希菴玄密

希菴玄密（きあんげんみつ）

希菴玄密は、生年不詳ながら、元亀3年11月26日（1572年12月30日）に没したとされる戦国時代末期の臨済宗の僧侶です。京都妙心寺の管長を五度も務め、快川国師と並び称されるほどの高僧として知られています。

生涯

京都で生まれた希菴は、建仁寺の月谷禅師に師事し出家、各地を巡って修行を重ねました。その後、雪嶺永瑾から文墨を学び、愚渓寺の明叔慶浚禅師に深く感銘を受け参禅、その法を継承しました。明叔禅師の命を受け、京都妙心寺の塔頭である大心院に入りました。

天文年間（1532年-1555年）には、飛騨の桜洞城主であった三木良頼によって、禅昌寺四世であった希菴玄密が開山として招かれ、東泉寺が開かれました。また、天文12、13年（1543年-1544年）頃には、美濃国の大圓寺の住持であった明叔慶浚の後任として、遠山荘の地頭である遠山景前に招かれ大圓寺に入りました。

当時、希菴は臨済宗を厚く保護していた武田信玄とも親交があり、信玄と遠山景前の仲介役も担っていました。しかし、弘治2年（1556年）に遠山景前が亡くなり、遠山景任が後を継ぐと、織田氏との関係が深まり始めました。その後、希菴は禅昌寺に移り、永禄元年（1558年）には、禅昌寺で遠山景前の三回忌法要を執り行いました。

永禄3年（1560年）には、勅命により大本山妙心寺に入り、管長職を五度も務め、その名声を高めました。また、雪江が定めた一住三年の制を一住一年へと改め、同門の僧侶たちの出世の道を開きました。

大圓寺は、遠山氏一族の菩提寺であり、永保寺、愚渓寺と共に東濃三名刹として知られています。また、禅昌寺は天下の十刹古禅寺として知られています。

永禄7年（1564年）には、武田信玄が菩提寺である恵林寺に希菴を迎え、信玄の生母である大井夫人の十三回忌法要を営みました。また、山梨県南部町の円蔵院に伝わる穴山信友の肖像には、希菴玄密による賛文が寄せられています。この賛文は永禄10年（1567年）のもので、永禄9年（1566年）の信友七回忌に際して、信友の子である穴山信君によって発注されたとされています。

恵林寺での法要後、希菴は再び妙心寺に戻り、その後、大圓寺へ再度迎えられました。

最期

元亀3年（1572年）、秋山虎繁率いる武田勢が岩村[[遠山氏]]の岩村城を包囲し、開城させました。信玄は、大圓寺にいた希菴に対し、恵林寺に戻るよう再三要請しましたが、希菴はこれを拒否しました。その返答として、「老來一枕黒聒餘、使者敲門頻起予、但恨風流賢守識、閑名幾度上除書」という詩を書き送ったとされます。この返答に激怒した信玄は、秋山虎繁に命じ、希菴の殺害と大圓寺の破壊を指示しました。

岩村城開城から約2週間後の11月26日、大圓寺への武田勢の攻撃を恐れた希菴は、寺を離れ、伊勢に向けて逃れました。しかし、虎繁は刺客として松澤源五郎、林甚助、小田切與助の3人を送り、飯羽間川にかかる橋の上で希菴一行を殺害しました。享年70歳前後であったとされています。付近には、希菴の墓とされる希菴塚が残っています。

希菴を殺害した3人は、半月も経たないうちに気が狂ったり、落馬して命を落としたと伝えられています。また、その五ヶ月後には信玄自身も亡くなったとされています。

甲陽軍鑑末書九品之九には、この事件について「関山宗の名和尚希菴と申すを、甲州へ御呼び候へども御越なきとて、信玄公秋山伯耆守に被仰付御ころし候。」と記されています。

東濃三大名刹の一つと言われた大圓寺は、約15ヘクタールもの広大な敷地を持ち、常時100名を超える修行僧がいたとされています。しかし、武田勢によって破壊され、仏像や庭園などの貴重な文化財、遠山氏累代の墓や過去帳、書物や絵画など全てが焼失しました。そのため、希菴の自賛頂相は残っていませんが、岐阜県下呂市の玉龍寺に残る「異本葛藤集」に、「金襴黒竹紫袈裟、伝受還陀老克家、真相元来是無相、儼然面目趙昌花、希菴和尚肖像自賛」という記述が残されています。

希菴には三法嗣がおり、それぞれ発展したため、希菴の法脈は現在も受け継がれています。

参考文献

『岩村町史』
『恵那郡史』
『中世美濃遠山氏とその一族』
臨済宗五山派・美濃大円寺興亡史　花園大学国際禅学研究所

関連リンク

臨済宗五山派・美濃大円寺興亡史　花園大学国際禅学研究所
『岩村町史』 9.大円寺（明覚山） - WAIP（国立国会図書館）

関連項目

大圓寺 (恵那市)
妙心寺
恵林寺
円蔵院 (山梨県南部町)
禅昌寺
快川紹喜

もう一度検索