1968年ドイツグランプリ

1968年ドイツグランプリ：濃霧と雨のニュルブルクリンクの戦い

1968年8月4日、西ドイツのニュルブルクリンクにおいて、F1世界選手権第8戦、1968年ドイツグランプリが開催されました。このレースは、28回目の「ヨーロッパグランプリ」の称号もかけられた重要な一戦でした。しかし、レースを彩ったのは、栄光だけではありませんでした。週末を通して降り続いた雨、そしてレース当日には濃霧という、極めて厳しいコンディションが、ドライバーたちに挑戦状を突きつけました。

前戦イギリスGPではジョー・シフェールが予想外の勝利を収めていましたが、ニュルブルクリンクでも、ドライバーの顔ぶれは大きく変わりませんでした。しかし、天候は大きくレースに影響を与えました。5戦連続で雨の影響を受けたこのレースは、まさに天候との闘いでもありました。

この年は、F2部門との混走はありませんでしたが、BMWは自社のエンジンのF1での競争力を測るため、ローラのF2マシンに2リッター仕様のエンジンを搭載し、フーベルト・ハーネが参戦しました。

予選：視界不良と最年少ポールシッター

予選が行われた土曜日、ニュルブルクリンクは非常に厳しいコンディションに包まれていました。視界はわずか9メートル程度しかなく、主催者は日曜日の朝に練習走行の追加セッションを行うことを決定しました。それでもなお、多くのドライバーがコースアウトするなど、予選は危険と隣り合わせの状況でした。

そんな中、ポールポジションを獲得したのはフェラーリのジャッキー・イクスでした。彼はチームメイトのクリス・エイモンに10秒もの差をつけての快挙でした。23歳216日でのポールポジション獲得は、当時F1史上最年少記録であり、この記録は14年後、アンドレア・デ・チェザリスが更新するまで破られることはありませんでした。一方、マトラ・MS10を駆るジャッキー・スチュワートは6番手からのスタートとなりました。

決勝：スチュワートの圧勝劇

悪天候は決勝日も続きました。しかし、20万人の観衆がニュルブルクリンクに詰めかけ、レースへの期待は高まっていました。そして、レースはスコットランドの英雄、ジャッキー・スチュワートの独壇場となりました。

スタートは、悪天候のため2度も延期されました。スチュワート自身もレース中止を訴えるドライバーの一人でした。しかし、悪化するコンディションの中、主催者は1時間遅れでレースの強行を決定します。

雨と霧の中、各車はスターティンググリッドに着きました。スターターからのエンジン始動の合図の後、ジャック・ブラバムがエンジンを止めてタイヤ交換を行うというハプニングもありました。その間、他のドライバーたちはエンジンをかけたままスタートを待ち続けるという異様な状況の中、ジョン・サーティースのホンダはオーバーヒートし、ジョー・シフェールやクリス・エイモンも白煙を上げるなど、不安定なスタートとなりました。

そして、エンジン始動の合図から8分42秒後、ようやくレースがスタート。グラハム・ヒルが一時的にトップに立ちましたが、スチュワートはすぐにトップに躍り出て、圧倒的な速さで周回を重ねていきました。特に、ダンロップのウェットタイヤが絶大な効果を発揮し、スチュワートはリードを広げていきました。

14周のレース後、スチュワートは2位のヒルに4分以上の圧倒的な差をつけて優勝。ヒルは11周目にスピンを喫するも、マシンを降りて自力でコースに戻り、3位のリントに抜かれることなく完走を果たしました。エイモンも同周にスピンアウトリタイアとなりました。サーティースはスタート直後に4位まで順位を上げましたが、オーバーヒートの影響でピットイン。冷却水を補給したものの、エンジンは深刻なダメージを受け、リタイアせざるを得ませんでした。

史上最高のドライブ

スチュワートはこのレースを「歯を食いしばって戦った」と自伝に記しており、このレースは彼の史上最高のドライブの一つとして称えられています。悪天候の中、持ち前のドライビングテクニックと、優れたタイヤ選択が勝利に繋がりました。

このレースは、スチュワートの偉大さを改めて示すものとなり、同時に、F1史上初めてダン・ガーニーがフルフェイスヘルメットを着用したレースとしても歴史に刻まれました。濃霧と雨、そして幾多のドラマが交錯した、忘れられない一戦でした。

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