1943年の航空

1943年は、第二次世界大戦の戦局が激化する中で、航空技術と航空戦術が飛躍的な進歩を遂げた極めて重要な一年となりました。各国の航空戦力が拡充されるとともに、新たな兵器や戦法が次々と実戦に投入され、空の戦いの様相が大きく変化したのです。

年明け早々、戦略爆撃の新たな段階が幕を開けました。1月27日には、アメリカ陸軍航空隊がドイツ本土に対する初の昼間精密爆撃を開始。これに続き、1月30日にはイギリス空軍の高速爆撃機デ・ハビランドモスキートがベルリンへの昼間攻撃を敢行し、敵国の首都へ白昼堂々打撃を与える能力を示しました。夏の攻勢では、6月24日から25日にかけてのハンブルク空襲（ゴモラ作戦）において、イギリス空軍はドイツ軍のレーダーを欺く目的で、アルミ箔片を散布する「ウィンドウ」（チャフ）を史上初めて実戦投入し、爆撃の効果を高めることに成功しました。また、長距離爆撃の事例としては、8月1日、アメリカ陸軍航空隊のB-24 リベレーター爆撃機隊が、リビアからルーマニアのプロイェシュティ油田を攻撃するタイダルウェーブ作戦を決行し、枢軸国の燃料供給網に打撃を与えようとしました。

技術開発においても、1943年は目覚ましい進展がありました。イギリスではジェット戦闘機の実用化に向けた動きが加速し、3月5日には初のジェット戦闘機となるグロスターミーティアのプロトタイプが初飛行。さらに9月20日には、同国で2番目のジェット戦闘機となるデ・ハビランドバンパイアの原型機もその姿を現しました。ドイツでもジェット機開発が進み、6月15日には世界初のジェット推進爆撃機であるアラドAr234 ブリッツがテスト飛行に成功しています。また、イタリアでも新たな戦闘機の開発が進められ、8月には試作機カプロニ・ヴィッツォーラ F.6Zが初飛行を行いました。これらの航空機は、まだ実戦配備には時間を要するものもありましたが、その後の航空機の高速化や多様化の時代を予感させるものでした。

また、この年は誘導兵器が初めて実戦で大きな成果を上げました。8月17日には、ドイツが開発した動力付き誘導爆弾Hs 293が投入され、連合軍艦艇に損害を与え始めました。さらに9月9日には、イタリア降伏後にドイツ軍が無線誘導爆弾フリッツXを用いて、イタリア戦艦ローマを撃沈するという衝撃的な出来事が発生。これは精密誘導兵器の破壊力をまざまざと見せつけるものでした。

戦局の中で記憶される特殊作戦も敢行されています。5月17日から18日にかけて、イギリス空軍第617飛行中隊は、特別に改造されたアブロランカスター爆撃機を用いてドイツのダムを破壊するチャスタイズ作戦（ダムバスター作戦）を実施。また、9月12日には、イタリアで身柄を拘束されていたムッソリーニを救出するグラン・サッソ襲撃が、フィーゼラーFi 156などの航空機を活用して遂行されました。

航空戦の激化は、多くの人命や機体を犠牲としました。4月18日には、日本の連合艦隊司令長官であった山本五十六の搭乗する一式陸上攻撃機が、アメリカ陸軍航空隊のP-38戦闘機によってブーゲンビル島上空で撃墜され、日本軍に大きな衝撃を与えました。8月1日には、ソビエト労農赤軍航空隊の女性エースパイロット、リディア・リトヴァクが空戦により命を落としています。また、7月18日にはアメリカ海軍の飛行船K-74がドイツ潜水艦により撃墜されており、これは第二次世界大戦中に敵の攻撃によって失われた唯一の飛行船となりました。

航空技術の進歩は、戦場だけでなく、他の分野にも影響を与え始めていました。7月27日には、アメリカ空軍のパイロットがAT-6練習機でハリケーンの中心部へ向かう飛行を初めて試み、これが後の気象観測飛行の契機となりました。また、6月21日には、イギリスで適切なテストパイロットを育成するための帝国テストパイロット学校が設立されるなど、航空技術のさらなる発展を支える体制も整えられました。さらに、9月22日から24日には、エルンスト・ヤクマンが単座グライダーで長時間（55時間51分）の飛行記録を樹立するなど、非動力飛行の可能性も探求されています。

このように、1943年は第二次世界大戦の進展と密接に関連しながら、航空技術、戦術、そしてそれを取り巻く人々の活動において、極めて多様で重要な出来事が数多く発生した、航空史における画期的な一年と言えるでしょう。

もう一度検索