1958年の日本競馬

1958年（昭和33年）は、日本の競馬界にとって、国際的な挑戦、施設の近代化、そして新たな組織の発足など、多岐にわたる重要な出来事が記録された年でした。ここでは、当時の旧馬齢表記に基づき、この年の日本競馬界の概況をまとめます。

画期的な海外挑戦

この年の最も大きなトピックの一つは、日本のトップホース、ハクチカラによるアメリカ合衆国への遠征でした。主戦騎手であった保田隆芳とともに太平洋を渡ったハクチカラは、現地のハリウッドパーク競馬場やデルマー競馬場で数々のレースに出走しました。この試みは、日本馬が世界の舞台に挑む国際競走進出のパイオニアとなり、その後の海外遠征への道を切り開く画期的な出来事として後世に語り継がれています。保田騎手は同年秋に帰国しましたが、ハクチカラはその後もアメリカに留まり、翌1960年の年明けに帰国しました。

主な出来事

1958年には、競馬を取り巻く環境整備や体制強化が進められました。年明けの1月には、中央競馬馬主相互会が設立され、馬主の活動を支援する体制が整いました。また、中山競馬場が開設30周年を迎え、記念式典が盛大に挙行されました。都心では銀座場外発売所が改築され、ファンサービスの向上に努めました。国際交流も行われ、アメリカの州競馬委員会全国協会の総会に日本中央競馬会の関係者が招待されています。

春には中山競馬場で厩務員によるストライキが発生し、レースの発走が一時遅れるというアクシデントもありましたが、競馬場の整備は着実に進みました。東京競馬場には美しいローズガーデンが新たに完成し、来場者の憩いの場となりました。5月に開催された第25回東京優駿には、国賓としてマラヤ連邦首相トゥンク・アブドゥル・ラーマンをはじめ、多くのIOC委員や各国大公使、さらには岸信介首相ら国内要人が観覧に訪れ、日本ダービーが国際的な注目を集めました。

夏にかけては、全国の主要競馬場の施設がリニューアルされました。福島競馬場、札幌競馬場でスタンドの改築工事が完了したほか、第二次世界大戦中の金属回収令で屋根が撤去されていた京都競馬場のスタンド屋根も復旧工事が完了し、歴史的な姿を取り戻しました。秋には、日本中央競馬会健康保険組合が設立され、競馬関係者の福利厚生の充実が図られました。

年末の12月には、イギリスからマイナーズランプとオーブリオンという2頭の輸入種牡馬が横浜港に到着し、日本のサラブレッド生産の質向上に貢献することが期待されました。また、社団法人競走馬育成協会が設立され、競走馬の育成環境の整備が進みました。都市部では渋谷場外馬券発売所が竣工し、馬券購入の利便性が向上しました。一方で、岡山県の岡山競馬場はこの年に廃止されたことも記録されています。

主要な競走成績

1958年の中央競馬では、クラシック路線をはじめとする主要なレースで、多くの名馬たちが激闘を繰り広げました。春の牝馬クラシックである桜花賞はホウシユウクインが、優駿牝馬（オークス）はミスマルサがそれぞれ優勝。牡馬クラシックは、皐月賞をタイセイホープが制し、日本ダービーの栄冠はダイゴホマレの手に渡りました。秋の菊花賞はコマヒカリが勝利し、三冠レースが完結しました。古馬の最高峰レースである天皇賞は、春の盾をオンワードゼアが、秋の盾をセルローズが獲得。そして年末を締めくくる有馬記念は、天皇賞（春）勝ち馬のオンワードゼアが再び優勝し、この年の競馬界を代表する存在となりました。障害競走では、ケニイモアが中山大障害の春秋連覇という偉業を達成しています。

啓衆社賞表彰馬

この年の活躍馬は、啓衆社賞によって称えられました。年度代表馬には、天皇賞（春）と有馬記念を制したオンワードゼアが選ばれ、同時に最優秀5歳以上牡馬も受賞しました。各部門の最優秀馬は以下の通りです。

最優秀3歳牡馬: ウネビヒカリ
最優秀3歳牝馬: キヨタケ
最優秀4歳牡馬: ダイゴホマレ
最優秀4歳牝馬: ミスマルサ
最優秀5歳以上牝馬: セルローズ
最良スプリンター: ヒシマサル
最優秀障害馬: ケニイモア
最優秀アラブ: シユンエイ

新たな命と別れ

1958年には、後に1961年のクラシック戦線などで活躍する多くの競走馬が誕生しました。アズマテンラン、ムーティエ、シンツバメ、スギヒメ、チトセホープ、ハクシヨウ、クリヒデ、リユウライト、シプリアニ、コランディアなどがこの年の生まれです。また、競馬界を支えた人々の中にも、新たな顔ぶれが加わりました。大井競馬の土屋薫騎手、JRAの石栗龍彦、川村禎彦、服部利之といった調教師、そして昆貢、秋田実、安藤賢一、東田幸男、原口次夫といった騎手（後に調教師）がこの年に誕生しています。一方で、日本中央競馬会の顧問を務めた安田伊左衛門氏や、名種牡馬として知られるキタノオーがこの世を去り、競馬界に別れを惜しみました。

1958年は、ハクチカラの海外遠征という歴史的な一歩を踏み出し、施設の近代化や組織再編も進められた、日本競馬がさらなる発展を目指す上での基盤が固められた一年でした。多くの名馬の活躍とともに、様々な出来事がこの年の記録に刻まれています。

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