1982年の自転車競技

1982年、自転車競技の世界では、歴史的な偉業達成からドーピングによる波乱、そして日本人選手の活躍まで、多岐にわたる出来事がありました。

グランツール：イノーの輝きとブエルタの暗転

ロードレースの最高峰、グランツールでは、フランスのベルナール・イノー（ルノー・ジタヌ所属）が圧倒的な存在感を示しました。

ジロ・デ・イタリア（5月13日〜6月6日）
イノーは強豪たちを抑え、総合優勝を果たしました。ポイント賞はフランチェスコ・モゼール（イタリア）、山岳賞はルシアン・ファン・インプ（ベルギー）が獲得しています。

ツール・ド・フランス（7月2日〜7月25日）
続くツール・ド・フランスでも、イノーは盤石の走りで総合優勝。これは自身4度目のツール制覇であり、史上3人目となる偉業でした。この勝利により、イノーは1974年のエディ・メルクス以来となる、同一年にジロとツールの両方を制するという歴史的快挙を達成しました。ポイント賞はショーン・ケリー（アイルランド）、山岳賞はベルナール・ヴァレ（フランス）が受賞しています。

ブエルタ・ア・エスパーニャ（4月20日〜5月9日）
一方で、スペインで開催されたブエルタ・ア・エスパーニャでは暗いニュースが自転車界を駆け巡りました。当初総合1位でレースを終えたアンヘロ・アロヨ（スペイン）が、全日程終了から2日後にドーピング検査でメチルフェニデートの陽性反応を示し、失格処分となりました。これにより、総合2位だったマリノ・レハレタ（スペイン、テカ所属）が繰り上げで総合優勝者に認定されました。ポイント賞はシュテファン・ムッター（スイス）、山岳賞はホセ・ルイス・ラギア（スペイン）がそれぞれ獲得しています。

クラシックレースと世界選手権

ワンデーレースの主要戦線でも熱戦が繰り広げられました。

世界選手権・プロロードレース（9月5日、イギリス・グッドウッド）
イタリアのジュゼッペ・サロンニが優勝を飾りました。

主要クラシックレース
ミラノ〜サンレモはマルク・ゴメス（フランス）、ロンド・ファン・フラーンデレンはルネ・マルテンス（ベルギー）、パリ〜ルーベはヤン・ラース（オランダ）、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュはシルヴァーノ・コンティーニ（イタリア）、ジロ・ディ・ロンバルディアはジュゼッペ・サロンニ（イタリア）がそれぞれ勝利しました。

スーパープレスティージュ
年間を通して最も活躍した選手に贈られるスーパープレスティージュは、ジロとツールの両方を制したベルナール・イノーが獲得しました。

トラック競技と世界選手権

トラックレースの世界選手権（イギリス・レスター）では、日本のエースが歴史を刻みました。

プロスクラッチ決勝
中野浩一とゴードン・シングルトン（カナダ）による決勝戦は、自転車競技史に残る激闘となりました。両者転倒によるノーカウントの1本目、シングルトンが先取した2本目では、ゴール直前にシングルトンが再び転倒。この際、シングルトンが右ひじを骨折し、レース続行が不可能となったため棄権。これにより、中野浩一の同種目6連覇という前人未到の記録が達成されました。
プロケイリン
北村徹が3位に入賞し、日本勢の活躍を見せました。

日本の競輪界

日本の競輪でも様々な出来事がありました。

特別競輪
主要な特別競輪では、日本選手権競輪を中里光典（兵庫）、高松宮杯競輪を伊藤豊明（愛媛）、オールスター競輪を松村信定（高知）がそれぞれ制しました。競輪祭では井上茂徳（佐賀）が競輪王戦を優勝し、この年の賞金王にも輝いています。新人王戦は峰重龍一（岡山）が優勝しました。
福島正幸の引退
特別競輪で6回の優勝経験を持つベテラン、福島正幸が、競輪祭期間中の11月21日、師匠である鈴木保巳とともに緊急記者会見を開き、即日での現役引退を表明しました。長年の功労者の突然の引退は、多くのファンに衝撃を与えました。
* 国際競輪の開始
この年には国際競輪も開始され、海外の強豪選手が日本のバンクに登場するようになり、競輪界に新たな風が吹き込みました。

シクロクロス

シクロクロス世界選手権プロ部門（フランス・ラナルヴィリ）では、ローラン・リボトン（ベルギー）が優勝しました。

1982年は、偉大な記録樹立の歓喜、ドーピング問題の波紋、そしてレジェンドの引退など、自転車競技の様々な側面が凝縮された、記憶に残る一年として歴史に刻まれています。

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