2M1207b

2M1207bは、地球から見てケンタウルス座の方向に約170光年離れた位置にある天体です。特に、その姿が赤外線による直接観測によって初めて捉えられた太陽系外惑星の候補として、天文学史上重要な発見の一つとされています。この天体は、比較的若い褐色矮星である「2M1207」の周囲を回っています。

発見と確認の経緯

2M1207bは、2004年9月にヨーロッパ南天天文台（ESO）のGael Chauvin氏率いるチームによって発見されました。観測には、チリにあるパラナル天文台の超大型望遠鏡VLTが用いられました。発見当初、この天体は主星である2M1207に比べて約100分の1という非常に淡い「微かな赤い光のしみ」として観測されました。その性質が不明瞭だったため、単なる背景の二重星ではないかとの疑念も持たれましたが、その後のハッブル宇宙望遠鏡やVLTを用いた精密な追跡観測によって、主星とともに宇宙空間を同じ方向に移動している様子が確認されました。これにより、2M1207と物理的に結びついた伴星系であることが裏付けられたのです。

距離の測定

2M1207bまでの正確な距離を確定するまでにはいくつかの段階がありました。初期の測光観測に基づいた推定では、約70パーセク（約228光年）とされていましたが、2005年12月にはアメリカ合衆国の天文学者Eric Mamajek氏が、関連する星形成領域の運動学的性質を利用した詳細な計算により、53 ± 6パーセク（約173光年）という、より高精度な値を導き出しました。さらに近年の観測では、三角視差を用いた手法により52.75 ± 1パーセク（約172光年）という値が得られ、以前の推定値が裏付けられています。

物理的特徴

2M1207bは、誕生直後の重力収縮熱によって非常に高温であると考えられています。推定される表面温度は約1600ケルビンに達します。質量は、初期の推定や分光観測の結果から、木星の3倍から10倍程度、あるいはより具体的には8 ± 2木星質量であると考えられています。これは、褐色矮星が内部で重水素核融合を起こすために必要とされる下限質量（木星の約13倍）を大きく下回る値です。主星である2M1207からは、太陽系の冥王星軌道に匹敵する約40天文単位離れた位置を公転していると推定されています。

赤外線スペクトルの解析からは、その大気に水分子が存在する可能性が示唆されています。しかし、その極めて高温な環境や形成過程の不確実性などから、この天体やその周囲に生命が存在する可能性はないと広く見られています。

なお、この天体の正確な質量、半径、温度については、いまだ不確実性が残されています。分光観測から得られた質量や温度の推定値を従来の天体モデルに当てはめると、実際に観測される明るさよりも10倍近く明るいはずだという矛盾が生じるためです。この矛盾を解決するために、より低い質量と温度であるとする説や、天体が塵やガスに取り囲まれて暗く見えているとする説、あるいは最近の天体衝突によって熱を放出しているため見かけ上明るく、質量は実際より小さい可能性を指摘する説などが提唱されています。

分類上の議論

2M1207bは、その質量が褐色矮星の定義を満たさない一方で、天文学界ではこの天体を「惑星」と呼ぶべきか、あるいは別の分類に位置づけるべきかについて議論が存在します。この議論は、「惑星」をどのように定義するかという問題に起因しています。ある定義では、惑星は太陽系の惑星のように、主星の周囲にある原始惑星系円盤の中で形成されるべきだとされます。もし2M1207bが、このような原始惑星系円盤を経ずに、ガス星雲が直接重力崩壊を起こして形成されたのだとすれば、質量が惑星サイズであっても惑星とは分類されず、準褐色矮星に分類されることになります。同様の分類上の議論は、2M1207bとほぼ同時期に直接撮像されたおおかみ座GQ星bなど、他の惑星質量天体候補についても持ち上がりました。また、主星を持たずに宇宙空間を漂っているCha 110913-773444のような自由浮遊惑星質量天体の発見も、天体の起源を分類基準とする妥当性について議論を促す要因となりました。

2006年現在では、国際天文学連合（IAU）の太陽系外惑星ワーキンググループは、2M1207bを「褐色矮星の伴星の可能性がある惑星質量天体」と記述しており、その正式な分類は保留されています。また、天文学者ウラジミール・リラ氏は、この天体をLerna（レルナ）と命名することを提唱しています。

2M1207bは、その発見方法や性質、そして分類を巡る議論を通じて、太陽系外天体の多様性や、それらをどのように定義・分類すべきかという現代天文学の課題を浮き彫りにする、重要な観測対象であり続けています。

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