1986年の世界ラリー選手権

1986年の[世界ラリー選手権]シーズンは、FIA世界ラリー選手権の歴史において重要な転換期となった年として記憶されています。前年よりも1戦多い全13戦が開催され、北米大陸がWRCに復帰したことも大きな出来事でした。アメリカ合衆国で開催されたオリンパス・ラリーは、グループB車両による最後のイベントとなりましたが、このシーズンは、グループBマシンの圧倒的な速さと同時に、その危険性を浮き彫りにする悲劇的な事故によって彩られたシーズンでもありました。

シーズン序盤は、ランチア・デルタS4のヘンリ・トイヴォネンが好調で、モンテカルロラリーを制覇するなど、タイトル争いのトップを走りました。しかし、スウェーディッシュ・ラリーでエンジントラブルに見舞われると、プジョー205ターボ16E2を駆るユハ・カンクネンが台頭し始めます。カンクネンは、ランチアのマルク・アレンら強豪を抑え、複数のラリーで勝利を収めました。

しかし、このシーズンは、ポルトガル・ラリーとツール・ド・コルスでの悲惨な事故によって、影を落とすことになります。ポルトガル・ラリーでは、ヨアキム・サントスのマシンがコースアウトして観客に衝突するという痛ましい事故が発生し、3名が死亡、30名以上が負傷しました。この事故の後、全てのワークスドライバーがラリーを撤退し、地元の無名ドライバーが優勝するという異例の事態となりました。

さらに、ツール・ド・コルスでは、想像を絶する悲劇が起きます。トイヴォネンがドライブするランチア・デルタS4がコースから逸脱し、炎上、横転するという恐ろしい事故を起こし、トイヴォネンとコ・ドライバーのセルジオ・クレストは、車内で焼死しました。この事故は、グループBマシンの危険性を改めて世間に認識させるきっかけとなり、WRCの歴史に暗い影を落としたのです。

これらの事故を受け、FIAはグループB車両の開発を直ちに凍結し、1987年シーズンからの排除を決定しました。アウディやフォードなどのメーカーはWRCから撤退を余儀なくされました。この決定に対し、プジョーチームのジャン・トッドは強い反発を示し、連盟に対して法的措置を検討するなど、激しい反論を展開しました。

グループBマシンの排除決定にもかかわらず、残りのシーズンでは、プジョーとランチアによる激しいタイトル争いが繰り広げられました。プジョーは、ラリー・サンレモで違法なサイドスカート装着という疑惑をかけられ、失格処分を受けるという騒動に見舞われますが、FIAの判断により、最終的にはこの決定は覆されました。このシーズンは、FIAがグループAカーのドライバーに対して世界選手権をかけた唯一のシーズンでもありました。スウェーデンのケネス・エリクソンがグループAのフォルクスワーゲン・ゴルフGTI 16Vで優勝しました。

最終的に、ドライバーズタイトルはユハ・カンクネンが、マニファクチャラーズタイトルはプジョーが獲得しました。カンクネンとアレンの接戦は、シーズン終了から3週間も経ってから決着がつくほどでした。1986年シーズンは、グループB車両の華々しい活躍と悲劇的な事故、そして、WRCの未来を大きく変える転換点となった重要な一年でした。このシーズン以降、グループA車両がWRCの主流となりました。グループBは危険すぎるとして、WRCから姿を消し、その記憶は、現在もラリーファンたちの間で語り継がれています。

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