12世紀ルネサンス (ハスキンズ)
『12世紀ルネサンス』は、アメリカの歴史家チャールズ・ホーマー・ハスキンズによって1927年に発表された著作です。この著作は、中世史における12世紀という時代を、単なる暗黒時代ではなく、知的・文化的な復興期、すなわち「ルネサンス」として捉え直し、歴史研究に新たな視点をもたらしました。
チャールズ・ホーマー・ハスキンズ（1870-1937）は、中世史研究の第一人者であり、アメリカを代表する歴史家の一人です。1870年にペンシルベニア州で生まれ、ジョンズ・ホプキンス大学を卒業後、パリやベルリンで留学し、中世文化史の研究に打ち込みました。ウィスコンシン大学、ハーバード大学で教鞭を執り、1937年にマサチューセッツ州ケンブリッジで生涯を閉じました。彼の著作は、中世史研究に多大な影響を与え、特に本書は彼の代表作として知られています。
本書は、12世紀におけるヨーロッパの文化的、知的変革を多角的に考察しています。
1. 歴史的背景: 11世紀から12世紀にかけて、ヨーロッパでは様々な変化が起こりました。医学の中心地であったサレルノ医学校、ローマ法の『学説彙纂』の再発見、カロリング朝の伝統を引き継ぐフランスの学問などが、その背景にありました。
2. 知的中心地: それまで中世初期の知的中心であった修道院に代わり、12世紀には司教座聖堂とその付属学校が新たな知的拠点となりました。特にフランスのシャルトル、オルレアン、パリ、イギリスのカンタベリー、スペインのトレドなどが重要な役割を果たしました。
3. 書物と書庫: 当時の書物は、寄贈、購入、あるいはその場での作成によって入手されました。一般的な蔵書には、聖書、典礼書、教父たちの著作、7自由学芸関連書、法令集などが含まれていました。
4. ラテン語古典の復活: 古典研究は司教座聖堂付属学校が中心となり、特にシャルトル学派やオルレアンが活躍しました。ウェルギリウスやオウィディウスが詩人として、キケロが散文家として高く評価され、ソールズベリーのヨハネスが古典復活を代表する人物として知られています。
5. ラテン語: 12世紀には、比較的整ったラテン語が使われており、学問的な文学鑑賞や文法研究の面で中世の頂点と見なされています。
6. ラテン語の詩: 古典模倣詩ではトゥールの大司教ヒルデベルトゥスが、宗教詩ではアベラルドゥス（アベラール）が活躍しました。世俗叙情詩はゴリアルディ（遊歴書生）らによって作られました。
7. 法学の復活: 11世紀にイタリアでローマ法の『学説彙纂』が再発見され、イルネリウスが註釈を施し、ボローニャ大学で講義を行いました。彼の弟子たちは註釈学派として知られています。
8. 歴史の叙述: 当時の歴史家としては、フランスのオルデリクス・ウィタリス、ドイツのフライジングのオットーが挙げられます。また、アベラルドゥスの自伝『災厄の記』は、貴重な史料となっています。
9. ギリシア語・アラビア語からの翻訳: 11世紀末にトレドやパレルモがキリスト教圏に入ったことで、アラビア語の知識が吸収され始めました。クレモナのゲラルドゥスがアラビア語文献の翻訳に尽力し、科学・哲学書が主に翻訳されました。ピサのブルグンディオはギリシア語原典からの翻訳者として知られています。
10. 科学の復興: ゲラルドゥスらによって、エウクレイデスの『幾何学原論』、プトレマイオスの『アルマゲスト』、アリストテレスの自然学書、ガレノスの著作などが翻訳されました。また、サレルノ医学校では独自の医学書も作られました。
11. 哲学の復興: 12世紀には、アリストテレスの論理学書（オルガノン）が全てラテン語に翻訳されました。アンセルムスやアベラルドゥスは、論理学に基づいた神学の記述を試み、その影響は13世紀のトマス・アクィナスによる神学体系の構築に繋がりました。
12. 大学の起源: 法律学校が発展してボローニャ大学となり、学生組織によって運営されました。パリ大学はノートルダム司教座聖堂付属学校が起源です。イングランドのオックスフォード大学の起源は不明です。
本書は、以下の複数の日本語訳が存在します。
『十二世紀ルネサンス』野口洋二訳、創文社 名著翻訳叢書 1985
『十二世紀ルネサンス』別宮貞徳、朝倉文市訳、みすず書房 1989、新版2007ほか
新版『十二世紀のルネサンス ヨーロッパの目覚め』講談社学術文庫 2017
『大学の起源』青木靖三、三浦常司訳、法律文化社 1970／社会思想社・現代教養文庫 1977／八坂書房 2009
『12世紀ルネサンス』は、12世紀という時代を単なる中世の一時期ではなく、文化的なルネサンスとして捉えた画期的な著作であり、中世史研究に大きな影響を与えました。本書は、12世紀の知的、文化的活動を多角的に分析することで、中世ヨーロッパの複雑な歴史を理解するための重要な鍵を提供しています。
