NSM (ミサイル)

NSM（Naval Strike Missile）

NSM、正式名称「Naval Strike Missile」は、ノルウェーのコングスベルグ・ディフェンス&エアロスペース社（旧NFT社）が開発した、高い能力を持つ対艦ミサイルです。

開発の経緯

本ミサイルの開発は、1988年にノルウェー国内で開始されました。これは、同社が既に運用していた対艦ミサイル『ペンギン』シリーズの次世代型として構想され、ペンギンMk.4とも呼ばれていました。開発初期段階では、外部に装着するブースターを2基使用し、複合材を多用した新しい設計、先進的なコンピュータシステムの導入などが計画されました。

1991年にコンセプト開発契約が締結され、翌1992年から具体的な作業が進められました。開発計画は1994年秋にノルウェー議会の承認を得て、1997年には実物よりも小型のモックアップが作製されました。2000年には、ノルウェー空軍のNF-5戦闘機を用いて空対艦ミサイル（ASM）型の試験が開始され、同年中に実弾による射撃試験も行われました。

最初の量産契約は2007年6月に締結され、ノルウェー海軍では2012年からショル級ミサイル艇やフリチョフ・ナンセン級フリゲートに搭載され、本格的な運用が開始されました。

技術的な特徴

NSMは、その誘導システムにおいて高度な技術を採用しています。中間段階では主に慣性航法システム（INS）とGPSを用いた誘導を基本としますが、沿岸部の複雑な地形や地上での運用に備え、地形照合（TERCOM）機能も有しています。さらに、最大200カ所の経由点を事前に設定することで、複雑な経路を飛行することが可能です。

目標に接近する終末段階では、2波長式の赤外線画像（IIR）誘導方式が用いられます。この方式は、赤外線妨害（IRCCM）に対する高い抗堪性を持つとされています。敵からの迎撃を避けるため、ミサイル本体は複合材料を多用するなど、ステルス性を考慮した設計が施されています。また、敵の対空火器を回避するために、予測困難なランダム機動を行います。飛行制御の面では、先行のペンギンがヨー（垂直軸周りの回転）操作で旋回したのに対し、NSMはバンク（傾き）を用いた旋回を基本としています。

推進システムには、発射時に使用される固体ロケット・モーターと、巡航時に用いられるチュルボメカ社製のTRI-40ターボジェットエンジンが採用されています。ミサイル発射後、固体ロケット・ブースターは投棄されます。

弾頭部は、ドイツのTDW社が開発した近代的な軽量設計に基づいています。チタン合金製の弾頭ケーシングと非感受性高性能爆薬（LLM）を組み合わせた徹甲効果と爆風・破片効果を兼ね備えた弾頭を備えています。弾頭の作動は、空洞感知機能を含む、プログラム可能なインテリジェント多機能信管によって精密に制御され、特に硬い目標に対する効果を最適化するように設計されています。

ミサイルを収容する発射筒キャニスターは、寸法が4×0.81×0.8メートル、ミサイル込みの重量は約710kgです。NSMは艦上配置後3年間は特別な検査を必要とせず、5年から10年ごとのオーバーホールにより最大30年間の運用が可能とされるなど、整備性にも優れています。艦対艦型に加え、様々なプラットフォームからの発射に対応するバリエーションが開発されており、ポーランド海軍では車両に搭載した地対艦ミサイルとして運用されています。また、NSMから派生した長距離対艦・対地ミサイルJSM（Joint Strike Missile）は、特にF-35戦闘機のウェポンベイに内蔵可能な唯一の巡航ミサイルとして注目を集めています。

配備と運用

NSMは、その優れた性能から多くの国で採用が進んでいます。

ポーランド海軍は、2008年と2011年の契約に基づき、地対艦ミサイル型を初期のユーザーとして導入しました。沿岸ミサイル師団に配備され、沿岸防衛能力を強化しています。

ノルウェー海軍による実射試験は成功裏に進められました。2012年10月にはショル級ミサイル艇「HNoMS Glimt」から初の公式射撃が行われ、2013年6月には退役したオスロ級フリゲート「HNoMS Trondheim」を標的とした実弾頭での攻撃試験が成功しています。

アメリカ海軍は、インディペンデンス級沿海域戦闘艦（LCS）「コロナド」に搭載してNSMの試験を実施しました。これは、LCSの対艦攻撃能力を向上させる可能性を探るためのもので、2014年9月に成功裏に終了しました。

環太平洋合同演習（RIMPAC）2014では、ノルウェー海軍のフリチョフ・ナンセン級フリゲートから標的艦への試射が行われ、ミサイルの命中と効果が設計通りであることが確認されました。

マレーシア海軍は、2015年に第二世代哨戒艦への搭載用対艦ミサイルとしてNSMを選定し、契約を締結しました。

NSMは、現在、ノルウェー、ポーランド、アメリカ海兵隊で運用されています。特にアメリカ海兵隊は、海兵沿岸連隊の創設に伴い、地対艦ミサイル部隊向けの装備としてNSMを採用しました。NMESIS（Naval/Marine Expeditionary Ship Interdiction System）と呼ばれる無人化されたL-ATV車両に2連装の発射機を搭載したシステムが2023年度中にハワイで配備される予定です。

将来的な運用国としては、マレーシア、アメリカ海軍、ドイツ、オーストラリア、カナダ、デンマーク、オランダ、ルーマニア、スペイン、イギリスなどが名を連ねています。アメリカ海軍は、次世代の水平線越え対艦ミサイルとしてNSMを選定し、LCSやコンステレーション級ミサイルフリゲートへの搭載を進める計画です。ドイツ海軍はバーデン・ヴュルテンベルク級などに、オーストラリア海軍はアンザック級やホバート級などに、カナダ海軍はリバー級に搭載を予定しています。デンマーク海軍は、ウクライナ供与分のハープーン代替として、イーヴァル・ヒュイトフェルト級への搭載を見込んでいます。イギリス海軍も23型フリゲートや45型駆逐艦への搭載を計画しており、NSMは西側同盟国を中心に広く採用される有力な対艦ミサイルとなっています。ウクライナ、インド、インドネシアなども検討国として挙げられています。

NSMは、そのステルス性、高度な誘導システム、多用途性により、現代の複雑な沿岸環境や対抗手段が発達した状況下でも有効な対艦攻撃手段として、今後もその役割を拡大していくことが期待されています。

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