続日本後紀 下』講談社〈講談社学術文庫〉、2010年
武田祐吉、佐藤謙三訳『読み下し 日本三代実録 上巻』戎光祥出版、2009年
田中圭子「薫集類抄の研究 -平安時代の人物と薫物-」広島女学院大学博士論文、2004年

外部リンク

『摂関期古記録データベース』国際日本文化研究センター（『八条式部卿記』の読み下し文を公開）

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