1936年の航空

1936年の航空



1936年は、航空の歴史において技術革新と国際情勢の変化が交錯する重要な一年となりました。新型機の開発が相次ぎ、空の旅の可能性が大きく広がる一方で、迫り来る戦火は航空機が果たす役割を大きく変え始めました。

この年、世界の航空産業は数多くの革新的な機体を生み出しました。アメリカでは初の本格的な急降下爆撃機、ヴォート SB2U ヴィンディケーターが初飛行。ドイツでは、後の主力爆撃機となるHeinkel He 111の大量生産がスタートし、メッサーシュミット Bf110双発戦闘機の原型機も飛び立ちました。イギリスからは、伝説となるスーパーマリン スピットファイアの原型機や、フェアリー バトル、アームストロング・ウィットワース ホイットレー、ビッカース ウェリントン、ブリストル ブレニムといった爆撃機群が登場しました。さらに、ドイツの連絡機フィーゼラー Fi 156 シュトルヒや、世界初の本格的な実用ヘリコプターとされるフォッケウルフ Fw 61もこの年にその姿を見せています。長距離飛行の需要に応えるため、イギリスのショート S.23 エンパイア飛行艇が初飛行するなど、用途に応じた多様な航空機が開発されたのです。年末には、後のドイツ空軍の主力機となるユンカース Ju 88爆撃機や、ソ連のANT-42（後のPe-8）重爆撃機も初飛行を果たしています。

技術の進歩は、パイロットたちによる記録への挑戦を後押ししました。アメリカのハワード・ヒューズは、ロサンゼルスとニューヨーク間を9時間26分という驚異的な速度で飛行しました。ソ連のヴァレリー・チカロフらは、ANT-25でモスクワからカムチャツカ半島まで9,374kmの長距離飛行を成功させました。フランスのアンドレ・ジャピーは、パリ・アルジェ間の往復飛行で速度記録を樹立し、パリ・モスクワ間の往復飛行も行いました。特に注目されたのは、イギリスのベリル・マーカムです。彼女はパーシヴァル ガルで大西洋を単独で西向きに横断した最初の女性パイロットとなり、その冒険は多くの人々に勇気を与えました。また、イギリスのブリストル 138は15,223mという高高度飛行の世界記録を樹立しています。変わった試みとしては、イタリアで設計された人力飛行機ボッシ＝ボノミ ペダリアンテが、カタパルトの助けを借りて飛行に成功したことも記録されています。

一方、この年の出来事は、航空機が国際紛争においていかに重要な役割を担うようになるかをはっきりと示しました。7月に勃発したスペイン内戦では、ドイツがユンカース Ju 52輸送機を用いてモロッコからセビリアへ約1,500人の兵士を空輸し、大規模な空輸作戦の先駆けとなりました。内戦初期には、ナショナリスト空軍のホアキン・ガルシア＝モラトが最初の撃墜記録を樹立するなど、空中戦の時代が到来したことを予感させました。ソ連製のポリカールポフ I-15戦闘機が内戦に投入され、ドイツは後に悪名高くなるコンドル軍団を編成しました。また、イタリア空軍はエチオピアのアディスアベバを爆撃するなど、航空機が攻撃手段として使用される事例も見られました。

民間航空の分野でも、着実な進歩が見られました。アメリカン航空はダグラス DC-3の運用を開始し、民間航空輸送の効率を飛躍的に向上させました。パンアメリカン航空はサンフランシスコとマニラを結ぶ太平洋横断定期便を開設し、世界的な航空ネットワークの構築に向けた重要な一歩を踏み出しました。アイルランドでは新航空会社エアリンガスが設立され、ロンドンではガトウィック空港が第二の玄関口として開設されました。フランスではカサブランカとナンシーを結ぶ長距離航路が開設されるなど、世界の主要都市を結ぶ空の道が次々と開かれました。一方で、南大西洋横断飛行の先駆者ジャン・メルモーズが24回目の横断飛行中に消息を絶つという悲劇も発生し、長距離飛行の危険性を改めて認識させました。しかし、民間航空機を乗り継いで世界一周を達成したジャーナリストの存在は、空の旅が一般化しつつある時代の流れを象徴しています。

この年には、ロンドン・ヨハネスブルグ間のエアレースが開催されるなど、航空への関心は高まる一方でした。フランス航空業界の一部国有化や、日本の恵通航空設立といった業界再編の動きも見られました。そして、年の終わりには、ハワード・ヒューズやジーン・バテンといった著名な飛行家たちが、航空分野での功績を称えるハーモン・トロフィーなどを受賞しています。

1936年は、まさに航空が軍事、商業、冒険の全ての面でその重要性を増し、来るべき激動の時代に向けて準備を進めていた年と言えるでしょう。

1936年に初飛行した主な機体


航空に関する主な受賞者（1936年）


（注：この情報は1936年の主要な出来事の一部を抜粋したものです。）

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