S3 Graphics

S3 Graphicsの歴史

S3 Graphics, Ltd.は、アメリカのグラフィックスチップ設計製造企業で、前身はS3 Incorporatedです。S3 Incorporatedは、チップス・アンド・テクノロジーズの創業者でもあるダド・バナタオとロナルド・ヤラによって、1989年1月にカリフォルニア州サンタクララで設立されました。1990年代前半にはグラフィックスチップセットの有力ベンダーとして知られていました。

本記事では、S3 IncorporatedとS3 Graphicsの両社について解説します。

参入からViRGEまで

1990年代初頭、パソコンの主流が2Dグラフィックスだった時代に、S3は86C911という画期的な製品を発表しました。これは、従来のフレームバッファとは異なり、グラフィックアクセラレータとして機能し、CPUの負担を軽減するものでした。これにより、パソコンの性能向上が実現し、他社も類似製品を発売するようになりました。

S3のチップ型番は原則として「86C」で始まるため、下3桁で呼ばれることが多く、86C911はポルシェ911にちなんでいます。以降、924や928など、ポルシェに由来する型番の製品が多く登場しました。

最初の製品である911は、発売当初からトップメーカーとなり、特にハイエンド市場を好む日本で人気を集めました。その後、製品ラインナップを拡充し、900番台はデュアルポートDRAMを使用した高性能製品、800番台はシングルポートDRAMを使用したメインストリーム向け製品、700番台はRAMDACを内蔵した普及価格帯製品となりました。24ビットカラー対応の924や、その800番台である805、805のメモリアクセスを高速化した805i、32ビットカラー対応の928など、幅広い市場で高いシェアを獲得しました。1994年には、メモリアクセスを64ビット化した製品が発売され、この製品からVision 964、Vision 864、Vision 764といったペットネームが用いられるようになり、764はTrio64という名称も持ちました。その後、動画再生支援機能を追加したVision 968や868が登場しました。

しかし、1996年にマイクロソフトがDirectX 2.0を発表し、3D APIであるDirect3Dが搭載されると、市場は3D性能を重視するようになりました。S3は独自の命令セットS3dとViRGEシリーズを発表しましたが、価格競争を重視したため、性能面では他社に劣っていました。ViRGEの低価格版であるViRGE/VXも発売されましたが、市場の性能競争は激化する一方でした。

撤退まで

S3は、ViRGE/DX、ViRGE/GX、ViRGE/GX2と、ViRGEシリーズの3D機能を強化しましたが、市場での評価は低迷しました。そこで、開発中のViRGE/GX3やViRGE/GX4をSavage3DやSavage4としてリブランドしましたが、財務状況の悪化により、高性能製品の開発は停滞しました。その後、S3は多くの製品を乱発し、製品ラインナップすら確立できなくなりました。

一方、1996年に3dfxが専用APIであるGlideを採用したVoodooシリーズを発売し、NVIDIAもDirect3Dに対応した高速な製品を次々と発売し、市場を席巻しました。NVIDIAは、S3だけでなく、3dfxなどの競合ベンダーをも市場から駆逐し始めました。決定的な製品としてGeForce256が登場したのです。

S3は、NVIDIAやATIの製品に性能面で遅れを取り、低価格路線は90年代後半にGPU機能がマザーボードのチップセットに統合されたことで、単体GPUの低価格製品市場も縮小していきました。GeForce256に対抗するためにSavage2000を投入しましたが、デバイスドライバやハードウェアT&Lエンジンのバグにより、CPUで処理した方が速いという状況に陥りました。

1999年には老舗のGPUカードメーカーであるDiamond Multimedia Systemsを吸収合併し、マルチメディア機器部門を設立しましたが、2000年4月11日にGPU部門を3億2300万ドルで台湾のVIA Technologiesに売却しました。S3はVIAグループの一員として生き残る道を選びました。その際に両社で設立されたのがS3 Graphicsです。S3本体は2000年8月3日にGPU関連業務から撤退し、社名をSONICblueに変更しましたが、2003年3月21日に連邦倒産法第11章の申し立てを申請して解散しました。

S3 Graphics

S3 Graphicsは、長い間活動状況が不明でしたが、2003年10月にDeltaChromeシリーズを発表し、グラフィックチップ市場に復帰しました。S3 Chromeシリーズは、2000年代には新興国向けの安価な低性能ビデオカードとして知られました。

その後、メインストリームからローエンドをターゲットとし、低発熱や電力あたりのパフォーマンスをアピールする製品を中心に、HDTV出力など2D周辺の独自の機能を多く搭載した製品を投入しました。日本では、チップ製造委託先の富士通を除き、大手メーカー製PCへの採用例はありませんでしたが、自作市場では省電力性や静音性を重視するユーザーに評価されていました。コンシューマ向け製品としては、2008年に発売されたDirectX 10.1対応のChrome 500シリーズが最終製品となりました。

2010年代に入ると、コンシューマ向けからは撤退し、その技術はVIAが提供する業務用のデジタルサイネージ（電子看板）向けの組み込み用チップセットとして活用されています。2011年6月には、Chrome 400/500系列のコアをVIAのデジタルサイネージ製品向けに再構成したチップS3 Chrome 5400Eを発表しました。その後、Chromeは単体のグラフィックカードとしては提供されておらず、VIAのデジタルサイネージシステム用ハードウェアのチップセットとして存続しています。

VIAは、x86互換CPUやマザーボードなどの技術を保有しており、PCベースのハードウェアにセキュリティシステムなどをセットで供給できるメーカーとして評価されています。2014年現在の最新製品は、DirectX 11に対応したChrome 600シリーズです。

2011年7月6日、VIA TechnologiesはS3 Graphicsを同じVIAグループ内のスマートフォンベンダーであるHTCに売却すると発表しました。HTCは2012年以降、アップルなどの競合スマートフォンベンダーに劣勢を強いられる状況が続いたため、S3の持つグラフィック関連の特許を切り札として競合他社に訴訟合戦を仕掛けましたが状況は芳しくありませんでした。HTCのスマートフォン市場における世界シェアは、2011年の8.8％（世界4位）をピークとして、2016年には0.9％まで下降しました。

2017年にはHTCのスマートフォン部門の一部（HTC Pixel端末開発チーム）がGoogleに買収され、HTCのスマートフォン事業が縮小する予定が示されましたが、S3の技術はHTCが保有し、Google社へのライセンスを行う形となっています。

S3の主な製品ファミリ

S3 Vision
S3 ViRGE
S3 Trio
S3 Savage
S3 Chrome

関連項目

VIA Technologies
HTC
DXTC

外部リンク

S3 Graphics（日本語）
S3 Graphics（英語）
S3社の過去製品一覧（英語）
Chrome-Center（英語）

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