IBM PC DOS

IBM PC DOSとは

[IBM]] PC DOS（The IBM Personal Computer Disk Operating System）は、IBMが1981年から2000年代初頭にかけて販売していた、IBM PCおよびそのシリーズ向けのオペレーティングシステム]です。[[IBMは、自社PC向けのOS開発をマイクロソフトに依頼し、1981年からPC DOSの販売を開始しました。このOSは、マイクロソフトを通じて他社にOEM提供され、それがMS-DOSとして知られるようになりました。PC DOSとMS-DOSはバージョン5まではほぼ同一の内容でしたが、共同開発契約終了後のバージョン6.x以降は、それぞれ独自の機能が追加され、IBM版はPC DOS 2000が最終版となりました。日本語版では、バージョンJ4.05からDOS/V|DOS_Vが登場し、日本語環境を大きく進化させました。

歴史

[IBM]]でパーソナルコンピュータ]を開発するために集められたタスクフォースは、[[オペレーティングシステムを含む重要なコンポーネントを外部から導入することを決定しました。これは、全てを自社で開発するというIBMの伝統を覆すもので、結果としてIBM PCが業界標準となり、後にIBM自身が主導権を失う原因となりました。しかし、この決定は時間的な制約からやむを得ないものでした。

オペレーティングシステムの導入先としてマイクロソフトが選ばれました。IBMは、マイクロソフトが開発したソフトウェアの所有権はマイクロソフトが保持すべきだと考え、具体的な指示は避けました。タスクフォースの一員であったジャック・サムズは、「社内のプログラマーが他者のソースコードを見て、それをIBMで利用して利益を得たとして訴えられるリスクを避けたかった」と述べています。そのため、マイクロソフトが自らの製品として開発するように依頼したのです。

IBMは1980年7月にマイクロソフトに初めて接触し、調査を行いました。翌月も交渉が続き、最終的に契約が締結されたのは11月初旬のことでした。マイクロソフト社内の記録によると、DOSの最初のバージョンはIBMに15,000ドルでライセンス供与されました。マイクロソフトは、ライセンス料に加えてロイヤルティも受け取っていましたが、その詳細は厳重な秘密とされていました。

マイクロソフトは、シアトル・コンピュータ・プロダクツ(SCP)から86-DOSをライセンス供与され、後に買い取りました。マイクロソフトの従業員ボブ・オレアが、SCPの従業員（後にマイクロソフトに移籍）ティム・パターソンの助けを得て、86-DOSをIBM PC向けに改造しました。1981年2月、オレアは86-DOSをPCのプロトタイプ機で動作させることに成功しました。86-DOSは8インチフロッピーディスクから5.25インチフロッピーディスクに変換され、マイクロソフトの支援を受けてIBMが作成したBIOSと組み合わされました。IBMで要求仕様を作成した人数は、マイクロソフトでコードを作成した人数よりも多かったと言われています。オレアは、IBMの担当者とのやり取りに苦労したそうです。

86-DOSは、IBM PC DOS 1.0と名称が変更され、1981年8月にIBM PCとともにリリースされました。1981年末までにはパターソンが改良を行い、PC DOS 1.1が完成しました。この改良の大きな点は、フロッピーディスクの両面利用を可能にしたことで、記憶容量が160KBから320KBに倍増しました。PC DOS 1.1は1982年3月に完成しました。

その後、マイクロソフトのプログラマー達（ポール・アレン、マーク・ズビコウスキ、アーロン・レイノルズなどが中心）が、ハードディスクに対応したIBM PC/XT向けのPC DOS 2.0の開発を開始しました。最初のPC DOS 1.0がアセンブリ言語で4,000行だったのに対し、2.0は20,000行に及ぶコード量となりました。2.0は1983年3月に正式に発表されました。1984年3月には、IBM PCjrが登場し、PCjrのROMカートリッジとディスクコントローラに対応したPC DOS 2.1がリリースされました。

1984年8月には、[インテル]]の80286プロセッサを搭載したIBM PC/ATが登場しました。より大容量のハードディスクドライブと高密度[[フロッピーディスク]に対応したPC DOS 3.0が動作しました。

1985年8月、IBMとマイクロソフトは、新たなオペレーティングシステムの共同開発契約を結びました。当初、Advanced DOSと呼ばれていたものが、1987年4月2日にOS/2として発表されました。同時に、IBMは次世代のパーソナルコンピュータであるIBM Personal System/2をリリースしました。1988年7月には、IBM主導で開発されたIBM DOS 4.0が出荷され、DOSシェルが標準となりました。

