ICD-10 第6章:神経系の疾患

ICD-10 第6章：神経系の疾患

『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』第10版（ICD-10）における第6章は、神経系の疾患を網羅的に分類したものです。この分類は、中枢神経系（脳と脊髄）および末梢神経系に影響を与えるさまざまな疾患や病態を体系的に整理し、国際的な疾病統計の基礎として機能しています。以下に、主要な疾患群とその詳細を解説します。

(G00-G09) 中枢神経系の炎症性疾患

このカテゴリーには、脳や脊髄の炎症を引き起こす疾患が含まれます。

髄膜炎 (G00-G03)：脳や脊髄を覆う髄膜の炎症。細菌、ウイルス、真菌などが原因となり、発熱、頭痛、項部硬直などの症状が現れます。特に細菌性髄膜炎は重篤で、早期の診断と治療が重要です。
脳炎、脊髄炎、脳脊髄炎 (G04-G05)：脳実質や脊髄の炎症。感染症や自己免疫疾患などが原因となり、意識障害、運動麻痺、感覚異常などの症状を引き起こします。
頭蓋内および脊椎管内の膿瘍および肉芽腫 (G06-G07)：脳や脊髄の内部または周囲に膿が溜まる状態、または炎症性の塊が形成される状態。感染症や炎症性疾患が原因となります。
頭蓋内および脊椎管内の静脈炎および血栓性静脈炎 (G08)：脳や脊髄の静脈における炎症や血栓の形成。脳梗塞や神経症状を引き起こす可能性があります。
中枢神経系の炎症性疾患の続発・後遺症 (G09)：以前に発生した中枢神経系の炎症性疾患によって引き起こされる後遺症や合併症。

(G10-G13) 主に中枢神経系を障害する系統萎縮症

このカテゴリーには、神経系の細胞が徐々に変性・脱落していく疾患が含まれます。

ハンチントン病 (G10)：遺伝性の神経変性疾患で、不随意運動、認知機能の低下、精神症状などが特徴です。
遺伝性運動失調症 (G11)：小脳の変性により、運動の協調性が失われる疾患群。歩行困難、手の震え、構音障害などが現れます。
脊髄性筋萎縮症および関連症候群 (G12)：運動ニューロンの変性により、筋力低下や筋萎縮が進行する疾患群。乳児型（ウェルドニッヒ・ホフマン病）や成人型など、さまざまなタイプがあります。
他に分類される疾患における主に中枢神経系を障害する系統萎縮症 (G13)：癌や甲状腺機能低下症などに伴って中枢神経系に萎縮が生じる病態。

(G20-G26) 錐体外路障害および異常運動

このカテゴリーには、運動の制御に関わる脳の領域（錐体外路系）の障害によって生じる疾患が含まれます。

パーキンソン病 (G20)：ドパミン産生細胞の変性により、振戦、筋固縮、無動、姿勢反射障害などの症状が現れる疾患です。
続発性パーキンソン症候群 (G21)：薬剤、感染症、脳血管障害などが原因でパーキンソン病に似た症状が現れる病態。
基底核のその他の変性疾患 (G23)：ハラーフォルデン・シュパッツ病、進行性核上性麻痺など、基底核の特定の領域が変性する疾患群。
ジストニー (G24)：持続的な筋肉の収縮により、異常な姿勢や不随意運動が生じる疾患。痙性斜頸、眼瞼けいれんなどが含まれます。
その他の錐体外路障害および異常運動 (G25)：本態性振戦、ミオクローヌス、舞踏病、チックなど、さまざまな不随意運動を伴う疾患群。
他に分類される疾患における錐体外路障害および異常運動 (G26)：他の疾患（例：ウィルソン病）に伴って錐体外路系の症状が現れる病態。

(G30-G32) 神経系のその他の変性疾患

アルツハイマー病 (G30)：認知機能が徐々に低下する変性疾患で、記憶障害、見当識障害、判断力低下などが特徴です。
神経系のその他の変性疾患、他に分類されないもの (G31)：限局性脳萎縮、アルコールによる神経変性など、特定の原因や病態が明確でない神経変性疾患群。
他に分類される疾患における神経系のその他の変性障害 (G32)：ビタミンB12欠乏による亜急性連合変性症など、他の疾患に伴って神経系の変性が生じる病態。

(G35-G37) 中枢神経系の脱髄疾患

多発性硬化症 (G35)：自己免疫反応により、脳や脊髄の神経線維を覆う髄鞘が破壊される疾患。視神経炎、運動麻痺、感覚障害など、多様な症状が現れます。
その他の急性播種性脱髄疾患 (G36)：視神経脊髄炎（デビック病）など、多発性硬化症に類似した急性発症の脱髄疾患。
中枢神経系のその他の脱髄疾患 (G37)：びまん性硬化症、橋中心髄鞘崩壊症など、特定の部位に脱髄が生じる疾患群。

