MAR-290

MAR-290：イスラエルの自走多連装ロケット砲

MAR-290は、イスラエル国防軍が1980年代から1990年代にかけて運用した自走式の多連装ロケット砲システムです。スーパーシャーマンまたはセンチュリオン（ショットカル）戦車の車体を流用し、290mmロケット弾の4連装ランチャーを搭載しています。1982年のガリラヤの平和作戦（レバノン侵攻）で実戦投入されました。

開発経緯

イスラエル軍は、第三次中東戦争（1967年）でエジプト軍やシリア軍からソ連製のBM-24自走多連装ロケット砲を鹵獲しました。これを参考に、スーパーシャーマンの車体にBM-24の発射機を36連装化したMAR-240を開発し、第四次中東戦争（1973年）で運用しました。

MAR-240は一定の戦果を挙げましたが、射程が約11kmと短いため、イスラエル軍はより長射程のロケット弾の開発に着手しました。1968年に290mmロケット弾の開発が開始され、1970年代にMAR-290として実用化、1982年のガリラヤの平和作戦で実戦投入されました。MARはMedium Artillery Rocket（中型ロケット砲）の略です。開発はイスラエル・ミリタリー・インダストリーズ（IMI）が担当しました。

構造と特徴

スーパーシャーマン車体に搭載された発射機は、MAR-240と同様の金属棒を組み合わせた簡素な構造で、油圧式の旋回・俯仰角調整機構を備えています。車体への大規模な改造は行われていません。車体前方の車載機銃マウントは残されていますが、砲兵用の足場が装着されているため、使用可能かどうかは不明です。

MAR-240のロケット弾は、BM-24の砲弾をコピーしたもので、重量約100kg、長さ1～1.5m程度でした。これに対し、MAR-290のロケット弾は長さ5.45m、重量600kgと巨大になり、人力での再装填には45分もかかりました。

スーパーシャーマン車体にMAR-240またはMAR-290を搭載したものは、シャーマンMRL（Multiple Rocket Launcher、多連装ロケット砲）と呼ばれることがあります。スーパーシャーマン車体のMAR-290は、現在、イスラエルのラトルン戦車博物館およびイスラエル砲兵隊博物館に展示されています。

ショットカル車体搭載型

MAR-290には、スーパーシャーマン車体の他に、より大型のセンチュリオン（ショットカル）戦車の車体を使用したものも開発されました。こちらもイスラエル砲兵隊博物館に実物が展示されています。

ショットカル車体のMAR-290の発射機は、トラス構造からパイプ状の構造に変更され、重量が増加していると考えられます。ロケット弾の射程も40km程度に延伸されています。車体は、スーパーシャーマン車体と同様に、元の戦車からの大きな変更はありません。製造数は不明です。

退役と後継

現在では、スーパーシャーマン車体・ショットカル車体を含めて、MAR-290はアメリカ製のM270 MLRSに更新されています。

関連項目

イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ
ロケット砲 / 多連装ロケット砲
M4シャーマン / スーパーシャーマン
センチュリオン / ショットカル
MAR-240 / LAR-160
T34 カリオペ ロケットランチャー：第二次世界大戦中にアメリカ軍が使用した自走多連装ロケット砲。M4シャーマンの車台を使用。
* Tulip 対地ロケット：第二次世界大戦中にイギリス軍が使用したロケット弾。M4シャーマンの砲塔に航空機用RP-3ロケット弾の発射機を装着。

外部リンク

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