An-32 (航空機)

An-32 (アントノフ32)とは

An-32は、ソ連（現ウクライナ）のアントノフ設計局が開発したターボプロップ双発の多用途輸送機です。NATOコードネームは「クライン」です。An-24をベースに開発されたAn-26の発展型として、高地や高温多湿地域での運用能力を向上させる目的で開発されました。

開発の背景

航空機の飛行性能は気温や空気密度に大きく影響されます。特に山岳地帯での離陸時やエンジン停止時には、出力不足が重大な事故につながる可能性があります。An-32は、このような過酷な環境下での運用を想定し、より強力なエンジンを搭載する必要がありました。

そこで、ウクライナのイーフチェンコ設計局製のターボプロップエンジンAI-20Dが採用されました。このエンジンは、An-12やBe-12などの大型機にも使用されてきた実績のあるエンジンです。An-32では、このAI-20Dをさらに高出力化することで、離着陸性能の向上と積載量の増加を実現しました。

機体の特徴

An-32は、主翼の補強や水平尾翼面積の拡大により、機体の安定性を確保しています。また、短距離での離着陸性能に優れており、未舗装の滑走路でも運用が可能です。機体には、50名の乗客、または42名の兵士、または24名の負傷者と付き添い1名、または6.7tの貨物を搭載できます。さらに、悪天候下や高温環境下でも運用できるため、幅広い環境に対応できます。

主翼上面にエンジンを設置することで操縦席からの視界が改善され、騒音レベルも低減されました。補助動力装置としてTG-16Mを搭載し、離陸時のエンジン補助として使用できます。また、長距離飛行のために追加燃料タンクを搭載することも可能です。

機体下面には、最大500kgまでのパラシュートコンテナを4基搭載でき、50-100kgの航空爆弾や照明弾も搭載可能です。爆弾投下や物資の空中投下には、NKPB-7照準器が使用されます。

生産と運用

An-32は、1976年に初飛行しましたが、量産開始は1982年と時間がかかりました。1990年までにアフガニスタン、バングラデシュ、インドなど多くの国に輸出され、特にインドではライセンス生産も行われました。

An-32は、An-26と比較して生産性が高く、輸送コストも低いため、経済性にも優れています。また、事故率も低く、信頼性の高い機体であると言えます。

派生型

An-32には、様々な派生型が存在します。

An-32B: 民間向けの商用輸送機型
An-32B-100: An-32Bの改良型で、エンジンを換装し、離陸重量と積載量を増加させた
An-32V-100: An-32B-100の発展型
An-32V-200: An-32の近代化改修型で、電子機器の更新や航続距離の延長を行った
An-32P: 森林火災の消火活動に使用される消防機型
サトレジ: インドでのAn-32の名称。インド国内でライセンス生産された。

An-32Pについて

An-32Pは、森林火災の際に使用する消防機として開発された派生型です。基本型のAn-32の信頼性を基に、空中消火活動に必要な機能を追加しています。

An-32Pは、長時間の滞空が可能であり、未舗装の飛行場でも運用できます。また、狭い空域での急激な上昇・下降が可能であるため、山岳地帯での消火活動に適しています。

火災がない期間は、通常の貨物輸送機として使用できます。機体には、大型の貨物ハッチと開閉式ランプが装備されており、物資の積み降ろしやパラシュート降下が容易に行えます。

スペック

An-32
初飛行：1982年
翼幅：29.20m
全長：23.68m
全高：8.75m
空虚重量：16.8t
最大離陸重量：27t
エンジン：AI-20Dターボプロップエンジン×2
出力：5,110馬力×2
最高速度：540km/h
最大航続距離：2,160km
乗員：3-4名

An-32P
初飛行：1992年
翼幅：29.20m
全長：23.78m
全高：8.75m
空虚重量：16.8t
最大離陸重量：27t
エンジン：AI-20Mターボプロップエンジン×2
出力：5,180馬力×2
最高速度：530km/h
最大航続距離：2,520km
乗員：8名
積載：消化剤8t

主な運用国

ソ連、ウクライナ、ロシア、アルメニア、グルジア、カザフスタン、クロアチア、アメリカ合衆国、メキシコ、キューバ、ペルー、コロンビア、アフガニスタン、インド、モンゴル、バングラデシュ、スリランカ、エチオピア、赤道ギニア、アンゴラ、タンザニア、リビアなど

関連事項

アントーノフ設計局
イーフチェンコ設計局
輸送機
貨物機
An-24
An-26
An-30

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