1959年の文学

1959年の文学界

1959年（昭和34年）は、国内外で様々な文学的な出来事が展開された年でした。新たな才能が評価され、ジャンル文学を代表する雑誌が誕生し、記憶に残る作品が多数発表される一方で、文学史に名を刻む巨星たちが惜しまれつつ世を去りました。

重要な出来事

この年、日本の文学界では二つの注目すべき雑誌が産声をあげました。

1959年6月22日には、サスペンスやミステリーの専門誌として『ヒッチコック・マガジン』が創刊されました。発行は宝石社、初代編集長は中原弓彦（後の都筑道夫）が務め、多くの読者に刺激的な物語を提供しました。
同年12月25日には、日本SF界にとって画期的な出来事として、『S-Fマガジン』が早川書房より創刊されています。初代編集長は福島正実が務め、黎明期の日本SFを牽引する存在となりました。

また、文学賞の動向も活発でした。年に二度行われる芥川龍之介賞と直木三十五賞の選考会が、それぞれ1月と7月に開催されています。

文学賞の発表

1959年には、前年下半期分とこの年上半期分の芥川賞・直木賞を含む、国内外の重要な文学賞が発表されました。

日本国内の受賞

第40回（1958年下半期）芥川賞・直木賞（1月）
芥川賞は残念ながら該当作品なしとなりました。
直木賞は、城山三郎の「総会屋錦城」と、多岐川恭の「落ちる」「ある脅迫」「笑う男」が受賞しました。
第41回（1959年上半期）芥川賞・直木賞（7月）
芥川賞には、斯波四郎の「山塔」が選ばれました。
直木賞は、渡辺喜恵子の小説『馬淵川』と、平岩弓枝の短編「鏨師」が受賞しました。
才能ある新人を発掘する群像新人文学賞（第2回）は、残念ながらこの年は該当作品なしでした。

日本国外の受賞

世界的に最も権威ある文学賞の一つであるノーベル文学賞は、イタリアの詩人であるサルヴァトーレ・クァジモドに授与されました。
フランスの主要な文学賞であるゴンクール賞（1958年度の選考が1959年に行われたもの）は、フランシス・ウォルダーの小説『Saint-Germain ou la Négociation』が受賞しました。

注目すべき出版物

1959年には、現在も読み継がれる多くの重要な作品が世に送り出されました。特に小説分野では、国内外から話題作が登場しています。

小説

ダニエル・キイスによる中編版『アルジャーノンに花束を』：知的障害を持つ青年が驚異的な知能を得る過程を描き、読者に深い感動と問いかけを与えました。
フランソワーズ・サガンの『ブラームスはお好き』：フランスの若い女性作家による、恋愛の機微を描いたベストセラーです。
ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』：第二次世界大戦中のドイツを舞台にした、マジックリアリズムの傑作として名高い作品です。
カート・ヴォネガットの『タイタンの妖女』：独特のユーモアとペーソスで宇宙の旅を描いたSF小説です。
フィリップ・ロスの『さようならコロンバス』：ユダヤ系アメリカ人の青年を主人公にした、社会性の高い短編集です。
松本清張の『小説帝銀事件』：綿密な取材に基づき、未解決の事件に迫るノンフィクションノベルの先駆けとも言える作品です。

その他

高見順の『高見順日記』：作家自身の内面や当時の文学状況を知る上で貴重な資料です。
野村胡堂の『胡堂百話』：作家自身の経験や見聞に基づいた様々なエピソードが収められています。

文学界を去った人々

1959年には、数々の著名な作家や文学者が逝去し、文学界は大きな損失を被りました。

2月28日には、米国の劇作家であるマクスウェル・アンダーソンが74歳で亡くなりました。『高き壁』などの作品で知られます。
3月26日、ハードボイルド小説の大家、米国のレイモンド・チャンドラーが70歳でこの世を去りました。『長いお別れ』など、彼の作品は後世に大きな影響を与えています。
4月8日には、近代日本俳句の重鎮、高浜虚子が85歳で逝去しました。「ホトトギス」を主宰し、多くの門下を育てました。
4月9日、フランスの画商であり、『ジルとジム』などの小説も手がけたアンリ＝ピエール・ロシェが79歳で亡くなりました。
4月30日、日本近代文学史に孤高の存在として君臨する小説家、永井荷風が79歳で逝去しました。『墨東綺譚』など、耽美的な作風で知られます。
6月23日には、フランスの多才な作家、詩人、音楽家であったボリス・ヴィアンがわずか39歳で急逝しました。『日々の泡』などの作品で知られます。
8月1日、フランスの小説家フランシス・ド・ミオマンドルが79歳で亡くなりました。
* 10月8日には、歌人であり国文学者でもあった佐佐木治綱が50歳で逝去しました。

1959年は、新たな文学の潮流が生まれ、多様な作品が生み出される一方で、多くの偉大な作家が歴史に名を残しつつ旅立っていった、変化に富んだ一年であったと言えるでしょう。

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