龍勝院

龍勝院（りゅうしょういん）

龍勝院は、戦国時代の女性であり、甲斐武田氏の当主・武田勝頼の正室として知られています。彼女は、武田信勝の母であり、その生涯は戦国時代の激動の中で、武田家と織田家の関係を象徴するものでした。

生い立ちと結婚

龍勝院の父は美濃国の国衆である苗木遠山氏の遠山直廉（苗木勘太郎）であり、母は織田信長の妹にあたります。つまり、龍勝院は信長の姪にあたり、信長の養女として武田家に嫁ぎました。この婚姻は、武田氏と織田氏という二つの有力な戦国大名家の同盟関係を強固にするためのものでした。

結婚までの背景

武田氏は、信玄の時代には北信濃を巡り上杉氏と争っていましたが、川中島の戦いを機に外交方針を転換しました。一方、織田信長は桶狭間の戦いで今川義元を討ち、今川氏は弱体化していました。武田氏は、信濃を通じて美濃と接しており、苗木遠山氏を介して織田氏との外交関係を築いていました。この時、苗木遠山氏は織田氏と武田氏の両方に属する関係にあり、武田氏と織田氏の関係は、今川氏という共通の敵を持つ中で友好的なものでした。

両家の関係を取り持ったのは、遠山氏の菩提寺である大圓寺の住職・希菴玄密、織田氏の政秀寺の沢彦、そして武田氏の大竜寺麟岳といった臨済宗の僧侶たちでした。これらの僧侶たちの尽力により、遠山氏を介して武田氏と織田氏の同盟が成立しました。

龍勝院が嫁いだ武田勝頼は、武田信玄の庶子で、信濃の旧族である高遠諏訪氏を継承していましたが、嫡男の義信が廃嫡されたため、武田家の後継者となっていました。龍勝院と勝頼の結婚は、『甲陽軍鑑』によれば、永禄8年（1565年）11月13日とされていますが、確かな記録は残っていません。

その後の生涯

『甲陽軍鑑』では、龍勝院は永禄10年（1567年）11月に信勝の出産時に難産で亡くなったとされていますが、これは誤りであると指摘されています。実際には、元亀2年（1571年）9月16日に亡くなったことが『織田家雑録』に記録されています。彼女の法名は竜勝院殿花萼春栄禅定尼であり、この名前から生前に出家していたと考えられています。勝頼は、龍勝院の死後、高野山成慶院に家臣を派遣し、供養を行っています。

龍勝院と勝頼の婚姻は、武田氏の外交方針の転換を象徴する出来事でした。この結婚の翌年には、武田氏は今川氏との同盟を解消し、駿河侵攻を開始しました。その後、武田氏は織田氏の同盟相手であった徳川家康と対立するようになりますが、元亀3年（1572年）までは織田氏との友好関係を維持していました。

勝頼は、後に北条氏政の妹を継室に迎えますが、龍勝院が産んだ信勝は武田家の後継者と定められ、元服後には勝頼の後見を受けました。しかし、天正10年（1582年）の織田・徳川連合軍による甲州征伐によって武田氏は滅亡し、信勝もその生涯を終えました。

龍勝院は、戦国時代の激動の中で、武田家と織田家の関係を繋ぐ重要な役割を果たした女性でした。彼女の短い生涯は、戦国時代の外交と権力闘争の一側面を映し出しています。

参考文献

柴辻俊六『武田勝頼』（新人物往来社、2003年）
丸島和洋「武田勝頼室」（柴辻俊六・平山優・黒田基樹・丸島和洋編『武田氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2015年）

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