FD (ファイル管理ソフト)

FDとは



FDは、MS-DOS上で動作するファイルマネージャであり、フリーウェアとして提供されていました。初期のMS-DOS環境では、ファイルやディレクトリを管理するための統合的なソフトウェアが存在せず、ユーザーはコマンドラインで一つずつ操作する必要がありました。FDの登場は、このような非効率的なファイル操作を劇的に改善し、ユーザーエクスペリエンスを大きく向上させました。

FD登場の背景



MS-DOS環境初期には、ファイルの操作はコマンドラインが基本でした。`DIR`コマンドでファイル名を確認し、`CD`コマンドでディレクトリを移動するといった作業を繰り返す必要があり、これは非常に手間のかかる作業でした。一部のユーザーは、UNIXライクなツールを自作したり、市販のユーティリティを導入していましたが、これらの方法は一般ユーザーには浸透していませんでした。

ファイラーの登場は、この状況に大きな変化をもたらしました。現在のエクスプローラのように、ディレクトリ内のファイルを一覧表示し、そこからファイルの削除、改名、移動、コピー、実行などの操作をメニューから選択できるようになりました。欧米ではIBM PCの普及とともに、いくつかのユーティリティが登場していましたが、日本では商用ソフトウェアの『エコロジー』に続き、フリーウェアのFDが登場したことで、MS-DOSでのファイル管理が飛躍的に効率化されました。

FDの歴史



FDは、出射厚氏によって1989年にNECのPC-9800シリーズ向けに開発が開始されました。当時、出射氏は既存のファイル管理ソフトウェアの操作性や速度に不満を感じており、それを改善するためにFDの開発を決意しました。開発初期にはMS-Quick Basicが使用されましたが、プログラムサイズや実行速度の問題から、アセンブリ言語（米国SLR SystemsのOPTASMを使用）による開発に移行しました。

開発初期のプロトタイプは、岡山市の烏城無線が運営する草の根パソコン通信ネットUJO-NETでのみ公開されていました。その後、仮想ドライブに対応したVer1.04から大手商用パソコン通信サービスであるニフティサーブで公開されました。Ver1.06ではユーザーによるキー設定などの機能が追加され、Ver2.00ではファイルディレクトリのツリー構造を表示する機能が導入されました。Ver3.00ではネットワークドライブに対応し、その後はバグフィックスのみが行われ、大きな仕様変更はありませんでした。1996年12月12日に公開されたVer3.13で、約8年間にわたる開発が終了しました。

FDの公開後、その反響は非常に大きく、商用パソコン通信ネットから地方の草の根BBSまで転載されました。パソコン情報誌の付録ディスクに収録されたり、FDや関連ツールを収録した解説書も発行されたため、パソコン通信を利用しないユーザーにも広く普及しました。その功績が認められ、FDは第1回フリーソフトウェア大賞のユーティリティ部門賞を受賞しました。

アセンブリ言語で記述されたFDは、非常に軽快な動作を実現しており、開発当初から重視された操作性も優れています。PC-9800シリーズ版に続いて、DOS/V|DOS_V版も開発され、さらに有志によって様々なプラットフォームに移植されました。FDの影響を受けて、多くのファイル管理ソフトが開発され、「ファイラー」というジャンルが形成されました。その操作性の良さから、MS-DOS 5.0以降のMS-DOS Shell、Windows 3.1のファイルマネージャー、Windows 95のエクスプローラよりも、FDのようなMS-DOSのファイラーを好むユーザーも多く存在しました。FDは、LHAなどとともに、MS-DOS時代のフリーウェアを代表するソフトウェアの一つとして、日本のソフトウェア文化史に名を刻んでいます。

開発者の出射厚氏は、2004年11月7日に脳腫瘍のため56歳で逝去されました。FDの他にも、テキストファイル閲覧ソフトである「MIEL」（清水洋平氏との共同開発）などのソフトウェアを開発し、DOS時代に大きな足跡を残しました。

FDのクローン



FDの機能や外観を模倣したクローンソフトウェアがいくつか存在します。


これらのクローンは、FDの使いやすさを他のプラットフォームで再現しようとしたものです。FDは単なるソフトウェア以上の存在として、多くの開発者に影響を与え続けています。

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