FC-1 (航空機)

FC-1/JF-17 "梟竜/サンダー"

FC-1（Fighter China-1）、パキスタン名JF-17（Joint Fighter-17）は、中国とパキスタンが協力して開発した、単座・全天候型の多用途戦闘機です。中国での愛称は「梟竜（シャオロン）」、パキスタンでは「サンダー（雷）」と呼ばれています。第4世代ジェット戦闘機に分類され、その開発には1980年代にはアメリカ合衆国、天安門事件以降はソビエト連邦およびロシア連邦からの技術支援が影響しています。

開発の背景と経緯

中国は長年にわたり、ソ連のMiG-21を基にしたJ-7戦闘機を生産し、自国の防空だけでなく、友好国へ安価に輸出していました。しかし、1980年代に入るとJ-7の性能は陳腐化が進み、後継機の開発が求められました。これに応じる形で、米国グラマン社の協力を得て、J-7をベースに西側技術を導入した新型戦闘機「スーパー7」計画が始動します。ところが、計画開始直後に発生した六四天安門事件の影響で、米国をはじめとする西側諸国からの技術協力が停止され、開発は一時中断を余儀なくされました。

開発計画は「FC-1」と改称されて再開され、中国の第132航空廠が中心となって進められました。パキスタン空軍も開発協力に参加し、特にF-16戦闘機の特徴が参考にされました。また、関係が改善したロシアのミコヤン設計局が開発していた単発小型戦闘機プロジェクトで得られた技術も取り入れられています。一方で、パキスタンが核実験によって国際的な制裁を受けた影響で、パキスタン空軍が強く求めていた西側製アビオニクスの調達が困難になり、アビオニクス（航空電子機器）の開発は機体本体とは別に進められることになりました。

FC-1は2003年9月3日に最初の飛行試験を実施し、2005年までに3機の試作機が完成して各種の試験飛行が重ねられました。2006年に登場した4号試作機（PT-04）では、性能向上を目的とした改設計が行われ、特に特徴的なDSI（ダイバータレス超音速インレット）の採用や機体構造の軽量化が図られました。この4号機以降の設計が、量産型の基礎となりました。

機体の設計と特徴

FC-1/JF-17は、J-7からの大幅な改設計を経て生まれました。J-7の特徴であった機首のエアインテークは、電子機器を搭載するスペースを増やすため機体側面に移動し、機体全体の空力設計も洗練されています。その外観はJ-7とは大きく異なり、主翼前縁のストレーキや垂直尾翼基部の処理など、むしろアメリカのF-20タイガーシャークに近いシルエットを持っています。また、世界に先駆けて、実用機としてDSI（ダイバータレス超音速インレット）を搭載した点も大きな特徴です（F-35よりも早く採用）。

コックピットは3基の多機能ディスプレイを備えたグラスコックピットを採用。発展型のブロック3では、より大型で先進的なホログラフィック広角ヘッドアップディスプレイや統合コックピットディスプレイが導入されています。

レーダーシステムも進化しており、大型化・高性能化された中国製のKLJ-7レーダーにより探知範囲が拡大し、視界外戦闘能力を獲得しました。ブロック2では改良型のKLJ-7 V2、ブロック3では最新のAESA（アクティブ・フェーズドアレイ）方式レーダーが搭載されています。

機体制御は、縦方向はデジタル・フライ・バイ・ワイヤ、横方向はコンピュータによる補助付きの機械式制御の組み合わせです。複座型のFC-1B/JF-17Bでは操縦系統が一新され、3軸安定式の4重デジタル・フライ・バイ・ワイヤが採用され、この改良は以降の単座型にも適用されました。エンジンは、ロシアのクリーモフ製RD-33ターボファンエンジンの派生型であるRD-93を搭載しています。中国ではRD-33をベースにしたWS-13エンジンも開発されており、一部の機体で搭載試験が行われたと報じられています。

機内燃料搭載量は2300kgで、戦闘行動半径は空対空任務で約1,200km、対地攻撃任務で約700km、フェリー航続距離は約1,800kmとされています。パキスタンでは空中給油能力の付与を進めており、ブロック2仕様機では給油プローブが装備されています。

