ALI PROJECT

ALI PROJECT（アリ・プロジェクト）は、ヴォーカリストで作詞家である宝野アリカと、キーボーディストで作曲・編曲家である片倉三起也からなる日本の音楽ユニットです。その独特の耽美かつ退廃的な世界観、多岐にわたる音楽スタイル、そして文語や漢語を巧みに用いた歌詞で知られ、日本の音楽シーンにおいて唯一無二の存在感を放っています。ファンからは「アリプロ」という通称で親しまれています。

概要と略歴

ユニットの活動は、1984年に作詞家の松本一起が片倉三起也に宝野アリカを紹介したことを契機に始まります。翌1985年には、現在の名称の元となる「蟻プロジェクト」として正式に活動を開始しました。初期の実績としては、1986年に参加した「サンチェーン・ミュージック・バトルロイヤル」での細野晴臣特別賞受賞や、1988年のアルバム『幻想庭園』でのインディーズデビューが挙げられます。

メジャーデビューは1992年、シングル『恋せよ乙女〜Love story of ZIPANG〜』を東芝EMIよりリリースした際に行われ、同時にユニット名も現在のALI PROJECTへと改称されました。1995年に東芝EMIとの契約が終了して以降は、特定のレコード会社に専属せず、複数のレーベルから作品を発表する独自のスタイルを採っています。

2000年には、廃盤となっていた旧譜の再発などを主な目的として、プライベートレーベル「ZAZOU Records」を設立。ここでは再発CDに加え、オリジナルアルバムやライブアルバム、宝野アリカの著書なども販売し、購入特典として直筆サインを付けるなど、ファンとの親密な繋がりを大切にしていましたが、このレーベルは2007年に運営を終了しました。

音楽性における大きな転換期の一つとして、2001年発表のシングル『コッペリアの柩』が挙げられます。この頃から、現在ALI PROJECTの代表的なイメージとなっている、ダークで荘厳な、いわゆる「黒アリ」路線へと作風が大きく変化していきます。それ以前は、宝野アリカが愛好していたロリータ・ファッションに影響を受けた、優しく爽やかな、ゴシック・アンド・ロリータ基調の世界観の楽曲が中心でした。作風の変化に伴い、宝野のヴィジュアルイメージもゴシック全般、和装、エキゾチシズム、デカダンスなど、より多様な要素を取り入れるように変遷していきました。

ライブ活動では、2002年からストリングス編成を中心とした定期コンサート「月光ソワレ」を開始し、人気を博しました（2007年で一区切り）。一般への認知度を飛躍的に高めたのは、2005年にテレビアニメ『ローゼンメイデントロイメント』のオープニングテーマとなったシングル『聖少女領域』の大ヒットです。この楽曲はオリコン週間チャートで5位にランクインするヒットとなり、多くの音楽ファンにALI PROJECTの名を知らしめるブレイクスルーとなりました。

ファンクラブの体制も変化しており、2008年には旧「アリプロマニア」が解体され、新たなオフィシャルファンクラブ「勇侠会」が発足しています。勇侠会会員向けには、過去のZAZOU Recordsからのリリース作品の一部が入手可能となるなどのサービスも提供されています。

近年も精力的な活動を続けており、ほぼ毎年オリジナルアルバムをリリースし、それに伴うツアーもコンスタントに行っています。2020年には結成35周年、そして2025年には40周年を迎えるなど、長きにわたり活動を継続しています。

制作と音楽性

ALI PROJECTの楽曲制作は、作詞を宝野アリカが、作曲・編曲を片倉三起也が担当するという明確な分業体制が基本です。宝野が鼻歌で作曲に関わることも稀にありますが、多くの場合は片倉が曲を作り、それに宝野が歌詞を乗せるというプロセスで制作が進められます。

