DAF・66

DAF・66とボルボ・66：オランダが生んだ個性派コンパクトカーとその変遷

DAF・66は、オランダの自動車メーカーDAF（現DAFトラックス）が1972年から1975年にかけて製造した乗用車です。特徴的なのは、当時世界で唯一の実用車に搭載された無段変速機（CVT）「ヴァリオマチック」です。この革新的なトランスミッションは、ベルト駆動方式を採用しており、スムーズな走行を実現しました。

DAF・66は、前モデルのDAF・55をベースに、フロントエンドのデザインを一新。ルノー製の1,108cc、46馬力の直列4気筒エンジンや、ジョヴァンニ・ミケロッティによるデザインのボディなどは、55から引き継がれていました。しかし、サスペンションは、55のスイングアクスルとコイルスプリングから、リーフスプリングによるド・ディオンアクスルに変更され、操縦安定性の向上が図られました。ヴァリオマチックも、ベルト長を短縮し、デフギアを小型化することで改良が加えられています。

ボディバリエーションは、2ドアセダン、クーペ、そして3ドアハッチバック風スタイルのエステートと豊富でした。スポーティモデルとして、「マラソン」シリーズも設定。初期型は52馬力でしたが、1973年には排気量を1,287ccに拡大し、57馬力に強化された「マラソン・1300」が登場しました。さらに、オランダ陸軍は、DAF・66をベースにドアを取り払い、足回りを強化した軍用車両として採用しています。

1975年、DAFはボルボに買収され、DAF・66はボルボ・66へと生まれ変わります。ボルボによる改良は、同社の強みである安全性の向上に重点が置かれました。黒いウレタン製の衝撃吸収バンパー、後方視界を確保するボルボ独自のヘッドレスト、ドア内部へのサイドインパクトビームの追加、安全性の高いステアリングホイールとシャフトなどが採用されました。フロントグリルにはボルボのエンブレムと斜線が追加され、グレード名もDL（旧ノーマル）とGL（旧マラソン）に変更。ヴァリオマチックにはパーキングレンジ（P）が追加され、坂道での駐車も容易になりました。

しかし、ボルボ化による安全装備の追加は、車両重量の増加と価格上昇をもたらしました。元々CVTによるアンダーパワー気味だった66は、その傾向をさらに強めてしまいます。1976年には、ボルボの設計思想を反映した上級車ボルボ・343が登場し、オランダ製ボルボの中心車種となります。これにより、ボルボ・66は、1980年に生産中止となりました。DAF・66、そしてボルボ・66は、日本には正規輸入されませんでした。

DAF・66、そしてその後のボルボ・66は、個性的なデザインと世界初のCVT搭載車という革新性、そして軍用車としての採用など、多くの興味深い歴史を持つ一台です。コンパクトカーながら、その存在感は、自動車史において決して小さなものではありません。

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