MZ (コンピュータ)

シャープ MZシリーズ



MZシリーズは、1970年代後半から1980年代にかけてシャープが販売していたパソコンのシリーズ名です。当時、シャープはパソコン御三家の一角として知られていました。

設計とシステム構成



MZシリーズの始まりは、1978年5月に発売されたマイコン博士MZ-40Kという4ビットマイコンのトレーニングキットでした。この製品を発案した部署は部品を販売する部門で、計算機を扱う部署との摩擦を避ける意味合いもあり、MZ-40Kに続き、技術者向けのトレーニングキットという名目でMZ-80Kが半完成キットとして発売されました。また、MZ-80Tというワンボードトレーニングマイコンも存在しました。

シリーズ全体の特徴として、以下の点が挙げられます。

クリーン設計



MZ-80Kの試作機ではBASICがROMに搭載されていましたが、ROMを外部調達する都合上、バグ発生時の損害を避けるため、システム全体をROMに格納せず、最低限のモニタープログラムのみをROMに搭載し、基本プログラムはカセットテープなどのメディアで供給するという「クリーンコンピューター」という方式が採用されました。この設計は、結果的にユーザーが自由にソフトウェア開発を行える環境を生み出し、ハドソンソフトやキャリーラボなど、様々なソフトウェアハウスから言語やOSが発売されました。また、シャープ自身もハイスピードBASICなどのソフトウェア的アップグレードを実施しました。このクリーン設計は、ソフトウェアの柔軟性を高め、以降のMZシリーズの特徴として広告にも利用されました。ただし、初期のシステム起動にはデータレコーダーから数分を要し、FDDの利用で10秒前後に短縮されました。また、MZ-80B以降のIPLにより、メモリーボードから起動することで改善されました。

実装の変遷



MZ-80Kでは、コマンドは6種類しか実装されていませんでしたが、ROMに実装されたモニターは現在のBIOSに相当し、文字表示や内蔵デバイスの入出力、音の出力などのローレベルな処理が組み込まれていました。MZ-80Bでは、IPLのみをROMに実装し、モニタを含むシステムプログラムは全てRAMに展開される設計となり、X1ではアドレスデコードの工夫によって、IPLが直接読み込むことが可能な容量が増えました。しかし、X1turboやMZ-2500では、複雑化したハードウェアをサポートするためにBIOSが本体に実装されるようになり、初期の設計思想とは異なる形となりました。他の機種でも、起動時にディスク対応モジュールを読み込んだり、ROMバンクをRAM化したりするなど、実質的な実装の差は、互換性を維持するためのBASIC-ROMの有無に集約されていきました。

オールインワン設計



初期のMZシリーズは、本体・ディスプレイ・キーボード・データレコーダーを一体化し、本体のみで最低限のシステムが完結するように設計されていました。筐体は底面のビスを外すことで、背面蝶番を支点に持ち上げることができ、内部のメンテナンスが可能でした。MZ-3500やMZ-5500シリーズを除き、MZ-2000やMZ-1200の世代までこの特徴的な設計が受け継がれていましたが、ディスプレイのカラー化やコストのバランスから、MZ-700以降は見られなくなりました。

アルゴマーク



MZ-80Kの発売に合わせて、ブランド確立のため、シリーズのシンボルマークとして、ギリシャ神話のアルゴ号をモチーフにしたデザインが制定されました。このマークは、当時家電メーカーとしてのイメージが強かったシャープが、新しいベンチャーとしてのイメージを託すために新設されました。この象徴的なマークは、最終機まで引き継がれ、MZ-2500やMZ-2861では特殊キーの一つとしてロゴが描かれたキーが存在しました。

内蔵データレコーダー



MZシリーズの内蔵データレコーダーは、専用に周辺回路が設計されており、競合製品よりも高い信頼性と読み書き速度を誇っていました。記録されるデータはソフトウェア制御によるPWM変調で、同じデータを二回記録し、読み込み失敗時に二度目のデータを読み込む方式が採用されていました。MZ-80Bでは、ソフトウェアによる頭出しや早送り、巻き戻しなどの制御が可能となりました。このデータレコーダーは、X1でも採用されました。MZ-2500では、録再ヘッドがステレオ仕様になり、データと音声を同時に記録・再生できるようになりました。このデータレコーダーの高性能さが、純正FDDの高価格と相まって、フロッピーディスクの標準搭載が遅れる要因となりました。

フロッピーディスクインターフェース



FDDインターフェースの初期回路設計では、本来負論理のバッファを通すところを直結したため、互換性のない機種でもディスクサイドの指定や実記録データが反転していました。初期の1Sドライブが片面35トラックだったため、純正FDDのMZ-80BFではヘッドにストッパーが装着され、公式なトラック数が2Dでも片面35トラックとなっていました。しかし、コントローラーやドライブ自体はそれ以降のトラックも扱えるため、改造やソフトウェアによって80トラックを利用することが可能でした。Hu-BASICでは、ソフトウェア的に反転させることで、記録媒体レベルでのX1との互換性を実現しました。

プリンターインターフェース



プリンターインターフェースは初期の実装では、MZ-80K系とMZ-80B系で異なる独自仕様でしたが、MZ-2000以降は一般的なセントロニクス準拠仕様に変更されました。MZ-1500では、MZ専用仕様とセントロニクス準拠仕様を切り替えるディップスイッチが搭載されていました。最初に発売されたMZ-80P2は放電破壊プリンターで、その後のMZ-80P3以降はドットマトリクスプリンターでした。MZ-700には専用内蔵プリンタがあり、その後継機であるMZ-1500にも外付け可能なMZ-1P09が発売されました。このプリンタは、ボールペンでカラーペンプロッターを安価に実現していました。