楽曲のサウンドは、大きく二つの傾向に分けられます。一つはシンセサイザーや打ち込みによるリズミカルな旋律が主体となるスタイル、もう一つは弦楽器を中心としたストリングスを前面に出した壮大なスタイルです。これらはファンによって「白アリ」「黒アリ」と通称されることもあります。近年の楽曲、特にアニメなどのタイアップシングルにおいては、コードチェンジが非常に頻繁で、初聴時のインパクトを重視した構築的な作風が顕著です。また、増二度を含む非日本的な旋法、強拍を強調する鋭角的なリズム語法、三連符や半音進行の多用なども、ALI PROJECT独自の音楽性を形作る重要な要素となっています。

クラシック音楽からの引用や、既存音源の借用（サンプリング）は、ALI PROJECTの音楽制作において非常に重要な手法であり、デビュー当初から現在まで一貫して積極的に用いられています。具体的には、楽曲の一部フレーズに特定のクラシック作品の旋律を取り入れたり（例えば、『若菜色連恋』におけるカール・ジェンキンス『パラディオ』の引用）、既存のクラシック録音音源や様々なサンプルライブラリの音源をサンプリングして楽曲の基盤や装飾とする方法などがあります（例：『消えゆく世界のためのファンタジー』でのPRIME LOOPS、『必殺紅蓮娘』でのBIG FISH AUDIOなどの利用）。特に2007年以降は、市販のサンプル音源の利用がより顕著になり、楽曲の大部分をこれらの音源が占めるような作品も存在します。これらの多様な引用やサンプリングは、ALI PROJECTの楽曲に独特の雰囲気や奥行きを与え、引用元への深い造詣をも示しています。

アニメ作品などのタイアップ楽曲は、原則として通常のオリジナルアルバムには収録されず、主にベストアルバムの形式でまとめてリリースされるのが特徴です。また、過去の楽曲をストリングスアレンジしたアルバムも、近年はほぼ毎年コンスタントに発表されており、原曲とは異なる新たな魅力を引き出しています。

ALI PROJECTの音楽ジャンルは、公式自身が「ダークなロック」「官能ゴシック」「妖しいロリータ」「極上バラード」「きらびやかでキュートなポップス」から「大和ロック」「現代音楽」と表現するほど非常に幅広く、時期や楽曲によって実に多様なアプローチが採られています。アメリカ文学研究者である巽孝之の著書『プログレッシヴ・ロックの哲学』でアルバム『幻想庭園』が紹介されたことから、宝野アリカ自身がALI PROJECTをプログレッシブ・ロックであると語ったこともあります。

歌詞の世界

宝野アリカの書く歌詞は、文語体や漢語由来の硬質で荘厳な言葉遣いが最大の特徴です。主題としては、退廃、幻想、神話世界、世紀末、近未来／レトロフューチャーといった非日常的なものに加え、エロティシズム、ヒロイズム、シノワズリなど、多岐にわたる要素が好まれます。その蒼然とした言い回しは、宝野の擬古調・声楽的なヴォーカルスタイルと組み合わされることで、他の追随を許さない唯一無二の異彩を放つ世界観を創り出しています。

宝野自身が影響を受けたと公言しているように、その歌詞世界には、三島由紀夫、中井英夫、澁澤龍彦、寺山修司、皆川博子、赤江瀑、倉橋由美子、服部まゆみ、久世光彦といった幻想・退廃文学の作家や、特定の映画作品からの深い影響が色濃く反映されています。例えば、楽曲『月蝕グランギニョル』は、中井英夫への密かなオマージュであると過去に語られています。これらの文学的背景が、ALI PROJECTの歌詞に更なる深みと重層的な意味合いを与えています。

ALI PROJECTは、結成以来、一貫して妥協のない芸術性の追求を続け、音楽、歌詞、そしてヴィジュアル全てにおいて独自のスタイルを貫いています。その活動は今なお精力的に続けられており、長きにわたり日本の音楽シーンにおいて特別な存在感を放っています。

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