HD 21749

HD 21749星系

レチクル座の方向に位置するHD 21749は、私たち太陽よりも小さく温度の低いオレンジ色の主系列星です。その見かけの明るさは8.143等級であり、肉眼で観測することはできません。欧州宇宙機関のガイア衛星による詳細な観測の結果、この星は地球から約53光年（約16パーセク）の比較的近い距離にあることが明らかになっています。2019年には、このHD 21749の周囲を公転する二つの太陽系外惑星、すなわち岩石質で高温の「ミニネプチューン」型惑星HD 21749 bと、地球に近いサイズの惑星HD 21749 cが、NASAのトランジット系外惑星探索衛星（TESS）によって発見され、注目を集めました。

恒星の性質

HD 21749はスペクトル分類がK4.5VとされるK型主系列星、いわゆる橙色矮星に分類されます。これは、太陽（G型主系列星）と比較して、より低温で、より小さく、より暗い恒星であることを意味します。推定されるその質量は太陽の約73%、半径は太陽の約70%です。放出される光の総量を示す光度は太陽のわずか約20%に過ぎません。表面の有効温度は約4,640ケルビンと測定されており、これはK型星に特徴的なオレンジ色の光を放つ温度帯です。また、恒星に含まれる水素とヘリウム以外の元素の割合を示す金属量は、私たちの太陽とほぼ同程度と見られています。

この恒星は、そのスペクトルや明るさの変動データから判断すると、ある程度の活動性を持っていることが示されています。これらの観測から、HD 21749は約30日から40日、最も可能性が高い値として約34日という比較的ゆっくりとした自転周期を持つことが推定されています。恒星表面の活動に伴う視線速度の変化は、周囲を公転する惑星の正確な質量を測定する上で困難をもたらす要因の一つとなります。

見かけの伴星

HD 21749は、二重星のカタログにも記載されています。2015年の観測時点では、約22秒角離れた位置に9等級の別の恒星が見えていました。HD 21749自体の固有運動が大きいため、時間の経過とともにこの見かけ上の距離は急速に縮まっています。しかしながら、この恒星はHD 21749よりもはるかに遠方に位置しているとみられており、単に同じ方向に見えているだけで、両者の間に重力的な結びつきはないと考えられています。したがって、この恒星はHD 21749の真の伴星ではありません。

惑星系の発見

HD 21749の惑星系は、2019年にその存在が公表されました。最初に発見された惑星、HD 21749 bは、TESSミッションの初期観測データにおいて、単一のトランジット（恒星の前を惑星が通過する現象）として検出されました。しかし、一回のトランジットだけでは惑星の正確な軌道や公転周期を特定することは困難です。このため、天文学者たちは地上の高精度な分光器であるHARPSを用いて、恒星の視線速度の変化を観測しました。このドップラー分光法によるデータ解析によって、惑星からの信号が確認され、その公転周期と質量が決定されました。その後、2019年4月にTESSからの追加データが公開されると、そこに含まれていた新たなトランジット観測により、HD 21749 bの公転周期が再確認されるとともに、その内側を公転する二番目の惑星、HD 21749 cが新たに発見されました。

惑星HD 21749 b

惑星HD 21749 bは、主星HD 21749から平均して約0.21天文単位の距離を、約35.6日かけて一周しています。そのサイズは地球の約2.9倍の半径を持ち、質量は地球の約20倍と測定されています。これは、サイズとしては海王星よりも小さいものの、密度は海王星よりもかなり高いことを示唆しています。計算された密度は約4.7 g/cm³であり、これはこの惑星が地球半径の約2.1倍程度の大きな岩石質の核を持っており、その周囲を比較的厚いガス層が覆っているという構造モデルと整合します。この惑星は、高温環境にある海王星に似たタイプ、すなわち「ホットミニネプチューン」として特徴づけられます。

惑星HD 21749 c

HD 21749 cは、姉妹惑星であるbよりもさらに主星に近い軌道を公転しています。主星からの平均距離は約0.08天文単位と短く、約7.8日という短い周期で一周しています。この惑星の半径は地球の約1.1倍と測定されており、そのサイズから地球型惑星である可能性が考えられています。特筆すべきは、HD 21749 cがTESSミッションによって発見された最初の地球サイズの惑星であるという点です。その質量は非常に小さく、現在のドップラー分光法による観測データでは精密に測定することが困難であり、質量の上限値として地球の約3.5倍という値が得られているにすぎません。しかし、確率モデルを用いた解析では、その質量は地球の1倍から2倍の間にある可能性が高いと推定されています。

HD 21749星系、特に地球サイズ惑星HD 21749 cの発見は、TESSが小型の系外惑星を高い精度で検出できる能力を持つことを実証し、将来的な地球型惑星探査や生命存在可能性の研究に向けた重要な一歩となりました。

もう一度検索