MAR-240

MAR-240：イスラエルの自走多連装ロケット砲

MAR-240は、イスラエル国防軍が1970年代から1980年代にかけて運用した自走式多連装ロケット砲です。スーパーシャーマン戦車の車体を流用し、240mmロケット弾の36連装ランチャーを搭載したのが特徴です。1973年の第四次中東戦争や1982年のガリラヤの平和作戦で使用されました。

開発の背景

1967年の第三次中東戦争において、イスラエル軍はエジプト軍やシリア軍から、ソ連製のBM-24自走多連装ロケット砲を多数鹵獲しました。BM-24はZIL-151/157トラックに12連装の240mmロケット弾発射機を搭載したもので、イスラエル軍はこの種の兵器を運用していませんでしたが、鹵獲したBM-24を使用し、その有用性を認めました。

しかし、BM-24は非装甲のトラックに発射機を搭載したものであり、防御力に難がありました。そこで、イスラエル軍は余剰となっていたスーパーシャーマン戦車の車体を活用し、BM-24の発射機を搭載する改造を施すことになりました。

開発と構造

改造は、イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ（IMI）が担当しました。IMIは油圧式の旋回・俯仰角調整機構を組み込んだ36連装の発射機を新たに開発しました。また、240mmロケット砲弾もBM-24と同等のものを国内でコピー生産する体制を整えました。

ベースとなったスーパーシャーマンの車体は、外見上大きな改造は施されていません。砲塔を取り外した砲塔リング部分に旋回式のランチャーを搭載した構造となっています。車体前方のM1919 7.62mm機関銃も副武装として残されています。

運用と戦歴

こうして完成した兵器はMAR-240と名付けられ、イスラエル軍に配備されました。MARはMedium Artillery Rocket（中型ロケット砲）の略です。MAR-240は2個の砲兵大隊に配備され、第四次中東戦争で実戦投入されました。その結果、一定の戦果を挙げましたが、射程が約11kmと短いことが課題でした。

そのため、イスラエル軍は射程20～25kmの290mmロケット弾を使用するMAR-290を並行して開発しました。MAR-290は4連装ランチャーを搭載した自走ロケット砲で、MAR-240とともに1982年のガリラヤの平和作戦に投入されました。

MAR-290には、MAR-240と同様にスーパーシャーマンの車体を使用したものと、センチュリオン（ショット）の車体を使用した改良型が存在します。スーパーシャーマン車体を使用したMAR-240とMAR-290は、まとめて「シャーマンMRL」と呼ばれることもあります（MRLはMultiple Rocket Launcher、多連装ロケット砲の略）。

退役と現状

現在、MAR-240/290はアメリカ製のM270 MLRSによって更新され、退役しています。MAR-240の実車は、イスラエルのラトルン戦車博物館に展示されています。

派生型・関連兵器

BM-24: MAR-240開発のベースとなったソ連製の自走多連装ロケット砲
MAR-290: MAR-240の後継として開発された自走多連装ロケット砲
LAR-160: イスラエル製の自走多連装ロケット砲
T34 カリオペ: 第二次世界大戦中にアメリカ軍が使用した自走多連装ロケット砲。M4シャーマンの車体を使用
* Tulip 対地ロケット: 第二次世界大戦中にイギリス軍が使用したロケット弾。M4シャーマンやスタッグハウンド装甲車に搭載

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