鴻紋軌道

鴻紋軌道

鴻紋軌道（こうもんきどう）は、昭和期に北海道の網走支庁管内、現在の紋別市に敷設されていた軽便鉄道路線です。鴻之舞軌道（こうのまいきどう）と呼ばれることもあります。

概要と歴史

この軌道は、当時急成長を遂げていた鴻之舞鉱山の拡張に必要な資材を運び込み、また、人口が1万人を超えていた鴻之舞地区に暮らす人々の生活物資を供給することを主な目的として計画されました。

建設工事は1940年（昭和15年）10月に始まりました。当初は1942年（昭和17年）の完成を目指していましたが、元紋別地区にあった沢の埋め立てが予想以上に難航し、鴻之舞地区から大量の石材を運搬する必要が生じたため、工期が延びました。最終的に工事が竣工したのは、予定より遅れた1943年（昭和18年）6月のことでした。

しかし、完成を待たずして皮肉な事態が発生します。軌道完成の約半年前、1942年12月26日には、戦時下の産業統制により鴻之舞鉱山に対し休山命令が出されていたのです。このため、軌道の開業当初における主要な役割は、当初の目的であった資材や生活物資の運搬ではなく、休山に伴って解体された鉱山設備などを他の鉱山へ移送するための運搬という、期待されたものとは異なるものとなりました。

鉱山が休山している期間中も、軌道は鴻之舞地区に残った住民の通勤や生活物資輸送のために運行を継続しました。冬期間には運行が休止される時期があったとされますが、これが季節的な計画運休だったのか、あるいは大雪などによる運休だったのかは、現在では明らかではありません。

戦後、鴻之舞鉱山は1947年（昭和22年）に復興を果たしますが、その頃には周辺地域の道路整備が進み、自動車による輸送が主流となりつつありました。軌道は自動車輸送との競争に晒され、その存在意義が薄れていきます。そして、鉱山復興の翌年である1948年（昭和23年）に廃止されることとなりました。着工からわずか8年、そして完成からはわずか5年という、短い歴史に幕を閉じたのです。ちなみに、鴻之舞金山自体は、その後も採掘が続けられましたが、1973年（昭和48年）8月に完全に閉山しています。

なお、鴻紋軌道が敷設され、賑わいを見せた鴻之舞地区は、ザ・ピーナッツやダークダックスが歌って広く知られる「銀色の道」（塚田茂作詞、宮川泰作曲）のモデルとなった場所の一つとされています。

路線データ

軌道の主な路線データは以下の通りです。

区間（営業キロ）： 約28 km
駅数： 14駅（起終点を含む）
軌間： 762 mm
橋梁数： 10橋
主要橋梁（紋別からのキロ程）：
五号杭橋 (27.11 km)
最上橋 (8.95 km)
弥生橋 (7.74 km)
桜橋 (21.58 km)
宝橋 (26.25 km)
万世橋 (15.24 km)
六仙橋 (19.15 km)
黄金橋 (20.35 km)

車両

運行においては、機関車1両に対して貨車2両と客車3両を連結した編成が標準とされていました。

蒸気機関車： Nos.171-173。1941年（昭和16年）および1942年（昭和17年）に日立製作所で製造されたBタンク機関車が使用されました。1944年（昭和19年）には採掘事業縮小に伴い、1両が根室拓殖軌道へ譲渡される計画がありましたが、終戦による採掘再開により中止となりました。廃線後、これらの機関車は十勝上川森林鉄道で使用されています。
その他： 雪かき車、客車、貨車などが運用されました。

駅一覧

以下の14駅が設置されていました。

紋別（もんべつ）
元紋別（もともんべつ）
草鹿（くさか）
木原（きはら）
野中（のなか）
中藻別（なかもべつ）
長島（ながしま）
曙（あけぼの）
桜町（さくらまち）
栄町（さかえまち）
末広（すえひろ）
住吉（すみよし）
元町（もとまち）
* 元山（もとやま）

ただし、当時の資料が少ないため、これらの駅や乗降場の正確な位置や数については不確定な部分が残っています。

廃止後の状況

軌道が廃止されてから長い年月が経ちましたが、その痕跡は現在も一部に残されています。藻別川やその支流、あるいは道路を跨ぐ橋台や橋桁が遺構として確認できます。中でも五号坑橋は、鉱山水の送水施設として現在も活用されています。

また、かつての路盤の一部は、その後の開発により道路やゴルフ場内の通路などに転用されています。

2003年（平成15年）7月には、鴻之舞金山の閉山から30周年を記念し、「銀色の道」歌碑の除幕式典が、鉱山跡地と紋別駅跡地で行われ、地域の歴史を偲ぶ記念碑が建立されました。

関連情報

鴻紋軌道の廃止後、鴻之舞と紋別を結ぶ地域の交通機関を確保する目的で、北紋バスが設立されました。また、北海道道305号紋別丸瀬布線が、おおむね軌道に並行する形で整備されています（北海道道としての認定は1957年）。

もう一度検索