龍角寺

千葉県最古の瓦葺寺院、龍角寺

龍角寺は、千葉県印旛郡栄町に位置する天台宗の寺院で、天竺山寂光院と号します。本尊は薬師如来であり、その歴史は7世紀にまで遡るとされる、関東地方でも屈指の古刹です。発掘調査によって7世紀の伽藍跡が検出されており、その創建の古さを物語っています。

伝説と歴史

『佐倉風土記』によると、和銅2年（709年）に竜女が現れ、金の薬師如来像を祀ったのが始まりとされています。その後、天平2年（730年）に釈命上人によって諸堂宇が再興されました。翌年、国中が旱魃に見舞われた際、釈命上人が雨乞いの法を説くと、印旛沼に住む小龍が現れ、自らの命を捧げて雨を降らせました。しかし、大龍の許しを得ずに雨を降らせたため、小龍は3つに裂かれてしまいました。その頭が落ちた地に龍角寺が建立され、腹と尾が落ちた地にはそれぞれ龍腹寺、龍尾寺が建てられたと伝えられています。

龍ケ崎市の地名も、この龍の伝説に由来するという説があります。龍が女に化けて現れ、雨を降らせて人々を救ったものの、その体が三つに裂けて落ちたという話が、各寺院の起源として語り継がれています。

古代寺院としての龍角寺

龍角寺は、伝説だけでなく、古代寺院としての確かな証拠も持っています。発掘調査により、南大門から中門を抜け、左手に金堂、右手に塔、奥に講堂が配置される法起寺式伽藍配置の遺構が発見されました。出土した創建瓦は、山田寺式の系譜を持つ軒丸瓦で、7世紀後半の古い様式を示すものです。これらの発見から、龍角寺は国造制から律令制への移行期に、印波国造の領域に建立された初期寺院であり、畿内以外では最古級の寺院と考えられています。

また、寺の南には、最後の前方後円墳とされる浅間山古墳や、畿内の大王陵を凌駕する規模の龍角寺岩屋古墳があります。龍角寺岩屋古墳は、蘇我氏との深い関係を示す終末期古墳であり、その規模や構造から、蘇我氏が造営に関わっていた可能性が指摘されています。龍角寺の創建瓦も蘇我氏系の山田寺式の瓦を採用していることから、龍角寺の造立者も蘇我氏系の氏族であったとする見方があります。

中世以降の龍角寺

中世には一時衰退した龍角寺ですが、承久2年（1220年）に上総介平常秀によって再建されました。その後も、度重なる焼失を経て、千葉勝胤によって再興されました。戦国時代には千葉氏の庇護を受け、天正年間には千葉邦胤が修造しました。江戸時代には徳川家康から寺領として20石を与えられています。

現在の境内には古い建物は残っていませんが、金堂跡や仁王門跡、塔跡などが、かつての寺の姿を偲ばせます。

境内

境内には、本堂のほか、文化財を収蔵する奉安殿や、明治初期に建てられた校倉造りの資料庫などが点在しています。また、塔の心礎は「不増・不滅の石」として知られ、その不思議な伝説が語り継がれています。

文化財

龍角寺には、多くの文化財が保存されています。

重要文化財（国指定）

銅造薬師如来坐像： 頭部は白鳳期の作で、体部は元禄5年（1692年）の火災後に再鋳されました。関東地方に残る白鳳期の仏像として、貴重な存在です。

国の史跡

龍角寺境内ノ塔阯： 花崗岩製の三重塔の心礎が残っています。

千葉県指定文化財

龍角寺出土遺物： 1934年（昭和9年）の塔跡保存工事で発掘された、奈良時代前期の瓦などがあります。

その他

校倉作り資料庫： 明治初期に宮内庁下総御料牧場にあったものを移築したものです。

龍角寺は、古代から中世、そして現代へと続く、歴史と文化の重層的な奥行きを感じさせる場所です。訪れる人々は、その伝説と歴史に触れ、いにしえの息吹を感じることでしょう。

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