Multiple Virtual Storage

MVS (Multiple Virtual Storage)とは

MVS（Multiple Virtual Storage）は、1974年にIBMが発表したメインフレーム用オペレーティングシステムです。前身であるOS/360のMVTやOS/VSから発展し、当初は「OS/VS2 R2」と呼ばれていましたが、後に「OS/VS2 MVS」、そして「MVS」として知られるようになりました。MVSは、その後のOS/390やz/OSへと進化を遂げています。

MVSの概要

MVSは、System/360向けのオペレーティングシステムであるOS/360のバリエーションの一つとして誕生しました。OS/360の最初のバリエーションであるPCPにマルチタスク機能を追加したMVT、そして、単一のアドレス空間を複数のタスクで共有する仮想記憶機能を追加したSVSを経て、MVSでは異なるタスクが異なるアドレス空間で動作できる仮想記憶機能が導入されました。

MVSは、当初24ビットシステムをサポートしていましたが、ハードウェアの進化に伴い、XAとESAでは31ビットシステム、z/OSでは64ビットシステムをサポートするようになりました。

MVSのインターフェースとしては、バッチ処理用のJCL（Job Control Language）と、対話式コマンドラインインタープリタであるTSO（Time Sharing Option）があります。TSOは当初オプションでしたが、現在では標準機能となっています。また、ISPF（Interactive System Productivity Facility）は、TSO機能をメニュー形式で提供するインターフェースです。

MVSシステムへのアクセスは、伝統的にIBM 3270端末またはPC上の3270端末エミュレータを介して行われていました。しかし、現代ではWebやGUIをインターフェースとするアプリケーションも増えています。z/OSではTCP/IPが標準サポートされ、システム管理もWebインターフェースやHMC（ハードウェア・マネジメント・コンソール）を通して行われることが増えています。z/OSはPOSIXアプリケーションの実行もサポートしています。

MVSは、1つの物理システムを占有し、その論理単位をLPAR（論理区画）と呼びます。複数のMVSをSysplexという構造体で共同管理することも可能です。異なるLPAR間の連携は、XCF（Cross-system Coupling Facility）やCF/ICF（Hardware Coupling Facility）を通じて行われます。

MVSの利用分野とプログラミング

MVSは主にビジネスや銀行システムで利用されており、業務アプリケーションは主にCOBOLで記述されます。これらのアプリケーションは、IMS（Information Management System）やCICS（Customer Information Control System）のようなトランザクション処理システムで利用されます。CICS環境で動作するプログラムには、EXEC CICSステートメントが挿入され、プリプロセッサによってCICSをコールするコードに変換されます。同様に、DB2を呼び出すSQLも使用可能です。

業務アプリケーションは、COBOLの他にも、C、C++、Java、アセンブリ言語、FORTRAN、BASIC、RPG、REXXなど、様々なプログラミング言語で記述できます。これらの言語のサポートは、LE（Language Environment）という共通コンポーネントにパッケージされ、デバッグ、トレース、プロファイリングなどの機能が提供されます。

MVSファイルシステム

MVSでは、ファイルは「データセット」と呼ばれ、カタログによって管理されます。MVSの文字コードはEBCDICですが、ASCIIやUnicodeへの変換も可能です。

MVSのファイルシステムは、レコード指向のファイルシステムであり、ファイル名は階層的に編成され、ドットで区切られます。各階層は8文字まで、ファイル名全体の長さは44文字までです。ファイル名の階層は、他のOSのディレクトリのように機能しますが、実際のディレクトリではありません。区分データセットは、1階層のディレクトリに似た構造を持ちます。MVSは、VSAM、BSAM、QSAMなど、多様なファイルアクセス方式をサポートしています。

MVSのファイルシステムは、VTOC（Volume Table Of Contents）と呼ばれるディスク構造に基づいています。z/OSでは、POSIX互換のファイルシステムもサポートされており、HFS（Hierarchical File System）やzFSといったファイルシステムが利用可能です。

MVSの歴史

MVSは1974年に発表されて以来、MVS/XA、MVS/ESA、OS/390、そしてz/OSへと進化を遂げてきました。MVSの中核部分は、基本的には変わっておらず、MVS向けに開発されたプログラムは、z/OSでも修正なしに動作することが可能です。

MVSのサポートは既に終了していますが、z/OSは現在もエンタープライズオペレーティングシステムの主力として開発が続けられています。

MVSの進化と現代

z/OSは、古い24ビットMVSアプリケーションを稼働させながら、64ビットハードウェアで動作するJavaプログラムや、柔軟なマウントや長いファイル名をサポートする堅牢なファイルシステムを利用できます。また、IPv6や高速CF、最新のSQLを使用した関係データベースとの通信も可能です。

z/OSは、XML、NFS、CIFS/SMB、TLS/SSLなどをサポートし、ワークロードマネージャーやJavaアクセラレーション機能も備えています。

参考文献

Bob DuCharme: "The Operating Systems Handbook, Part 06: MVS" (available online)
MVS便利帳 - ウェイバックマシン（2004年2月19日アーカイブ分）

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