著者：チャールズ・ホーマー・ハスキンズ
チャールズ・ホーマー・ハスキンズ（1870-1937）は、中世史研究の第一人者であり、アメリカを代表する歴史家の一人です。1870年にペンシルベニア州で生まれ、ジョンズ・ホプキンス大学を卒業後、パリやベルリンで留学し、中世文化史の研究に打ち込みました。ウィスコンシン大学、ハーバード大学で教鞭を執り、1937年にマサチューセッツ州ケンブリッジで生涯を閉じました。彼の著作は、中世史研究に多大な影響を与え、特に本書は彼の代表作として知られています。
内容の概要
本書は、12世紀におけるヨーロッパの文化的、知的変革を多角的に考察しています。
1. 歴史的背景: 11世紀から12世紀にかけて、ヨーロッパでは様々な変化が起こりました。医学の中心地であったサレルノ医学校、ローマ法の『学説彙纂』の再発見、カロリング朝の伝統を引き継ぐフランスの学問などが、その背景にありました。
2. 知的中心地: それまで中世初期の知的中心であった修道院に代わり、12世紀には司教座聖堂とその付属学校が新たな知的拠点となりました。特にフランスのシャルトル、オルレアン、パリ、イギリスのカンタベリー、スペインのトレドなどが重要な役割を果たしました。
3. 書物と書庫: 当時の書物は、寄贈、購入、あるいはその場での作成によって入手されました。一般的な蔵書には、聖書、典礼書、教父たちの著作、7自由学芸関連書、法令集などが含まれていました。
4. ラテン語古典の復活: 古典研究は司教座聖堂付属学校が中心となり、特にシャルトル学派やオルレアンが活躍しました。ウェルギリウスやオウィディウスが詩人として、キケロが散文家として高く評価され、ソールズベリーのヨハネスが古典復活を代表する人物として知られています。
5. ラテン語: 12世紀には、比較的整ったラテン語が使われており、学問的な文学鑑賞や文法研究の面で中世の頂点と見なされています。
6. ラテン語の詩: 古典模倣詩ではトゥールの大司教ヒルデベルトゥスが、宗教詩ではアベラルドゥス（アベラール）が活躍しました。世俗叙情詩はゴリアルディ（遊歴書生）らによって作られました。
7. 法学の復活: 11世紀にイタリアでローマ法の『学説彙纂』が再発見され、イルネリウスが註釈を施し、ボローニャ大学で講義を行いました。彼の弟子たちは註釈学派として知られています。
8. 歴史の叙述: 当時の歴史家としては、フランスのオルデリクス・ウィタリス、ドイツのフライジングのオットーが挙げられます。また、アベラルドゥスの自伝『災厄の記』は、貴重な史料となっています。
9. ギリシア語・アラビア語からの翻訳: 11世紀末にトレドやパレルモがキリスト教圏に入ったことで、アラビア語の知識が吸収され始めました。クレモナのゲラルドゥスがアラビア語文献の翻訳に尽力し、科学・哲学書が主に翻訳されました。ピサのブルグンディオはギリシア語原典からの翻訳者として知られています。
10. 科学の復興: ゲラルドゥスらによって、エウクレイデスの『幾何学原論』、プトレマイオスの『アルマゲスト』、アリストテレスの自然学書、ガレノスの著作などが翻訳されました。また、サレルノ医学校では独自の医学書も作られました。
11. 哲学の復興: 12世紀には、アリストテレスの論理学書（オルガノン）が全てラテン語に翻訳されました。アンセルムスやアベラルドゥスは、論理学に基づいた神学の記述を試み、その影響は13世紀のトマス・アクィナスによる神学体系の構築に繋がりました。
12. 大学の起源: 法律学校が発展してボローニャ大学となり、学生組織によって運営されました。パリ大学はノートルダム司教座聖堂付属学校が起源です。イングランドのオックスフォード大学の起源は不明です。
日本語訳
本書は、以下の複数の日本語訳が存在します。
『十二世紀ルネサンス』野口洋二訳、創文社 名著翻訳叢書 1985
『十二世紀ルネサンス』別宮貞徳、朝倉文市訳、みすず書房 1989、新版2007ほか
新版『十二世紀のルネサンス ヨーロッパの目覚め』講談社学術文庫 2017
関連文献
『大学の起源』青木靖三、三浦常司訳、法律文化社 1970／社会思想社・現代教養文庫 1977／八坂書房 2009
結論
『12世紀ルネサンス』は、12世紀という時代を単なる中世の一時期ではなく、文化的なルネサンスとして捉えた画期的な著作であり、中世史研究に大きな影響を与えました。本書は、12世紀の知的、文化的活動を多角的に分析することで、中世ヨーロッパの複雑な歴史を理解するための重要な鍵を提供しています。
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