鹿林彗星

鹿林彗星（Comet Lulin）

鹿林彗星（C/2007 N3）は、2007年に台湾の鹿林天文台で発見された長周期彗星です。中国語の発音からルーリン彗星とも呼ばれます。この彗星は、その特徴的な緑色の外観と、尾の分裂現象で注目を集めました。2009年には地球に接近し、肉眼でも観測されました。

発見

鹿林彗星は、2007年7月11日に鹿林天文台で林啟生によって初めて撮影されました。しかし、3枚の写真から新しい天体を発見したのは、中国の中山大学の学生である叶泉志でした。当初は小惑星と考えられていましたが、約1週間後の7月17日の観測で、彗星特有のコマが広がっていることが確認され、彗星であることが判明しました。この発見は、地球近傍天体を特定する観測プロジェクト「鹿林スカイサーベイ」の中で行われ、彗星は天文台の名前にちなんで「鹿林彗星」と命名されました。

軌道

スミソニアン天体物理観測所の天文学者ブライアン・マースデンは、鹿林彗星が2009年1月10日に近日点（太陽に最も近づく点）に到達したと計算しました。その距離は太陽から約1億8200万kmでした。鹿林彗星の軌道は、非常に離心率の大きい楕円軌道であり、ほとんど放物線に近い軌道を描いています。近日点通過前の軌道離心率は0.99998で、軌道傾斜角は約178.4度であり、黄道面に対してほぼ逆行している軌道です。近日点通過後には離心率が0.998996に変化し、公転周期は約4万2000年になるとされています。このような離心率の高い天体では、太陽系重心を中心とした座標で軌道を計算する方が、太陽を中心とする座標よりも安定します。

観測

鹿林彗星は2009年2月24日に地球に最も接近し、その距離は約0.411天文単位（約6150万km）でした。このとき、見かけの等級は5等に達し、肉眼でも観測が可能でした。2月23日には、地球から見て土星とほぼ同じ方向に位置し、2月末にはしし座のレグルス付近からかに座の方向へ移動していきました。2月には、てんびん座のアルファ星、おとめ座のスピカ、おとめ座のガンマ星とイータ星の近くを通過し、3月にはプレセペ星団、エスキモー星雲、ふたご座のデルタ星の近くを通過しました。

特徴

NASAによると、鹿林彗星は太陽光によって核から放出された二原子炭素（C2）やシアンラジカル（CN）などの影響で、緑色に見えます。また、NASAの宇宙望遠鏡スウィフトによる観測では、1秒あたり約3000リットルもの水が放出されていることが確認されました。さらに、鹿林彗星にはメタノールが多く含まれていることも判明しています。

尾の分裂

2009年2月4日には、鹿林彗星の尾が分裂する現象が観測されました。この現象は「disconnection event」と呼ばれており、彗星の磁場と太陽風による磁場が衝突し、磁気リコネクションを起こしたと考えられています。この現象は、エンケ彗星でも確認されています。

鹿林彗星は、その特異な軌道や緑色の外観、尾の分裂現象など、多くの興味深い特徴を持つ天体でした。地球に接近した際には、多くの天文ファンや科学者によって観測され、そのデータは彗星研究に貢献しています。

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