CP/M

CP/M：8ビットパソコン時代の支配者とその遺産

CP/M（Control Program for Microcomputers）は、1970年代後半のパソコン市場を席巻した、歴史的なオペレーティングシステムです。ゲイリー・キルドールによって開発され、シングルユーザー・シングルタスクというシンプルな設計ながら、その高い移植性と豊富なアプリケーションソフトウェアによって、多くの8ビットパソコンで採用されました。本稿では、CP/Mの技術的な側面から歴史、MS-DOSとの関係性、そして日本における状況まで、多角的に解説します。

CP/Mの技術仕様

CP/Mは、CCP（Console Command Processor）、BDOS（Basic Disk Operating System）、BIOS（Basic Input Output System）という三層構造で構成されています。ハードウェア依存部分はBIOSに集約されており、BIOSを交換することで様々な機種への移植が容易でした。最小動作環境は、8080マイクロプロセッサ（または互換CPU）、16KB以上のRAM、8インチフロッピーディスクドライブ、シリアル端末でした。

CP/Mのコマンドは、CCPに内蔵されたビルトインコマンドと、フロッピーディスクから読み込まれるトランジェントコマンドに分けられます。DIR、REN、TYPEといった基本的なコマンドはビルトインされており、それ以外の高度な機能は、STAT（システム情報表示）、PIP（ファイルコピー）、SUBMIT（バッチファイル実行）、ED（ラインエディタ）、ASM（アセンブラ）といったトランジェントコマンドによって提供されました。特に、デバッガであるDDTや、CP/M自身の再配置を行うMOVCPMは、開発者にとって重要なツールでした。

CP/Mの大きな特徴として、リブート（ウォームブート）の仕組みがあります。アプリケーション終了やエラー発生時に、CCPとBDOSを再ロードすることで、システムを安定させる仕組みです。しかし、フロッピーディスクの交換時にこのリブート処理を怠ると、データ損失につながる危険性がありました。この点は、後のバージョンで改善されましたが、多くのユーザーにとって苦い経験として記憶されているでしょう。

CP/Mの歴史

キルドールは、インテルのマイクロコンピュータ開発システム(MDS)向けにPL/Mコンパイラを開発した経験から、フロッピーディスクベースのOSの必要性を感じ、CP/Mを開発しました。当初はインテルIntellec-8向けでしたが、その後、様々な機種に移植され、爆発的な普及を遂げます。

CP/Mは、当初Control Program/Monitorの略でしたが、商標登録の際にControl Program for Microcomputersに変更されました。これは、当時流行していた命名法、そしてキルドール自身のIBMのシステムとの経験が影響していると考えられます。デジタルリサーチは、CP/Mをマイクロコンピュータの世界におけるIBM、マイクロソフトのような存在にしたいと考えていました。

多くのアプリケーションソフトウェアがCP/M用に開発されたことで、CP/Mは市場を支配する存在となりました。WordStar、dBase、VisiCalcなど、後のパソコン市場にも大きな影響を与えるソフトウェアは、まずCP/M上で開発されたものです。

CP/MとMS-DOS

MS-DOSは、CP/Mをモデルとして設計されました。ファイルシステム、コマンド名、システムコールなど、多くの類似点が見られます。しかし、MS-DOSはCP/Mよりもメモリ管理が効率的で、より多くの機能を備えていました。また、フロッピーディスクの入れ替えに関する問題も解消されていました。これらの点が、MS-DOSがCP/Mを凌駕する要因となりました。IBM PCがMS-DOSを採用したことも、CP/Mの衰退を加速させました。

日本におけるCP/M

日本でも、NECのPC-8000シリーズ、シャープのMZシリーズなど、多くの機種でCP/Mが利用されました。特にシャープは、高性能で低価格なCP/Mパッケージを提供し、多くのユーザーを獲得しました。MS-DOSの普及後も、一部の機種ではCP/Mが利用され続けました。また、MSX-DOSは、CP/MをベースとしたOSであり、CP/Mソフトウェアの多くが動作しました。

結論

CP/Mは、8ビットパソコン時代の重要なOSであり、後のパソコン市場に大きな影響を与えました。MS-DOSとの競争に敗れたものの、その技術的な功績は高く評価されています。現在でも、CP/Mのソースコードやアプリケーションの一部は入手可能であり、その歴史を振り返ることができるでしょう。また、CP/Mの遺産は、後のOSの設計にも影響を与え続けていると言えます。

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