黒羽清隆

黒羽清隆（くろは きよたか）

歴史学者・教育者としての生涯

黒羽清隆は、1934年（昭和9年）2月25日に東京都杉並区で生まれ、1987年（昭和62年）6月19日に53歳で生涯を閉じました。彼は、歴史学者であり教育者として、日本の歴史教育に大きな影響を与えました。静岡大学教育学部教授を務める傍ら、歴史教育に関する著作や、日中戦争・太平洋戦争に関する研究を通じて、歴史の多面的な理解を促しました。

教育者としての足跡

東京教育大学文学部史学科を卒業後、黒羽は中学校教諭としてキャリアをスタートさせました。新宿区立東戸山中学校、四谷第一中学校で教鞭を執った後、東京都立大学附属高等学校、東京学芸大学教育学部附属高等学校へと活動の場を広げました。教育現場での経験は、彼の歴史教育に対する情熱をさらに深めることとなりました。1969年から10年間、NHK通信高校テレビ講座で日本史を担当し、和歌森の思想を受け継ぎ、多くの学生に歴史の魅力を伝えました。

教育者としての黒羽は、大学でもその手腕を発揮しました。1975年から1977年には東京学芸大学と中央大学で非常勤講師を兼任し、1979年には静岡大学教育学部助教授に就任、1981年には同教授へと昇進しました。教壇に立ちながらも、黒羽は歴史研究と執筆活動を精力的に続けました。

歴史教育への貢献

黒羽の歴史教育に対する情熱は、教科書問題への積極的な関わりにも表れています。彼は、教科書の自由発行・自由選択を支持し、家永教科書裁判の当事者を支援しました。この行動は、彼が歴史教育における多様な視点の重要性を強く信じていたことを示しています。

研究テーマと著作

黒羽の著作は、日本の歴史教育のあり方、日中戦争、太平洋戦争など多岐にわたります。彼は、歴史を単なる過去の出来事としてではなく、現代社会と関連づけて理解することの重要性を強調しました。彼の著作群は、歴史的事象を複雑なままに捉え、多角的な視点から分析することで、より深い理解を促すものです。

主な著書には、『日本史教育の理論と方法』、『日本史への招待』、『日本史の森　ある歴史教育論の試み』、『日中15年戦争』、『十五年戦争史序説』、『太平洋戦争の歴史』などがあります。これらの著作は、歴史教育に関わる人々だけでなく、一般の読者にとっても、歴史を学ぶ上で貴重な資料となっています。特に『日中15年戦争』は、その詳細な分析によって広く知られ、2024年にはちくま学芸文庫から再刊されました。

また、共編著として家永三郎と共著で『史料を中心とした中学生の歴史』『新講日本史』、芳賀登と共編で『日本文化史の焦点』『日本史百三十一話』などがあります。これらの著作は、共同研究を通じて歴史を多角的に捉えようとする彼の姿勢を示しています。

評価と影響

北村嘉恵は、黒羽の作品群を「十五年戦争期を生きた人間たちの生活の様態と意識の流れを複雑なままに描き出している」と評しました。この評価は、黒羽の研究が単なる歴史的事実の羅列ではなく、そこに生きた人々の息遣いを捉えようとするものであったことを示しています。

黒羽清隆は、歴史教育のあり方を問い続けた教育者であり、研究者でした。彼の著作は、現在もなお、歴史を学ぶ上で重要な示唆を与え続けています。

主な著書リスト

『日本史教育の理論と方法』（地歴社、1972年。増補版1975年）
『日本史への招待』（大和出版販売［グリーン・ブックス］、1974年）
『日本史の森　ある歴史教育論の試み』（実教出版、1976年）
『日本史の群像』（三省堂選書、1977年）
『日中15年戦争』（教育社歴史新書 上・中・下、1977-1979年／ちくま学芸文庫、2024年）
『一問一答式日本史』（富士教育、1978年）
『十五年戦争史序説』（三省堂、1979年。三省堂選書 上・下、1984年）
『人物史でまなぶ日本の歴史』（地歴社、1980年）
『文化史でまなぶ日本の歴史』（地歴社、1981年）
『軍隊の語る日本の近代』上・下（そしえて文庫、1982年）
『歴史教育と教科書問題』（地歴社、1982年）
『見つめられてこそ人は生きられる　「自分」を生きるためのノート』（大和出版、1983年）
『日中戦争前史』（三省堂選書、1983年）
『十五年戦争と平和教育』（地歴社、1983年）
『生活史でまなぶ日本の歴史』（地歴社、1984年）
『太平洋戦争の歴史』（講談社［講談社現代新書］上・下、1985年／講談社学術文庫、2004年）
『歴史教育ことはじめ』（地歴社、1985年）
『鉄砲足軽ひとりごと抄　黒羽清隆講演・座談集』（地歴社、1987年）
（加藤正彦編）『昭和史』上・下（飛鳥、1989年）
（池ヶ谷真仁編）『日米開戦・破局への道　『木戸幸一日記』（1940年秋）を読む』（明石書店、2002年）
（池ヶ谷真仁編）『歴史を楽しむこと、歴史に参加すること黒羽清隆日本史入門講座』（明石書店、2005年）
(加藤正彦・八耳文之編)『黒羽清隆歴史教育論集　子どもとともに歴史を学び、歴史をつくる』（竹林館、2010年）

共編著

『史料を中心とした中学生の歴史』家永三郎共著（学生社　1959年）
『日本文化史の焦点』 芳賀登共編 （雄山閣出版 1963年）
『日本史百三十一話』 芳賀登共著 （雄山閣出版 1963年）
『新講日本史』家永三郎共著（三省堂　1967年。増補版1976年。上製版1976年。三訂版1986年）
『増補　歴史教育の資料と扱い方』加藤文三・鈴木亮・吉村徳蔵・槐一男共著（地歴社　1975年）
『歴史のとびら　授業の役に立つ話』吉村徳蔵・宮原武夫・梅津通郎共著（日本書籍　1982年）
『歴史のとびら２　授業の役に立つ話』吉村徳蔵共編著（日本書籍　1983年）
『歴史のとびら３　授業の役に立つ話』吉村徳蔵・大江一道・佐藤伸雄・鈴木亮共著（日本書籍　1984年）
* 『まんが日本の歴史　全12巻』加藤文三・吉村徳蔵共編（大月書店　1987年）

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