1968年イギリスグランプリ

1968年イギリスグランプリ：悲劇と栄光の舞台裏

1968年7月20日、イギリスのブランズ・ハッチ・サーキット。F1世界選手権第7戦、1968年イギリスグランプリが開催されました。このレースは、ジョー・シフェールという、当時まだ無名だったドライバーにとって、そして彼を擁するロブ・ウォーカー・レーシングチームにとっても、歴史的な転換点となりました。

悲しみの影と技術革新

この1968年シーズンは、暗い影に覆われていました。4月にはジム・クラーク、5月にはマイク・スペンス、6月にはルドビコ・スカルフィオッティと、立て続けにF1ドライバーが事故死。そして、前戦フランスグランプリではジョー・シュレッサーが命を落としていました。わずか4ヶ月で4人のドライバーを失った衝撃は大きく、特にイギリスのファンにとっては、地元の英雄クラークとスペンスの死は計り知れない悲しみでした。

そんな中、このイギリスGPにはグラハム・ヒルを始めとする7人のイギリス人ドライバーが出場。祖国への誇りと、亡き仲間への鎮魂を込めて、彼らはマシンを走らせました。この時代のF1マシンは、ダウンフォースを最大限に確保するため、巨大なリアウイングが装着されるようになっており、ホンダもRA301にウイングを取り付けて参戦しました。この巨大なウイングは、後に安全性の問題を露呈することとなります。

波乱のレース展開

予選では、グラハム・ヒルがポールポジションを獲得。チームメイトのジャッキー・オリバーが2番手、クリス・エイモン（フェラーリ）が3番手と、ロータス勢が好位置につけました。決勝レースは、スタート直後から小雨が降り注ぐ難しいコンディションとなりました。オリバーがまずトップに立ちますが、4周目にヒルに抜かれます。しかし、27周目にヒルがリアサスペンションの故障でリタイアすると、オリバーが再びトップに返り咲きます。

地元イギリスの期待を一身に背負ったオリバーでしたが、44周目にトランスミッショントラブルでマシンをストップ。その隙を突いてシフェールがトップに踊り出ました。シフェールは、その後も安定した走りで首位を譲らず、プライベーターチームであるロブ・ウォーカー・レーシングチームに、1961年ドイツグランプリ以来、実に7年ぶりの勝利をもたらしました。この勝利は、チームにとって最後の勝利でもありました。

2位にはクリス・エイモン（フェラーリ）、3位には同じくフェラーリのピエール・イクスが入りました。エイモンはレース後、「もっと大きなリアウイングがあれば勝てた」と語り、巨大なウイングがもたらす空力効果と、そのリスクについて改めて議論を巻き起こしました。一方、ジョン・サーティースのホンダRA301は、レース中にウイングの支柱にヒビが入るアクシデントに見舞われ、ウイングが脱落する事態となりました。サーティースはその後も粘り強く走り続け、5位でフィニッシュしましたが、このアクシデントは、巨大化されたウイングの安全性への疑問を浮き彫りにしました。

記録とその後

このレースで、ジョー・シフェールは初ファステストラップを記録。ジャック・ブラバムはF1通算100戦出場を達成しました。シフェールの優勝は、彼自身とスイス人ドライバーにとって初めてのF1での勝利となりました。

1968年イギリスグランプリは、ドライバーたちの悲劇と、技術革新、そして数々のドラマが凝縮された、忘れがたい一戦でした。このレースは、F1の歴史に深く刻まれた、栄光と悲しみが交錯する瞬間でした。

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