MOONGLOW (山下達郎のアルバム)

山下達郎『MOONGLOW』：時代を反映したライブ重視の傑作アルバム

1979年10月21日、山下達郎の4作目となるスタジオアルバム『MOONGLOW』がリリースされました。このアルバムは、それまでの山下達郎の音楽性とは異なる側面を見せており、彼のキャリアにおける重要な転換点の一つと言えるでしょう。

前作『GO AHEAD!』に収録されていた「BOMBER」が大阪のディスコでヒットしたことがきっかけとなり、山下達郎は大阪でのライブを行うことになります。1974年のシュガー・ベイブ時代以来となる大阪での公演は、山下達郎にとって大きな驚きとなりました。予想をはるかに超える観客の熱狂的な反応は、彼に「時代の空気に近い作品を作りたい」という強い意欲を掻き立てました。

ちょうどこの頃、山下のディレクターである小杉理宇造が、RVC内に独立レーベル「AIR」を設立します。『MOONGLOW』はこの新レーベルからの第一弾作品として世に出ることとなりました。

レコーディングメンバーは前作とほぼ同じでしたが、出来上がった作品の方向性は大きく異なっています。『GO AHEAD!』が作家性の強いスタジオワーク主体のアルバムだったのに対し、『MOONGLOW』は、ライブでの再現性を重視し、より時代の空気を反映したサウンドに仕上がっています。山下達郎自身も、同じリズムセクションを起用しながらこれほど対照的なアルバムを作ったのは珍しいと語っています。興味深いことに、この『MOONGLOW』は、後に山下達郎が全曲をライブで演奏した唯一のアルバムとなりました（2002年時点）。

『MOONGLOW』は、小規模なツアーを経て、1980年には全国ツアーへと発展します。このツアーの成功も後押しとなり、アルバムは1年間チャートインするロングセラーとなり、次のアルバム『RIDE ON TIME』へと繋がる重要なステップとなりました。また、第22回日本レコード大賞ベスト・アルバム賞を受賞するなど、高い評価を受けました。

音楽性と収録曲

『MOONGLOW』は、シカゴ・ソウルやブラック・ロック、ドゥーワップなど、様々な音楽的要素を取り入れながら、山下達郎独自のポップセンスが光る作品となっています。

A面は、アカペラで始まる「夜の翼」から始まり、マイアミのTKレーベル風サウンドの「永遠のFULL MOON」、アン・ルイスのために制作された後に自身のアルバムに収録された「RAINY WALK」、シカゴ・ソウルの影響が濃い「STORM」、そしてポリリズムが特徴的な「FUNKY FLUSHIN'」と、多彩な楽曲が並びます。「FUNKY FLUSHIN'」は、後にベストアルバム『GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』で再録音されています。

B面は、アイズレー・ブラザーズを思わせる「HOT SHOT」、キングトーンズに提供した楽曲をセルフカバーした「TOUCH ME LIGHTLY」、「RIDE ON TIME」でバックバンドを務める伊藤広規と青山純が参加している「SUNSHINE −愛の金色−」、ニューヨークでのタクシー事故を題材にした「YELLOW CAB」、そして日本航空の沖縄キャンペーンCMソングとなった「愛を描いて -LET'S KISS THE SUN-」と、バラエティ豊かな楽曲が収録されています。

後世への影響と再評価

『MOONGLOW』は、山下達郎の音楽的幅の広さと、時代の空気を読み取るセンスを示す重要な作品であり、彼の後の作品にも大きな影響を与えました。また、2002年にはデジタルリマスタリングされ、未発表音源を含むボーナスディスク付きで再リリースされました。そして2023年には、RCA/AIR YEARSシリーズの一環として、アナログ盤とカセットテープで再発され、高い人気を改めて証明しました。オリコン週間アルバムランキングでは、43年以上の時を経て初めてTOP10入りを果たし、邦楽アーティストにおける「同一作品による週間アルバムランキング初ランクインからTOP10入りまでのインターバル記録」過去最長を更新するという快挙を成し遂げました。これは、長年にわたって愛され続けている『MOONGLOW』の、普遍的な魅力を示す証と言えるでしょう。

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