NIS諸国

NIS諸国とは

NIS（New Independent States：新独立国家諸国）は、ソビエト連邦の解体に伴い独立した、かつての構成共和国群を指します。一般的にはロシア、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタン、ジョージア、アゼルバイジャン、アルメニアの12か国を指しますが、広義にはエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国を含めた15か国を指すこともあります。

これらの国々は、ソ連崩壊以前にはウクライナSSR、白ロシアSSR、モルダヴィアSSR、ロシアSFSRなど、15の構成共和国でした。ロシア側はこれらの国々を「近くの外国」と呼ぶことがあります。

ソ連崩壊と後継国家

冷戦終結後、国際社会はロシアを事実上、ソ連全体の後継国家として承認しました。しかし、他の構成共和国はそれぞれの共和国の後継としてのみ認められました。ただし、ウクライナは自国がウクライナ・ソビエト社会主義共和国とソ連全体の双方の後継国家であると主張しています。ソ連の国有財産をめぐり、ロシアとウクライナの間で紛争が発生しました。

バルト三国は1990年から1991年にかけてソ連からの独立を宣言し、他の12か国も後に独立しました。その後、これらの国々は独立国家共同体（CIS）を設立しましたが、バルト三国はEUとNATOへの加盟に重点を置きました。ウクライナとジョージアは、ロシアによる内政干渉を警戒し、NATO加盟を模索していますが、これにより地域の緊張が高まっています。

ソ連崩壊後の紛争

ソ連崩壊後、旧ソ連の領土内には、国際的な承認が分かれるいくつかの未承認国家が誕生しました。モルドバ東部の沿ドニエストル共和国、ジョージアのアブハジアと南オセチアなどです。国連は、ロシアが支援するこれらの地域を非合法な占領地域とみなしています。2014年以降、ウクライナ領内にもロシアが支援するクリミア共和国、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が出現し、地域情勢はさらに複雑化しています。

「近くの外国」という概念

ロシアは、ソ連崩壊後に独立した共和国を指す政治用語として「近くの外国」という言葉を使用しています。この言葉は、ロシアがこの地域で重要な影響力を維持する権利を主張していることを示唆しており、プーチン大統領は、この地域をロシアの排他的な勢力圏とみなしています。これは、アメリカのモンロー主義と比較されることもあります。

各国の現状

経済状況

ソ連崩壊は、計画経済の崩壊と市場経済への移行に伴い、NIS諸国に深刻な経済的混乱をもたらしました。1990年から1995年の間にGDPは大幅に減少し、貧困と格差が拡大しました。その後、経済は回復に向かいましたが、多くの国は依然として1991年の生産水準に追いついていません。各国の新憲法は自由市場経済を強調していますが、政府債務や課税の問題も存在します。

発展と進歩

人間開発指数（HDI）で見ると、エストニア、リトアニア、ラトビアといったバルト三国は非常に高いスコアを誇ります。ロシア、カザフスタン、ベラルーシも高いスコアを維持していますが、ウクライナやモルドバなどの国々は比較的低いスコアにとどまっています。

地域組織

ソ連崩壊後、多くの地域組織が設立されました。独立国家共同体（CIS）は、旧ソ連諸国間の協力と統合を目指しましたが、バルト三国は参加せず、独自の道を歩みました。中央アジア諸国はロシア主導のユーラシア経済連合や集団安全保障条約機構に加盟しています。また、GUAMのような、ロシアの影響力に対抗する目的の組織も存在します。

