MeerKAT

南アフリカに設置された大型電波望遠鏡MeerKATは、口径13.5メートルのパラボラアンテナを64基備える干渉計アレイです。南アフリカ共和国北ケープ州のカルー地域に位置しており、将来的な超大型電波望遠鏡SKA（スクエア・キロメートル・アレイ）計画の試験機としての役割と、独自の科学研究を目的として建設されました。当初は「Karoo Array Telescope (KAT)」として20基のアンテナ構成が計画されていましたが、規模が拡大されて64基となったため、現在の名称に変更されました。この名称は、カルー地域に生息する動物のミーアキャットにちなんでいます。

装置の概要

MeerKATを構成する64台のパラボラアンテナは、口径13.5mのオフセットグレゴリアンタイプです。副鏡の直径は3.8m、アンテナ1基あたりの重量は約42トンです。アンテナは経緯台形式の架台を持ち、強固なピラーの上に設置されています。

アンテナの配置には特徴があります。64台のうち約70%は、最小基線長29m、最大基線長1kmの範囲に比較的密集して配置されています。残りの約30%はより広範囲に分散され、最大で7.7kmの基線長を実現します。これらのアンテナ配置は、いずれも2次元のガウス分布に従うよう設計されています。

MeerKATで現在主に利用されている観測周波数帯は、Lバンド（900～1670 MHz）とUHF帯（580～1015 MHz）です。将来的にはSバンド帯の受信機も搭載される予定であり、そのための試験が進められています。

建設と運用の経緯

MeerKATの開発に先立ち、技術的な検証を目的とした小規模な試験機「KAT-7」が建造されました。KAT-7は7台のアンテナ（口径12m）からなり、2011年に建設が始まり、2012年には試験観測を開始しました。

MeerKAT本体の最初の観測成果である「ファーストライト」画像は、2016年7月16日に南アフリカ共和国のナレディ・パンドル科学技術大臣によって公表されました。この画像は、まず16台のアンテナを用いた観測で得られたもので、MeerKAT Array Release 1 (AR1)システムと呼ばれます。この画像には、わずかな観測範囲内に1300個を超える銀河が写っており、従来の電波望遠鏡が同範囲で検出できた70個程度という数値を圧倒的に上回る高い観測能力を示しました。

さらにアンテナ数を32台に増やした「MeerKAT32」による観測画像が、2017年5月16日に公開されました。この中には、有名な渦巻銀河M83や、天の川銀河内の活発な星形成領域の鮮明な画像が含まれていました。同日、パンドル大臣はMeerKATの完成に向け、南アフリカ国立科学財団に約6億9300万ランドの追加予算を計当することを発表しました。

主な研究テーマ

MeerKATでは、その高い性能を活かした多岐にわたる科学研究が展開されています。主な研究テーマとしては以下の大規模観測プロジェクトがあります。

パルサータイミング: 高速で回転する中性子星であるパルサーから放たれる非常に規則正しい電波パルス信号を精密に測定することで、アインシュタインの一般相対性理論の極めて厳密な検証を目指します。
深宇宙の探査: 遠方宇宙に広く存在する中性水素原子ガスが放射する電波（21cm線）を観測し、宇宙初期から現在に至るまでの銀河の形成や進化、宇宙の大規模構造の変遷などを包括的に探る掃天観測（サーベイ）を行います。
吸収線による深宇宙探査: 遠方の電波源（例えばクエーサー）からの連続電波を背景光として利用し、その手前にある銀河や宇宙空間に存在する水素原子やOH分子などによって引き起こされる吸収線を観測します。特にOH分子の吸収線は、初期宇宙における物理定数が現在の宇宙と比べて変化しているかどうかを探る重要な手がかりとなります。
近傍銀河探査 (MHONGOOSE): 地球から比較的近い距離（20メガパーセク以内）にある多様なタイプの銀河20個を詳細に観測します。これにより、銀河の中心部から、銀河を取り囲む見えない物質であるダークマターハローの領域まで、幅広いスケールに分布するガスの性質やダイナミクスを詳細に調査します。
新しいパルサー探査 (TRAPUM): これまで発見されていない、銀河面内や球状星団などに存在する可能性のある新しいパルサーを網羅的に探索します。
初期宇宙電波探査 (MIGHTEE): COSMOS, XMM-LSSなどの有名な深宇宙探査領域に対し、GHz帯での高感度かつ高解像度の観測を実施します。これにより、宇宙における星形成活動や活動銀河核（中心に超大質量ブラックホールを持つ銀河核）の進化、中性水素ガスの進化、そして宇宙磁場の性質などを包括的に解明することを目指します。
突発天体探査 (ThunderKAT): X線連星、激変星、ガンマ線バースト、Ia型超新星など、短時間で明るさが大きく変動する突発的な電波源を探索し、ブラックホール、中性子星、白色矮星などが関わる連星系における物質の降着やジェット噴出といった現象の物理を研究します。

SKAとの関係

MeerKATは、現在建設が進められている巨大電波干渉計「スクエア・キロメートル・アレイ（SKA）」計画において極めて重要な位置を占めています。SKAは、50 MHzから14 GHzという広範囲の周波数帯をカバーし、総実効集光面積が1平方キロメートルに達する未曾有の規模の電波望遠鏡群です。SKA計画は、高周波数帯（350 MHz～14 GHz）を担当する「SKA1 MID」が南アフリカに、低周波数帯（50 MHz～350 MHz）を担当する「SKA2 LOW」がオーストラリアにそれぞれ建設される予定です。

南アフリカに建設されるSKA1 MIDは、最終的に約200台のパラボラアンテナで構成される計画であり、MeerKATの64台のアンテナは完成後にこのSKA1 MIDの一部として統合され、利用されることになります。SKA1 MIDは、MeerKATの最大基線長7.7kmを大きく上回る150kmの最大基線長を持つ予定であり、これにより感度、分解能ともに大幅な向上が見込まれます。

MeerKATが計画され、その建設が着実に進められていたことは、SKA1 MIDの建設地として南アフリカが選ばれる上で、その技術力、インフラ、運用能力を示す重要な要素となりました。

参考文献

MeerKAT: South African Radio Astronomy Observatory
* SKA South Africa

座標: 南緯30度42分39.8秒東経21度26分38.0秒

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