GJ 1214 b

GJ 1214 b：水の世界の探求

GJ 1214 bは、へびつかい座の方向に約42光年離れた恒星GJ 1214を周回する太陽系外惑星です。2009年 12月に発見されて以来、海洋惑星である可能性が最も高い候補として、天文学者たちの熱い視線を集めています。そのため、「水の世界（The waterworld）」という異名も持っています。

発見の経緯

GJ 1214 bの発見は、MEarthプロジェクトによるものでした。このプロジェクトでは、惑星が恒星の前を通過する際に生じる、ごくわずかな恒星の明るさの変化を検出します。2009年初頭、天文学者たちはGJ 1214の明るさがわずかに暗くなる現象を観測しました。その後の追跡観測により、約1.58日の周期で約1.5%の減光が繰り返されていることが判明しました。

さらに、[ヨーロッパ南天天文台]のHARPSを用いたドップラー分光法による観測が行われました。これらの観測データから、GJ 1214 bの存在が確定し、その発見は学術雑誌ネイチャーに掲載されました。

特徴

GJ 1214 bは、スーパーアースに分類される太陽系外惑星です。半径と質量は木星型惑星よりも小さく、スーパーアースとして確認されたのはCoRoT-7bに次いで2例目です。

この惑星の重要な点は、地球に似た性質を持つ可能性があること、そして21世紀初頭の技術で、惑星が恒星の前を通過する様子を観測し、大気を詳細に研究できることです。

惑星の半径は、トランジット時の恒星の減光割合から、質量は恒星のドップラー効果から推定できます。そして、質量と半径から密度を算出することで、惑星の組成や構造に関する情報が得られます。

GJ 1214 bの温度は、およそ393Kから555K（120℃から282℃）と推定されています。これは、2009年までにトランジット法で発見された惑星の中では最も低い部類に入ります。この温度範囲は惑星の反射率に依存し、反射能が0の場合に上限の555K、反射能が金星と同程度の0.75の場合に下限の393Kとなります。

質量と半径から、GJ 1214 bは主に水（約75%）と岩石（約25%）で構成されていると考えられています。また、惑星の質量の0.005%を占める水素とヘリウムの大気によって覆われている可能性もあります。内部では、高い水圧により水が氷VIIの形態で存在しているかもしれません。

大気の謎

GJ 1214 bは、比較的小さな恒星を周回しているため、トランジット中に分光観測を実施できます。トランジット前後のスペクトルを比較することで、惑星大気のスペクトルを推定することが可能です。

2010年 12月には、750～1000nmの波長範囲に顕著な特徴がないという研究結果が発表されました。これは、木星型惑星のような分厚い水素大気が存在しないことを示唆しています。観測からは明確な水蒸気の兆候は得られていませんが、天文学者たちはGJ 1214 bが主に水蒸気からなる大気を持つと推測しています。

惑星系の年齢から推定される流体力学的な散逸率は高く、惑星は生涯にわたって大気を失い続けていると考えられています。そのため、現在の大気が原始的な性質を保持している可能性は低いとされています。

2010年、ESOはGJ 1214 bの大気を観測し、スーパーアースの大気分析における初の事例となりました。観測以前は雲のない透明な水素大気が予想されていましたが、実際には厚い雲に覆われた水素大気か、高温高圧の水蒸気大気であることが示唆されました。2012年には、ハッブル宇宙望遠鏡による観測で、GJ 1214 bが水蒸気大気に覆われている可能性が確認されました。

名称の由来

2022年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の優先観測目標候補となっている太陽系外惑星を対象とした「太陽系外惑星命名キャンペーン2022（NameExoWorlds 2022）」において、GJ 1214とGJ 1214 bは命名対象となりました。

2023年6月、国際天文学連合（IAU）は最終結果を公表し、GJ 1214はOrkaria、GJ 1214 bはEnaiposhaと命名されました。Orkariaは、ケニア・タンザニアの先住民マサイ族の若い戦士が儀式の際に塗る赤土を指し、GJ 1214の色を連想させます。Enaiposhaは、マサイ語で湖や海などの大きな水の集まりを表し、大量の水に対する畏敬の念を表しています。

今後の展望

GJ 1214 bは、その特異な性質から、太陽系外惑星研究において重要な位置を占めています。今後の観測によって、大気の組成や構造、そして惑星内部の状態がより詳細に解明されることが期待されます。