1974年エチオピアクーデター

1974年9月12日、エチオピア帝国で軍事クーデターが発生し、長年にわたり帝位にあった皇帝ハイレ・セラシエ1世が退位に追い込まれました。この出来事は「1974年エチオピアクーデター」と呼ばれ、その後のエチオピアを社会主義国家へと変貌させる大きな転換点となりました。

クーデターの背景には、数世紀にわたる半封建的な社会構造と経済体制がありました。エチオピアの主要な生産基盤である土地は、教会や皇帝、封建領主、国家といった一部の勢力がその大部分を所有しており、国民の大多数を占める約2300万人の農民はわずかな土地しか持てず、あるいは全く所有していませんでした。土地を持たない農民は過酷な小作制度のもとで、生産物の最大75%を地主に奪われ、奴隷労働が常態化する中で悲惨な生活を強いられていました。地主に従わない者は反逆者とみなされ、投獄や体罰の対象となりました。

ハイレ・セラシエ1世は、1931年や1955年の憲法制定などを通じて近代化と民主主義の導入を約束しましたが、現実には国民の不満は高まっていました。特に、ゴッジャム地方での過剰課税やウォロ県・ティグライ県での飢饉隠蔽、独裁的な土地接収などが強い反発を招き、反対運動が活発化しました。1960年には軍事クーデター未遂事件が発生し、これが皇帝への組織的反対の始まりと見なされています。1965年にはアディスアベバ大学の学生たちが「耕す者には土地を」と叫び、農地改革を求める大規模なデモを行いました。さらに、1960年代初頭からのエリトリア独立戦争や国内各地での武装抵抗運動により、皇帝政権は徐々に弱体化していきました。1972年の深刻な干ばつの被害が隠蔽されたことは、政権に対する批判を決定的なものとしました。

このような状況下、1974年1月12日にエチオピア軍内部で反乱が発生し、「エチオピア革命」の火蓋が切られました。2月には低賃金やエリトリア独立戦争による疲弊から、軍全体へと反乱が拡大しました。当初はフランス革命を模範とすると考えられていましたが、事態は予想以上の速さで進展します。

1974年6月、空軍、警察、領土軍の将校たちによって「空軍・警察・領土軍」が組織されます。これが後に「デルグ」と呼ばれる暫定軍事行政評議会の中核となります。デルグはわずか3ヶ月足らずで、皇帝が指名したエンデルカチュ・マコンネン首相の内閣を倒すほどの力をつけ、その急激な権力掌握は「忍び寄るクーデター」と称されました。事態の進展に追われた王室は9月10日に対策会議を開きましたが、結論は9月12日まで公表されませんでした。

そして1974年9月12日、デルグの指示を受けた警察により、ハイレ・セラシエ1世は宮殿で逮捕され、投獄されました。この日をもって皇帝は退位させられます。58歳だった皇太子アムハ・セラシエ1世や多くの側近、皇族は国外、主にロンドンへ亡命しました。クーデター後、デルグは旧体制の排除を進めます。特に11月23日には「60人の虐殺」が発生し、2人の元首相を含むハイレ・セラシエ1世政権下の高官60人が、ケルヒレ刑務所で裁判を経ずに銃殺されました。この犠牲者には、デルグの指導者の一人であったアマン・アンドム将軍や、皇帝の孫にあたるイスキンダー・デスタ提督も含まれていました。さらに、汚職などの容疑で裁判のために拘束されていた約200人の元閣僚らも、この時まとめて処刑されています。

その後、空軍・警察・領土軍は正式に「暫定軍事行政評議会（デルグ）」に改名し、マルクス・レーニン主義を指針とする政策を推進しました。デルグは「人民議会が設立されるまでの間、政府の全権を掌握する」と宣言し、半封建制の廃止や個人資産の国有化を布告しました。また、ストライキや無許可のデモ・集会を禁止し、デルグの掲げる「エチオピアは一つ」「エチオピア第一」の原則に反するあらゆる行為を弾圧しました。これらの強権的な政策は、当初民主主義を求めて革命に加わった人々の反発を買い、エチオピア国内では多くの地域で独自の反体制勢力や地域政権が誕生するきっかけとなりました。

1975年3月21日、デルグは正式に帝政の廃止とエチオピア帝国の消滅を宣言します。同年8月27日、83歳になっていたハイレ・セラシエ1世は、投獄されていた宮殿内の部屋でその生涯を閉じました。公式発表では前立腺手術後の自然死とされましたが、後にデルグ政権の指示により絞殺されたことを示唆する証拠も現れており、その死の真相は今なお明らかになっていません。

デルグはその後、ソビエト連邦の支援を受けながら社会主義国家「社会主義エチオピア」を樹立し、エチオピア人民民主共和国へと移行しましたが、ソ連崩壊後の1991年に社会主義体制は終焉を迎えました。

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