ATLAS彗星 (P/2019 LD2)

P/2019 LD2

P/2019 LD2は、2019年6月10日に小惑星地球衝突最終警報システム（ATLAS）によって発見された天体で、木星族彗星の一つに分類されます。ATLASプロジェクトにより発見された彗星は複数存在するため、この天体はP/2019 LD2という符号で区別されています。

発見当初、P/2019 LD2は木星の軌道上のラグランジュ点L4近くで発見されたことから、木星のトロヤ群に属する天体であり、同時に彗星活動を伴うものとしては初めての発見例ではないかとして注目を集めました。木星のトロヤ群とは、木星の軌道上の前方および後方約60度付近に安定して存在する小惑星の集まりです。しかし、その後の詳細な調査によってP/2019 LD2の軌道が精密に計算された結果、トロヤ群への分類は見直され、撤回されました。長期にわたる観測データから、P/2019 LD2は木星族彗星に典型的な不安定な軌道を持っていることが明らかになり、木星のトロヤ群領域近くに現在位置しているのは一時的な偶然の配置に過ぎないことが示唆されたためです。

発見とその後の観測

P/2019 LD2は、2019年6月10日にハワイ島マウナ・ロア山にあるマウナロア観測所に設置されたATLASによって撮影された画像から発見されました。発見直後、クイーンズ大学ベルファストの天文学者たちによって、天体の周囲にかすかなコマ、すなわちガスや塵が放出されて形成される構造が観測されました。これは彗星に特徴的な活動を示すものです。その後、同年6月11日と13日にラスクンブレス天文台で行われた追加観測でも彗星活動が確認され、同年7月には尾のような構造も捉えられました。さらに、2020年4月に行われたATLASによる観測でも彗星活動が認められ、発見からほぼ1年にわたり彗星としての活動が続いていることが示されました。

P/2019 LD2が木星のラグランジュ点L4付近で発見されたことは、彗星活動を伴うトロヤ群天体としては初の事例として一時的に広く報じられました。しかし、この発表後にアマチュア天文家のサム・ディーン氏がその軌道ダイナミクスを詳細に分析した結果、P/2019 LD2は偶然トロヤ群領域の近くにいるだけで、本来はトロヤ群に属さない木星族彗星であることが明らかになりました。同様の分析結果は、同年5月23日に日本の天文計算家である中野主一氏からも天文電報中央局（CBAT）へ報告されています。

軌道の特性

P/2019 LD2は、太陽から平均して約5.28天文単位（約7億9000万 km）離れた軌道を、約12.12年の周期で公転しています。その軌道はやや楕円形（離心率0.132）で、太陽系天体の基準面である黄道面からの傾き（軌道傾斜角）は約11.6度です。ATLASによる公式発見の約11ヶ月前、2018年5月21日には既にハレアカラ天文台によって観測されていたことが、過去の観測データの解析から判明しています。

P/2019 LD2の木星に対するティスラン・パラメータ（T_jup）は約2.940であり、これは典型的な木星族彗星が持つ値とよく一致します。2017年2月17日には木星に約1380万 kmの距離まで接近したことが分かっています。P/2019 LD2の公転周期は木星の公転周期（約11.9年）に近いですが、木星とは1対1の軌道共鳴状態にはありません。木星の軌道上の前方・後方約60度付近に集まるトロヤ群天体と異なり、P/2019 LD2は木星の前方約21度の位置にありますが、その角度が大きく広がる前に再び木星に接近することが予測されています。軌道モデルからは、P/2019 LD2がかつて海王星以遠の領域から内側へ移動してきたケンタウルス族に属していた可能性が高いことも示唆されています。

将来の軌道予測

軌道計算によると、P/2019 LD2は将来的に再び木星に接近すると予測されています。特に、2028年5月13日には木星に約1800万 kmまで接近するとされており、この接近によって、現在の木星との1対1に近い公転周期比を持つ軌道から、2対3に近い軌道へと変化すると予測されています。しかし、この変化後の軌道も長期間安定するものではないと考えられています。さらに、2063年1月には木星のガリレオ衛星の軌道よりわずかに外側にあたる約300万 kmの距離にまで近づくとされており、この際にも再び大きく軌道が変化する可能性があります。

物理的性質

絶対等級12.2等級、および小型トロヤ群小惑星で仮定されるアルベド（反射率）0.12を用いた一般的な推定では、P/2019 LD2の直径は約14 kmと計算されます。これは、氷と岩石で構成される彗星としては中程度のサイズと言えるでしょう。これまでの測光観測では、天体の自転に伴う明るさの変化（光度曲線）は確認されておらず、P/2019 LD2の正確な自転周期や形状は現時点では不明です。地球から観測された見かけの明るさは、発見時で18.4等級、その後の観測で最も明るくなった時でも17等級台でした。

P/2019 LD2は、その発見経緯や、木星のトロヤ群領域近くを一時的に通過する軌道ダイナミクス、そして活動的な彗星としての性質から、木星族彗星の研究において興味深い対象となっています。

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