工学社

株式会社工学社は、東京都新宿区に本社を置く老舗の出版社です。コンピュータ関連書籍を専門に発行しており、特に1970年代後半から1980年代にかけて、日本のパーソナルコンピュータ黎明期を支える重要な役割を果たしました。

その歴史は、1970年代末に創刊されたパソコン雑誌『I/O』に遡ります。『I/O』は、日本の初期のパソコンユーザーにとってなくてはならない存在でした。後のアスキー株式会社の創業者である西和彦氏も創刊メンバーに名を連ねていたことでも知られています。 雑誌には、多くの自作プログラムが掲載され、特に「芸夢狂人」といったパワーユーザーたちの作品は、読者から絶大な人気を博しました。プログラムはリスト形式で掲載されるだけでなく、早くからソノシートやフロッピーディスク、そして後にCD-ROMやDVD-ROMといったメディアを同梱するなど、革新的な出版手法をいち早く取り入れていました。『I/O』の姉妹誌『PiO』も同様のスタイルで人気を博しました。

工学社はパソコン雑誌の発行にとどまらず、コンピュータ将棋の発展にも大きく貢献しました。1980年代には精力的にコンピュータ将棋に取り組み、その活動は現在のコンピュータ将棋選手権大会などの礎となっています。

さらに、工学社は同人作家向けのCG情報誌や、DTP（デスクトップパブリッシング）関連書籍を数多く発行するなど、多様な分野をカバーしていました。これらの出版物は、クリエイターや技術者の創作活動や業務を支える重要な役割を果たしました。

本社所在地は、創業当初は渋谷区にありましたが、その後代々木に移転し、長らく「ぜんらくビル」を拠点としていました。2000年代頃には現在の新宿区に移転しています。

工学社は、パソコン通信サービスの先駆けともいえるTeleStar（テレスター）を1984年3月に開始しました。これは、日本航空のJALNET、アスキーネット、PC-VAN、NIFTY-Serveといった後の主要なパソコン通信サービスに先立つものでした。

TeleStarは、当時としては画期的なサービスでした。300bpsの音響カプラとセットでの入会も可能で、高価な機器にもかかわらず、多くのユーザーがパソコン通信の魅力に惹かれて加入しました。サービスの開始当初は、アクセスポイントが東京に限定されていましたが、その後、衛星回線を利用した「TeleStar Sky」を導入することで、大阪、仙台、福岡などへのサービス拡大を実現しました。さらに、NTTのパケット通信サービスDDX-TPの開始によって、全国からのアクセスが可能となりました。

TeleStarのサービス内容は、掲示板、チャット、ファイルのアップロード・ダウンロードなどでした。独自のバイナリ転送プロトコル「abc手順」を採用し、ワープロ専用機ユーザーも利用しやすい設計になっていました。ユーザーの実名をローマ字で表示するシステムを採用することで、荒らし行為を抑制することに成功しています。掲示板には『I/O』への批判的な書き込みもあったものの、運営側の迅速かつ誠実な対応によって、事態は収束しました。

TeleStarは、パソコンパーツなどの売買掲示板も提供していました。当時の通信事情を反映し、取引は主に現金書留や郵便局の小包を利用したものでしたが、比較的スムーズな取引が行われていたようです。インターネットの普及に伴い、他のパソコン通信サービスがインターネットブラウザ上でのサービスに移行していく中で、TeleStarはパソコン通信に特化したサービスを続けましたが、2000年問題を理由に1999年にサービスを終了しました。

『I/O』誌に掲載されたソフトウェアの販売を担っていたのが、関連会社のコムパックです。当初はカセットテープで提供していましたが、後にTeleStarに移管されました。『I/O』誌は、「日本マイコン連盟」という名目でソフトウェアの投稿を募集し、掲載されたソフトウェアの作者には印税が支払われていました。

工学社は、『I/O』、『PiO』、『NT magazine』、『Professional DTP』、『Computer fan』、『ポケコンジャーナル』など、多くの雑誌を発行してきました。これらの雑誌は、日本のコンピュータ文化の発展に貢献しました。現在も、コンピュータ関連書籍の出版を通じて、日本のIT業界を支えています。

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