一方、デジタルリサーチはDR DOS 5.0をリリースし、マイクロソフトに対抗しようとしました。これに対し、マイクロソフトはまだ存在しない5.0を発表し、開発を急ぎました。IBM DOS 5.0とMS-DOS 5.0は、IBMとマイクロソフトがコード全体を共有した最後のDOSとなり、OS/2 2.0にも組み込まれ、後のWindows NTの仮想DOSマシンのベースとなりました。

IBMとマイクロソフトのOS共同開発契約が終了した後、両者はOS開発で袂を分かつこととなりました。契約条件に基づき、IBMは自社用DOSの権利を保持し、DOSの開発を続けました。また、OS/2上でWindowsアプリケーションが動作する機能(WIN-OS/2)も保持しました。マイクロソフトはDOSの範囲を限定し、OEM版ディスクには「MS-DOS and Additional Tools」という2つの製品が含まれていることを明示しました。IBMは、独自のエディタや各種ツールを同梱した自前のPC DOS 6.1をリリースしました。PC DOSからQBasicが削除され、エディタも独自のE エディターに変更されました。同年の12月には、PC DOS 6.3がリリースされました。このPC DOS 6.3は、PowerPC版OS/2にも採用されました。

1994年11月には、PC DOS 7.0がリリースされました。プログラミング言語REXXが追加され、フロッピーディスクの新フォーマットXDFをサポートし、容量を1.44MBから1.86MBに拡大しました。また、SAA準拠機能(REXX、IPF形式のヘルプ、unpack2など、OS/2から導入された機能)が追加され、古いDOS版ツールの多くが削除されました。その後、FAT32対応などを行った7.1がIBMのSGSツールキットに組み込まれてリリースされました。

PC DOS 2000はオースティンで開発され、IBMとマイクロソフトのDOS製品群の中で最後の製品となりました。PC DOS 2000はPC DOS 7をベースに、2000年問題に対応し、マイクロソフトのMS-DOSが販売・サポートを終了したため、組み込みシステム市場などで利用されました。

日本語版

日本では、日本語表示のために日本独自の仕様であるマルチステーション5550が発売され、そのOSは「日本語DOS」（通称：漢字DOS、KDOS）と呼ばれ、24ドットフォント（一部モデルでは16ドットフォント）が採用されました。1984年のIBM JXも独自の日本語モードと「日本語DOS」（16ドットフォント）を備えていましたが、オプションの英語モードではPC DOS 2.0を使用し、IBM PCのソフトウェアを利用することができました。

1989年のIBM DOS J4.0（通称：JDOS、24ドットフォント）からは、コマンドで英語モード（IBM DOS 4.0互換）に切り替えられるようになり、さらにIBM DOS J4.0/V（通称：DOS/V|DOS_V）では、専用の日本語用ハードウェアを必要としない新しい日本語モードであるDOS/V|DOS_V（当初は16ドットフォント、後に可変）が提供されました。

各バージョンのPC DOS (IBM DOS) と、これらの日本語版DOSの対応は以下の通りです。

脚注・出典

参考文献
IBM Corporation and Microsoft, Inc,「Dos 3.30: User's Guide」、IBM Corporation、1987年、Part number 80X0933.
IBM Corporation and Microsoft, Inc,「Dos 3.30: Reference (Abridged)」、IBM Corporation、1987年、Part number 94X9575.
IBM Corporation,「Getting Started with Disk Operating System Version 4.00」、IBM Corporation、1988年、Part number 15F1370.
IBM Corporation,「Using Disk Operating System Version 4.00」、IBM Corporation、1988年、Part number 15F1371
IBM Corporation,「IBM Disk Operating System Version 5.0. User Guide and Reference、IBM Corporation、1991年、Part number 07G4584.
IBM Corporation,「PC DOS 7 User's Guide」、IBM、1995年
IBM Corporation,「IBM PC DOS and Microsoft Windows User's Guide」インディアナポリス、Que Corporation、1995年、ISBN 0-7897-0276-2.
『IBM DOS バージョン J5.0 ユーザーズ・ガイド』、日本アイ・ビー・エム、1991年、Part number SC18-2493-00
『PC DOS J6.1/V カンタンDOS』、日本アイ・ビー・エム、1993年、Part number SC88-3049-00
『カ・ン・タ・ンDOS バージョン J6.3/V』日本アイ・ビー・エム株式会社、1994年5月11日。Part number SC88-3074-00。


外部リンク
* IBM ServerGuide Scripting toolkit - DOS EditionにはPC DOS 7.1 (June 2005) が含まれており、LBAとFAT32をサポートしている。

もう一度検索