回路図・ソースコード



MZシリーズの特徴として、MZ-2200の時代まで、本体の回路図、モニタのソースコード、Z80の命令表など、ハードウェアとソフトウェアを製作するのに必要な情報が、標準添付のOwner's Manualに記載されていました。シャープ純正の開発ツールは高価でしたが、社内開発担当者はこれらの情報を有効活用していました。MZ-1500の回路図とROMモニタのソースコードは、工学社の『MZ-1500 テクニカル・マニュアル』に、MZ-2500の回路図は、電波新聞社の『Super MZ活用研究』、工学社の『MZ-2500 テクニカル・マニュアル』、ソフトバンクの『Oh!MZ』に掲載されました。BIOSやBASICのソースリストも工学社から発売されました。

製品系列



MZシリーズは、MZ-80K系、MZ-80B系、MZ-2000系、PC-3100系、MZ-5500系など、様々な系列に分かれています。MZの名称は、シャープのMebiusとZaurusの頭文字に引き継がれているという説もあります。

部品事業部によるMZ



MZ-80K系列


ローエンドを担い、MZ-1200やMZ-700に繋がるシリーズで、CPUはZ-80 2MHzでした。MZ-40Kを祖とするマイコンキットから派生したグループで、低価格普及機でしたが、周辺機器を揃えると100万円を超えることもありました。

  • - MZ-80K：1978年発売。20KB RAM搭載。セミキット。
  • - MZ-80C：1979年発売。48KB RAM搭載。フルキーボード。
  • - MZ-80K2：1980年発売。32KB RAM搭載。完成品。
  • - MZ-80K2E：1981年発売。32KB RAM搭載。廉価版。

MZ-80B系列


ハイエンドを担い、MZ-2000に繋がるシリーズで、320×200ピクセルのグラフィック画面を最大2画面サポートし、CPUは4MHzでした。


情報システム事業部によるMZ



1982年に部品事業部から情報システム事業部にパソコン事業が移管されました。MZの型番は、シリーズ名に下二桁が00の3〜4桁の数字で、PC型番は、PCからMZにシリーズ名が変更され、命名規則が変わりました。周辺機器の型番もリセットされ、シリーズ全体でカテゴリごとに末尾1からの連番で割り当てられました。

ホビー向けMZ


部品事業部が展開していたホビー向けの流れを受け継ぐシリーズです。

  • - MZ-1200系列：CPUはZ-80A 3.58MHz、64KB RAM搭載。
- MZ-80A(MZ-1200)：1982年発売。MZ-80K系の完全互換機。
- MZ-700：1982年発売。モニター一体型筐体を廃止。
- MZ-1500：1984年発売。QD内蔵。
- MZ-800：1984年-1985年発売。MZ-700の海外向け後継機。

  • - MZ-2000系列
- MZ-80B2：1982年発売。MZ-80BにグラフィックRAMを標準実装。
- MZ-2000：1982年発売。モノクロディスプレイ、高機能データレコーダ内蔵。
- MZ-2200：1983年発売。コンポーネントタイプ。
- MZ-2500：1985年発売。Z80B(6MHz)搭載。
- MZ-2861(MZ書院)：1987年発売。8bit(Z80) & 16bit(80286) CPU搭載。

ビジネス向けMZ


情報システム事業部が展開していたビジネス向けシリーズの後継機です。

  • - MZ-3500系列：1982年発売。Z-80A×2基搭載。
- MZ-3531：5.25インチFDDを1基搭載。
- MZ-3541：5.25インチFDDを2基搭載。

  • - MZ-5500/6500系列
- MZ-5500：1983年発売。16ビットの8086CPUを搭載。
- MZ-5501：RAM128KB搭載。FDDはオプション。
- MZ-5511：RAM128KB搭載。5.25インチFDDを1基搭載。
- MZ-5521：RAM256KB搭載。5.25インチFDDを2基搭載。
- MZ-6500：1984年発売。クロック周波数を8MHzに高速化。
- MZ-6541：5.25フロッピーディスクドライブを2基搭載。
- MZ-6545：5.25フロッピーディスクドライブを1基＆10MBハードディスク搭載。
- MZ-5600：MZ-6500の海外モデル。
- MZ-6500C：MZ-6500の後継機種。
- MZ-6550：80286 CPU、縦置き筐体。

PC/AT互換機|PC_AT互換機



ソフトウェア



自社供給



BASIC'>[シャープ]]は、SHARP BASIC]を標準添付・オプションとして供給しました。演算精度が高いもの、漢字表示対応、特定デバイスのサポート、カラー表示サポートなど、拡張機能を実装した[[BASICもオプションで提供されました。また、マクロアセンブラ、マシンランゲージモニタなども提供され、強力な開発環境が提供されました。FDOSにはアセンブラやBASICコンパイラが同梱されており、当時のCP/M-80を凌駕するものでした。プログラマーは様々な言語を選択できましたが、アプリケーション使用者はその言語を購入する必要がある場合もありました。

サードパーティによる供給



多くのサードパーティからソフトウェアが供給され、MZシリーズの多様性を高めました。

ハドソン



キャリーラボ


  • - BASE
  • - WICS

アスキー(ACPアスキーコンシューマプロダクツ)


  • - GAME-MZ
  • - TOS-80B

デービーソフト (dB-SOFT)



COMPAC(工学社)


  • - BASIC機能拡張
  • - COMMAND UP
  • - S-OS


参考文献




関連項目




外部リンク



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