1969 (アルバム)

由紀さおり＆ピンク・マルティーニ『1969』：時代と国境を超えた歌声

2011年10月12日、日本の歌手・由紀さおりとアメリカのジャズオーケストラ・ピンク・マルティーニによる異色のコラボレーションアルバム『1969』が、EMIミュージック・ジャパン（現・ユニバーサル ミュージック合同会社）より日本国内でリリースされました。この作品は、単なるコラボレーションに留まらず、国内外で大きな話題を呼び、音楽シーンに新たな波紋を広げました。

始まりは「夜明けのスキャット」

この画期的なプロジェクトのきっかけとなったのは、ピンク・マルティーニのリーダーであるトーマス・M・ローダーデールが、由紀さおりの代表曲「夜明けのスキャット」を耳にしたことでした。由紀さおりの持つ、まるで時が止まったかのような透明感あふれる歌声に深く魅了されたローダーデールは、彼女のアルバム『夜明けのスキャット』に収録されていた「タ・ヤ・タン」を日本語でカヴァー。この出来事が二組の交流の端緒となり、やがて国境を越えた共同制作へと発展していきました。

世界的な成功と異例の国内記録

アルバム『1969』は、発売されるや否や世界各国で注目を集めます。2011年10月にはカナダのiTunesワールドミュージックチャート、11月にはアメリカのiTunesジャズチャートでそれぞれ1位を獲得。さらにギリシャやシンガポールのアルバムチャートでも上位にランクインするなど、その人気は瞬く間に広がりました。

日本国内でも大きな反響を呼び、2011年11月11日付のiTunesトップアルバムチャートでは総合1位に輝きます。さらにオリコンアルバムチャートでは、2011年11月28日付で週間7位に初登場。これは、由紀さおりが当時63歳0ヶ月という年齢でのオリコンアルバムチャート10位以内入りという、女性歌手としては異例の最年長記録となりました。また、シングル・アルバムを通じてオリコンチャートのトップ10入りは、1971年のシングル「生きがい」以来、実に40年10ヶ月ぶりという、史上最長のインターバル記録更新を成し遂げています。その後、2011年12月26日付チャートでは週間4位まで順位を上げ、1970年のシングル「手紙」以来、41年2ヶ月ぶりのシングル・アルバム通じたトップ5入りも達成しました。

EMIミュージック・ジャパンの発表によれば、2012年6月時点で全世界での総売上枚数は36万枚を突破しており、その商業的な成功は明らかです。

数々の栄誉と「紅白」での再会

『1969』の成功は、音楽チャートだけに留まりませんでした。2011年末には「第53回日本レコード大賞」で企画賞を受賞したのをはじめ、「芸術選奨文部科学大臣賞」大衆芸能部門など、数々の賞に輝き、その芸術性も高く評価されました。

このアルバムのヒットは、由紀さおり自身にも大きな影響を与えました。2012年末の「第63回NHK紅白歌合戦」に、ソロ歌手として実に20年ぶり、13回目の出場を果たしたのです。番組では、アメリカ・ポートランドのピンク・マルティーニの拠点から生中継を行い、彼らとの共演で「夜明けのスキャット」を歌唱。かつてローダーデールを魅了した歌声が、ヒットアルバムを経て再び大舞台で響き渡り、大きな感動を呼びました。

収録された時代を彩る名曲たち

アルバムには、タイトルの「1969」という時代を中心に、日本の昭和歌謡や当時の洋楽ヒット曲などが、ピンク・マルティーニによるジャズやラテンテイストを盛り込んだ斬新なアレンジで収められています。

ブルー・ライト・ヨコハマ: 1968年末発表、翌年大ヒットした筒美京平作曲の名曲。
真夜中のボサ・ノバ: ヒデとロザンナの1969年のB面曲をカヴァー。
さらば夏の日: 1969年日本公開の同名映画主題曲。
パフ: 童謡歌手としての一面も持つ由紀さおりが、「おかあさんといっしょ」で使用された日本語詞で歌唱。
いいじゃないの幸せならば: 1969年の日本レコード大賞受賞曲、佐良直美の大ヒット曲をカヴァー。
夕月: 1968年末から翌年にかけロングヒットした黛ジュンの楽曲。東日本大震災チャリティーとして先行配信されました。
夜明けのスキャット: 由紀さおりの再デビュー曲（1969年）のセルフカヴァー。
マシュ・ケ・ナダ: セルジオ・メンデス&ブラジル'66のヒット曲。1969年のアストラッド・ジルベルトによる日本語詞版を基にしています。
イズ・ザット・オール・ゼア・イズ?: 1969年にペギー・リーがヒットさせた曲を、このアルバムのために新たに書き下ろされた日本語詞で収録。
私もあなたと泣いていい?: 1969年発表、兼田みえ子の楽曲をカヴァー。
わすれたいのに: 1961年のパリス・シスターズのヒット曲。1969年にモコ・ビーバー・オリーブが録音した日本語詞版を基にしています。
季節の足音: このアルバムのために書き下ろされたオリジナル曲で、「情報ライブ ミヤネ屋」エンディングテーマとしても使用されました（ボーナス・トラック扱い）。

これらの楽曲は全て、スティーブン・テイラー、ロバート・テイラー、トーマス・M・ローダーデールによって編曲されています。なお、日本盤以外では「ブルー・ライト・ヨコハマ」と「夕月」の収録順が異なるとされています。

国内盤の初回盤は紙ジャケット仕様でリリースされました。

『1969』は、由紀さおりの円熟した歌声とピンク・マルティーニの洗練されたサウンドが見事に融合し、日本の普遍的なメロディーに新たな息吹を与えた作品として、今なお多くの人々に愛されています。

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