3選改憲

三選改憲：朴正煕大統領の三選と韓国政治の転換点

1969年、韓国において実施された憲法改正、通称「三選改憲」は、韓国政治史における重要な転換点となりました。本稿では、この三選改憲の経緯、当時の政治状況、そしてその後の影響について詳述します。

憲法改正の背景：朴正煕大統領の長期政権維持

1962年に制定された「第3共和国憲法」では、大統領の任期は4年、再選は1回限りという規定がありました。1967年の大統領選挙で再選を果たした朴正煕大統領は、1971年には任期満了を迎えることになります。しかし、朴大統領は、国家近代化の継続、北朝鮮の脅威への対応などを理由に、自身の長期政権を維持することを目指しました。この目的のため、憲法の再選制限を改正する必要が生じ、三選改憲が持ち上がることになります。

改憲論議の発端と世論の動向

1969年1月、与党・民主共和党から改憲論議が提起されました。政府与党は、韓国が北朝鮮の脅威に直面し、かつ近代化を推進する重要な時期にあるとして、強力なリーダーシップが必要だと主張し、朴大統領の続投を正当化しました。これに対し、朴大統領自身は当初は慎重な姿勢を示しましたが、これは世論を誘導するための戦略的な行動でした。一方、野党・新民党をはじめ、多くの市民団体や学生から強い反発が巻き起こりました。彼らは、三選改憲を民主主義の原則に反する行為であり、李承晩政権の失敗を繰り返すものだと批判しました。

国会内の対立と強行採決

与党内部でも改憲への賛否は分かれていました。金鍾泌派を中心とする主流派は反対、反主流派は賛成の立場を取り、激しい対立が展開されました。4月8日には、野党の議員提案による閣僚解任案が、与党内の造反によって可決される「4・8抗命事件」が発生し、朴大統領の怒りを買いました。朴大統領は、反体制派の議員を大量に除名処分とするなど強硬な姿勢を示しました。

野党と国民の抵抗

野党新民党は、三選改憲反対を訴える声明を発表し、国民的な反対運動を展開しました。学生運動も活発化し、大規模なデモが行われました。「三選改憲反対汎国民闘争委員会」も結成され、院内外の抵抗運動が一体となって展開されました。金泳三院内総務が襲撃される事件も発生し、政局は緊迫した状況に陥りました。

改憲案の発議と国民投票

与党内部の対立は、金鍾泌派と反金鍾泌派の妥協によって収束しました。金鍾泌は政界復帰し、改憲推進に協力しました。7月25日、朴大統領は「7・25談話」を発表し、国民投票で改憲案が承認されれば続投、否決されれば退陣すると表明しました。与党は改憲案を強行採決し、10月17日に行われた国民投票では、投票率77.1%、賛成率65.1%で改憲案は可決されました。これにより、朴正煕大統領の三選が実現することになりました。

三選改憲の影響

三選改憲は、朴正煕大統領による長期政権を可能にし、その後の韓国の政治経済発展に大きな影響を与えました。しかし、民主主義の原則を損なう強引な手段によって実現されたことに対する批判は根強く、その後の政治体制や民主化運動にも影を落としています。三選改憲は、韓国政治史において、常に議論の対象となる重要な出来事として記憶されています。

参考文献

金容権編著『朝鮮韓国近現代史事典　第2版』日本評論社
尹景徹『分断後の韓国政治：一九四五〜一九八六年』木鐸社
* 『1969年の韓国：重要日誌』アジア経済研究所

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