12世紀ルネサンス

12世紀ルネサンスとは

12世紀ルネサンスは、ヨーロッパ中世の12世紀に起こった文化復興運動です。一般的にルネサンスというと14世紀にイタリアで始まったものを指しますが、それ以前の中世にも、古典文化の復興と文化的な高揚が見られました。この12世紀の動きは、中世を「暗黒時代」と捉え、ルネサンスと中世を断絶したものとみなす従来の歴史観を相対化し、中世、近世、近代の連続性を強調するものです。

アメリカの歴史家チャールズ・ホーマー・ハスキンズが1927年に著した『12世紀ルネサンス』で提唱し、現在では様々な分野でその重要性が再評価されています。

12世紀ルネサンスの諸相

大翻訳時代

12世紀ルネサンスの重要な特徴の一つに、大翻訳時代と呼ばれる翻訳活動の活発化があります。イスラムやビザンツを経由して伝えられた古典の文献がラテン語に翻訳され、ヨーロッパの知的な発展に大きな刺激を与えました。

翻訳の中心地:
シチリア王国パレルモ: オートヴィル朝のノルマン系シチリア王国の首都として、フェデリーコ2世の宮廷でアラビア語やギリシャ語の文献がラテン語に翻訳されました。
カスティーリャ王国トレド: レコンキスタでイスラム勢力から奪還されたトレドでは、トレド大司教ライムンドの支援のもと、「トレド翻訳学派」が形成されました。

主な翻訳者と訳書（ラテン語訳）:
アラビア語からの翻訳:
クレモナのジェラルド: プトレマイオス『アルマゲスト』、アリストテレス『分析論後書』『天体論』『気象論』、アルキメデス『円の求蹟』、アル＝フワーリズミー『代数学』、アル＝キンディー『五本質論』、イブン・スィーナー『医学典範』、ヒポクラテス『箴言』、ガレノス『テグニ』など
カリンティアのヘルマン: エウクレイデス『原論』など
バースのアデラード: エウクレイデス『原論』、アル=フワーリズミー『インド数学について』『天文表』など
チェスターのロバート: 『クルアーン』、アル=フワーリズミー『天文表』など
セビリャのフアン: アル＝キンディー『知性論』、アル＝ファルガーニー『天の運動について』、イブン・スィーナー『治癒の書』、アル＝ガッザーリー『哲学者たちの意図』など
ドミンゴ・グンディサルボ: アル＝ファーラービー『諸学総覧』
ギリシア語からの翻訳:
ヘンリクス・アリスティップス: アリストテレス『気象論』（第四巻）、プラトン『メノン』『パイドン』など
ヴェネツィアのジャコモ: アリストテレス『分析論前書』『分析論後書』『トピカ』など
サレルノのエルマンノ: エウクレイデス『光学』『反射光学』『与件』など
ピサのブルグンディオ: ヒポクラテス『箴言』、ガレノス『テグニ』など


学問の隆盛

学問分野では、アベラールの弁証論がスコラ学の基礎となり、後にトマス・アクィナスによって大成されました。大学が各地に設立され、ボローニャ大学、パリ大学、オックスフォード大学などが誕生しました。

シャルトル大聖堂の附属学校では、自由七科（文法、論理学、修辞学、算術、幾何、天文、音楽）を基盤に、プラトンの思想と聖書の思想を統合しようとする「シャルトル学派」が形成されました。

美術の変遷

美術分野では、ロマネスク美術からゴシック美術への移行が見られました。古代ローマの遺跡が多く残るプロヴァンス地方では、ロマネスク建築や彫刻が発展し、サン・ジルなどが代表的です。ゴシック建築はサン＝ドニ修道院で始まりました。

文学の発展

文学では、騎士道物語が盛んになり、宮廷では吟遊詩人が騎士の武勲や恋愛の物語を語り伝えました。イングランドでは「アーサー王物語」、フランスでは「ローランの歌」や「トリスタンとイゾルデ」、ドイツでは「ニーベルンゲンの歌」などがまとめられました。

また、教会音楽の発展も著しく、12-13世紀にかけてポリフォニーが発達しました。

日本語書籍

チャールズ・H・ハスキンズ、別宮貞徳、朝倉文市訳「十二世紀ルネサンス」みすず書房、1989年、新版2007年ほか
「十二世紀のルネサンス　ヨーロッパの目覚め」同訳、講談社学術文庫、2017年
「十二世紀ルネサンス」野口洋二訳、創文社〈名著翻訳叢書〉、1985年。別訳
ハスキンズ『大学の起源』青木靖三、三浦常司訳、八坂書房、2009年
伊東俊太郎「十二世紀ルネサンス　西欧世界へのアラビア文明の影響」講談社学術文庫、2006年
「伊東俊太郎著作集」〈麗澤大学出版局〉にも収録。
ジャック・ヴェルジェ、野口洋二訳「入門 十二世紀ルネサンス」創文社、2001年
「十二世紀ルネサンス　修道士、学者、そしてヨーロッパ精神の形成」デイヴィッド・ラスカム　鶴島博和ほか編訳、慶應義塾大学出版会　2000年

関連項目

中世
ルネサンス
* ギリシア古典の伝播

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