(G40-G47) 挿間性および発作性障害

てんかん (G40-G41)：脳の神経細胞の異常な電気活動により、反復性の発作が起こる疾患。部分発作、全般発作、てんかん重積状態など、さまざまなタイプがあります。
片頭痛 (G43)：反復性の頭痛発作を特徴とする疾患。前兆を伴うものと伴わないものがあります。
その他の頭痛症候群 (G44)：群発頭痛、緊張性頭痛、薬物乱用頭痛など、さまざまな原因や特徴を持つ頭痛。
一過性脳虚血発作および関連症候群 (G45)：脳の血流が一時的に途絶えることで、神経症状が一時的に現れる病態。
脳血管疾患における脳の血管(性)症候群 (G46)：脳梗塞や脳出血など、脳血管障害によって特定の脳領域が障害されることで生じる症候群。
睡眠障害 (G47)：不眠症、過眠症、睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシーなど、睡眠に関連するさまざまな障害。

(G50-G59) 神経、神経根および神経叢の障害

三叉神経障害 (G50)：三叉神経痛など、顔面の感覚や運動を司る三叉神経の障害。
顔面神経障害 (G51)：ベル麻痺など、顔面神経の麻痺により顔面の筋肉が動かなくなる疾患。
その他の脳神経障害 (G52)：嗅神経障害、舌咽神経障害、迷走神経障害など、他の脳神経の障害。
神経根および神経叢の障害 (G54)：腕神経叢損傷、腰仙神経叢損傷など、脊髄から出る神経根や神経の束（神経叢）の障害。
上肢の単ニューロパチー (G56)：手根管症候群など、上肢の特定の神経が圧迫や損傷を受ける疾患。
下肢の単ニューロパチー (G57)：坐骨神経痛、足根管症候群など、下肢の特定の神経が圧迫や損傷を受ける疾患。
その他の単ニューロパチー (G58)：肋間神経痛など、体幹の神経が障害される疾患。
他に分類される疾患における単ニューロパチー (G59)：糖尿病性ニューロパチーなど、他の疾患に伴って神経が障害される病態。

(G60-G64) 多発性ニューロパチーおよびその他の末梢神経系の障害

遺伝性および特発性ニューロパチー (G60)：遺伝性のシャルコー・マリー・トゥース病や、原因不明の特発性ニューロパチーなど、末梢神経全体が障害される疾患。
炎症性多発(性)ニューロパチー (G61)：ギラン・バレー症候群など、免疫系の異常により末梢神経が炎症を起こす疾患。
その他の多発(性)ニューロパチー (G62)：薬物、アルコール、毒性物質などが原因で末梢神経が障害される疾患。
他に分類される疾患における多発(性)ニューロパチー (G63)：糖尿病性ニューロパチー、癌性ニューロパチーなど、他の疾患に伴って末梢神経が障害される病態。
末梢神経系のその他の障害 (G64)

(G70-G73) 神経筋接合部および筋の疾患

重症筋無力症およびその他の神経筋障害 (G70)：自己抗体により神経筋接合部が障害され、筋力低下や易疲労性が生じる疾患。
原発性筋障害 (G71)：筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、先天性ミオパチーなど、筋肉自体に異常がある疾患。
その他のミオパチー (G72)：薬物性ミオパチー、アルコール性ミオパチー、周期性四肢麻痺など、さまざまな原因で筋肉が障害される疾患。
他に分類される疾患における神経筋接合部および筋の障害 (G73)：内分泌疾患や癌に伴って神経筋接合部や筋肉が障害される病態。

(G80-G83) 脳性麻痺およびその他の麻痺性症候群

脳性麻痺 (G80)：出生前後の脳の損傷により、運動機能や姿勢の制御が障害される状態。
片麻痺 (G81)：脳卒中などにより、身体の片側に麻痺が生じる状態。
対麻痺および四肢麻痺 (G82)：脊髄損傷などにより、両下肢または四肢全体に麻痺が生じる状態。
その他の麻痺性症候群 (G83)：馬尾症候群など、特定の神経の損傷により特有の麻痺が生じる状態。

(G90-G99) 神経系のその他の障害

自律神経系の障害 (G90)：起立性低血圧、多系統萎縮症など、自律神経系の機能が障害される疾患。
水頭症 (G91)：脳脊髄液の異常な蓄積により、脳室が拡大する状態。
中毒性脳症 (G92)：薬物や毒物により脳機能が障害される状態。
脳のその他の障害 (G93)：脳浮腫、脳ヘルニアなど、さまざまな原因で脳が障害される状態。
その他の脊髄疾患 (G95)：脊髄空洞症、血管性脊髄症など、脊髄の特定の領域が障害される疾患。
中枢神経系のその他の障害 (G96)：髄膜の障害、脳脊髄液漏など、中枢神経系のさまざまな障害。
神経系の処置後障害 (G97)：脊椎穿刺後の脳脊髄液漏など、神経系に対する医療処置後に生じる合併症。
他に分類される疾患における神経系のその他の障害 (G99)：内分泌疾患や代謝疾患に伴う自律神経ニューロパチーなど、他の疾患に伴って神経系が障害される病態。


この分類は、神経系の疾患を理解し、診断や治療を行う上で非常に重要なツールです。

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