主翼下などに設けられた7箇所のハードポイントには、PL-12などの中距離レーダー誘導ミサイルをはじめ、各種の空対空・空対地・空対艦ミサイル、精密誘導爆弾、通常爆弾などを搭載可能です。JF-17Bおよび以降生産された単座型は、WMD-7照準ポッドに対応し、各種誘導兵器の運用能力が向上しました。ブロック3では、長射程のPL-15ミサイルも搭載可能になっています。

価格は約1,500万ドルと、作戦用ジェット戦闘機としては比較的安価であり、共同開発国であるパキスタン空軍だけでなく、旧式化したMiG-21やF-5などの後継機を探す発展途上国にとって魅力的な選択肢となっています。

発展型と配備・運用状況

FC-1/JF-17は、継続的な改良によりいくつかのブロックに分かれています。初期生産型がブロック1、2015年に初飛行した改良型がブロック2、そして2020年に初飛行した最新型がブロック3です。ブロックごとにアビオニクスや兵器搭載能力、空中給油能力などが強化されています。また、転換訓練や実戦にも使用可能な複座型のFC-1B/JF-17Bも開発され、2017年に初飛行しています。

JF-17の主な運用者はパキスタン空軍です。2003年に中国との間で取得に関する覚書が交わされ、中国とパキスタンで共同生産が進められました。2007年には最初の2機がパキスタンに到着し評価試験を開始。その後、中国からの売却とパキスタンでのライセンス生産が進み、2023年時点でパキスタン空軍はブロック1、ブロック2、そして複座型JF-17Bを合わせて125機以上を保有しています。パキスタンは最終的に250機程度のJF-17を導入する計画と報じられています。また、既存のブロック1機体をブロック2仕様に改修する作業も行われています。

パキスタンは人民解放軍空軍にもJF-17が配備されることを期待したとされますが、中国国内ではより大型で重武装の殲撃10型（J-10）が多用途戦闘機の役割を担っており、JF-17は中国軍には採用されていません。

実戦での使用例として、パキスタン空軍は2019年2月27日、カシミール地方でインド空軍機との交戦において、JF-17がインド空軍のMiG-21を撃墜したと発表しています。

輸出状況

FC-1/JF-17は、中国とパキスタン双方が海外への売り込みを行っており、特にパキスタン側でのセールス成功例が多いです。世界全体で1,500機程度の需要があるという予測もあり、中東やアフリカ諸国を中心に輸出が図られています。

これまでに、ミャンマー（16機導入報道、一部非稼働情報あり）、ナイジェリア（3機配備）、イラク（12機契約報道）、アゼルバイジャン（機数不明ながら契約報道）などが採用を決定しています。スーダンやジンバブエも導入を検討していると報じられていますが、まだ実現には至っていません。過去にはアルゼンチンやスリランカが導入を検討しましたが、様々な事情により実現しませんでした。

評価

パキスタン空軍の関係者からは、米国から導入したF-16A/Bよりも高性能であるとの評価が示されています。また、JF-17はロシアのSu-30やMiG-29といったより強力な戦闘機に対しても対抗可能であるとも言われていますが、これは年間飛行時間が豊富なパキスタン空軍パイロットの練度も加味されている可能性があります。

主要諸元（FC-1/JF-17単座型）

乗員: 1名
翼幅: 9.46m
全長: 14.96m
全高: 4.77m
空虚重量: 6,411kg
通常離陸重量: 9,072kg
最大離陸重量: 12,474kg
最大兵器ペイロード: 6,063kg
最大兵器搭載量: 3,629kg
エンジン: クリーモフ RD-93 ターボファンエンジン × 1基 (ミリタリー推力: 50.0 kN, アフターバーナー使用時: 81.3 kN)
最大速度: マッハ 1.6 - 1.8
通常航続距離: 2,037km
戦闘行動半径: 900km
実用上昇限度: 15,240m
荷重制限: 8.5G
固定武装: GSh-23-2 23mm機関砲 × 1門
機外装備: PL-5EII、SD-10などの空対空ミサイル、LD-10対レーダーミサイル、C-802対艦ミサイル、ラード巡航ミサイル、各種通常爆弾・誘導爆弾など

登場作品

小説:
『第三次世界大戦』
ゲーム:
『Digital Combat Simulator』（DCS World）
『War Thunder』

関連項目

JL-9（FT-7派生、FC-1と類似した設計思想を持つ練習機）

外部リンク

China Defense Today （英語）

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