各地域の組織

独立国家共同体 (CIS)：10か国で構成され、加盟国の状況は異なります。トルクメニスタンは準加盟国、グルジアとウクライナは脱退しています。自由貿易協定も締結されました。
ユーラシア経済共同体 (EAEC)：ロシア、ベラルーシ、カザフスタンなど5か国で設立。後にユーラシア経済連合に統合されました。
ユーラシア関税同盟：ロシア、ベラルーシ、カザフスタンが設立し、単一経済空間も設立。ユーラシア経済委員会が規制機関として機能しています。
ユーラシア経済連合 (EAEU)：ベラルーシ、カザフスタン、ロシアが設立した経済連合。アルメニア、キルギスも加盟し、モルドバとタジキスタンが加盟予定です。
集団安全保障条約機構 (CSTO)：ロシアを中心とする軍事同盟。一部の国は脱退しています。
北大西洋条約機構 (NATO)：エストニア、ラトビア、リトアニアの3か国が加盟。ジョージアとウクライナも加盟を模索しています。
GUAM：ジョージア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバが加盟し、ロシアの影響力に対抗する目的があります。
ベラルーシ・ロシア連合国家：ベラルーシとロシアの統合を目指す組織。
経済協力機構 (ECO)：トルコ、イラン、パキスタンが設立し、旧ソ連のイスラム教国も参加。
民主主義と民族の権利のための共同体：未承認国家が参加する組織。
民主的選択共同体 (CDC)：ウクライナとジョージアが中心となり、旧ソ連圏と中欧諸国が参加。
上海協力機構 (SCO)：中国とロシア、中央アジア諸国が参加する安全保障組織。

政治情勢

フリーダム・ハウスの報告書では、バルト三国は「自由」な国、アルメニア、ジョージア、モルドバ、ウクライナは「一部自由」、その他の国々は「自由ではない」とされています。報道の自由度も同様の傾向にあります。一部の国では、長期間にわたり指導者が交代せず、世襲独裁の傾向も見られます。

分離主義と紛争

ソ連崩壊後の地域では、多くの分離主義紛争が発生しています。沿ドニエストル共和国、南オセチア、アブハジアなどが独立を主張し、クリミア、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国などはロシアに併合されています。また、グルジア内戦やタジキスタン内戦など、内戦も発生しています。

色の革命

2003年以降、選挙をきっかけに民衆の抗議行動が起こり、政権交代につながる「色の革命」が発生しました。ジョージアのバラ革命、ウクライナのオレンジ革命、キルギスのチューリップ革命、アルメニアのビロード革命などが挙げられます。

ロシア語と宗教

ソ連崩壊後も、ロシア語は多くの地域で使用されていますが、公用語としての地位は低下しています。宗教は、ソ連時代に制限されていたものの、再び重要な役割を果たすようになりました。中央アジア諸国とアゼルバイジャンはイスラム教徒が多く、バルト三国はプロテスタントやカトリック、他の地域は東方正教が中心です。

環境問題

ソ連時代には環境保護よりも工業生産が優先されたため、多くの環境問題が発生しました。ソ連崩壊後のNIS諸国では、環境問題の解決に努めていますが、経済的な制約や法規制の不備などの課題も残っています。特に、ロシア、ウクライナ、中央アジア、バルト三国など、地域ごとに特有の環境問題があります。

ロシアの影響

ロシアは、NIS諸国に対して強い影響力を持ち続けています。経済、政治、軍事など様々な分野で、ロシアの影響力が及んでおり、国際社会からも警戒されています。また、ロシア国内ではソ連時代を懐かしむ声も一定数存在します。

各国の人口統計

各国の人口統計については、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、エストニア、ジョージア、カザフスタン、キルギス、ラトビア、リトアニア、モルドバ、ロシア、タジキスタン、トルクメニスタン、ウクライナ、ウズベキスタンの各項目を参照してください。

NIS諸国の今後

NIS諸国は、複雑な歴史と多様な文化を持つ地域です。ソ連崩壊後、政治的・経済的な変革を経験し、それぞれの国が独自の道を歩んでいます。今後は、民主主義の定着、経済発展、地域協力の強化、ロシアの影響力への対応などが重要な課題となるでしょう。

日本とNIS諸国

日本はNIS諸国を地域として捉え、経済委員会を設置するなど、貿易を通じた関係を築いています。

脚注

注釈

出典

参考文献
"Geopolitical and Economic Significance of Central Eurasia: Indian Perspective". Kundu, Nivedita Das. Indian Foreign Affairs Journal; New Delhi Vol. 5, Iss. 3, (Jul–Sep 2010): 324–337.