鶴岡八幡宮の戦い

鶴岡八幡宮の戦い

鶴岡八幡宮の戦いは、大永6年11月12日（1526年12月15日）に相模国（現在の神奈川県）で、北条氏綱と里見義豊の間で行われた合戦です。この戦いは、当初里見軍が玉縄城を目標としていたものの、鎌倉に突入したことで鶴岡八幡宮が兵火により焼失したことから、その名が付けられました。この合戦は、大永鎌倉合戦とも呼ばれています。

合戦の概要

従来、この戦いは里見実堯による侵攻とされてきましたが、近年の研究により、当時の里見氏の当主は義豊であり、実堯はその一部将に過ぎなかったことが明らかになりました。この事実は、後の天文の内訌において、北条氏綱が鶴岡八幡宮に祈願した後、義豊と戦っていた実堯の子・義堯に援軍を送ったこと、そして義堯によって討たれた義豊の首が氏綱に送られた際に、鶴岡八幡宮の供僧であった快元が「神罰」と書き記したことからも裏付けられます。

合戦に至る背景

この戦いの背景には、複雑な勢力関係と対立がありました。古河公方足利政氏の子である空然（後の足利義明）が、真里谷武田氏の支援を受けて下総国小弓城に入り、小弓公方を称するようになりました。小弓公方の下には、里見氏、真里谷武田氏、臼井氏などの南総の諸勢力が結集しました。一方、古河公方の下には、結城氏、庁南武田氏、千葉氏などの北総の諸勢力が集まり、関東公方の正当な継承を巡る対立が激化しました。

小弓公方と古河公方の対立は、房総地域、特に下総国の支配権を巡るものでした。小弓公方は下総一国を掌握するために本佐倉城・関宿城を、古河公方も同様に小弓城を狙っていました。このような状況下で、伊豆・相模を平定した北条氏が勢力を拡大し、当初は小弓公方側に立っていたものの、後に両勢力から政治工作を受けることになりました。

大永4年（1524年）には、北条氏が江戸城を占領し、東京湾西部海域を掌握しました。これにより、真里谷武田氏や里見氏は北条氏を脅威とみなし、反北条同盟を結成しました。この結果、房総方による武蔵・相模沿岸部の攻撃が活発化しました。

合戦の経過

大永6年（1526年）8月、里見義豊は叔父実堯と協議し、水軍を安房岡本に集結させ、上総の酒井定治にも協力を要請しました。同年11月、里見義豊・実堯は正木氏、安西氏、酒井氏などの兵を率いて、数百隻の船で三浦半島から鎌倉に進撃しました。里見軍は、鎌倉の海岸部で焼人形を船縁に並べて北条軍に遠矢を打たせ、北条軍の船が接近すると大石や材木を投げ込んだとされています。その後、戦いは鎌倉市中に移り、里見軍は鶴岡八幡宮の社家に乱入し、宝物を奪い、仏閣を破壊したとされています。しかし、合戦中に鶴岡八幡宮から出火し、炎上し始めたため、里見軍は鎌倉から離れて玉縄城に向かいました。玉縄城を守る北条氏時は、戸部川で里見軍を迎え撃ち、撃退しました。また、扇谷上杉氏も玉縄城を攻略できずに撤退しました。

合戦の影響

この戦いで、里見義豊は鶴岡八幡宮を焼失させた失態により大きな打撃を受けました。鶴岡八幡宮は源氏と鎌倉の守護神であり、里見氏にとっても崇敬の対象でした。また、小弓公方も鎌倉を拠点とする関東公方の継承者としての立場であったため、この失態は看過できないものでした。このため、合戦後、北条氏綱が推進した鶴岡八幡宮の再建に、義明も義豊も協力せざるを得ませんでした。この敗戦により義豊の権威は失墜し、叔父である実堯の発言力が増し、後の天文の内訌の遠因となりました。

内乱に勝利した里見義堯は北条氏綱の後押しで当主となりましたが、真里谷武田氏の家督争いに対する意見の相違から、北条氏綱と対立し、鶴岡八幡宮再建のための材木の輸送を差し止めました。これにより、足利義明は北条氏綱と連携を断とうとしましたが、失敗に終わりました。この対立は、後の第一次国府台合戦へと発展することになります。

参考文献

「鶴ヶ岡八幡宮の戦い」/「戸部川河畔の戦い」（『戦国合戦大事典 2』、新人物往来社、1989年）
千野原靖方『新編房総戦国史』（崙書房出版、2000年）
* 佐藤博信「小弓公方足利氏の成立と展開」（『歴史学研究』635号、1992年）

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