S3 Chrome

S3 Graphics Chromeシリーズ

S3 GraphicsのChromeシリーズは、かつて存在したGPU製品のシリーズです。Savageシリーズの後継として、ディスクリートのビデオカードやチップセット統合グラフィックスコアとして採用されていました。ローエンドからミドルレンジをターゲットとし、特に省電力性とHD動画再生機能に重点を置いて開発されていました。

概要

Chromeシリーズは、S3 Graphics社が開発したGPUのシリーズです。コンシューマー向けにはローエンドからミドルレンジを主なターゲットとしており、ノートPC向けの製品も存在しました。Savageシリーズの後継として、その特徴を多く引き継いでいます。

シリーズ共通の特徴

DeltaChrome以降のシリーズに共通する特徴として、以下の点が挙げられます。これらの特徴は、組み込み用として特化されたChrome 4000/5000シリーズ以降でも引き継がれています。

電力あたりの性能効率の追求
絶対的な低発熱・低消費電力
高度なHD動画再生機能への積極的な対応
DirectXメジャーバージョンへの積極的な対応

単体GPUとしてのChromeシリーズは、主にビデオカードとしてリリースされていましたが、競合製品と比較してビデオカードメーカーからの採用は限定的でした。しかし、ノートPC市場では、2008年に富士通のFMV-BIBLO MGシリーズにChrome 430 ULPが採用されるなど、一定の採用実績がありました。

また、チップセット統合グラフィックスコアであるUniChromeおよびChrome9は、VIA TechnologiesのPC用チップセットに多数搭載されていました。2014年現在はコンシューマ向けとしては展開されておらず、VIAが主に業務用のデジタルサイネージ向けとして提供している組み込み用Mini-ITXマザーボード用のチップセットの一部として利用されています。

デスクトップ向けGPU

Delta Chrome

Delta Chrome（デルタクローム）は、2003年3月に発表されたGPUです。約6,000万個のトランジスタで構成され、130nmプロセスルールで製造されました。Shader Model 2.0+に対応した24bit精度ピクセルシェーダを搭載し、DirectX 9をサポートしています。ビデオメモリは128bitで接続された最大256MBのDDR SDRAMに対応し、インターフェースはAGP 8xでした。

機能面では、コンポーネント出力、400MHz RAMDAC、MPEG2/MPEG4対応の動画アクセラレーション機能Chromotion、フォントスムージングアクセラレーション機能ClearType Font Accelerationなどを搭載し、2D機能にも力を入れていました。また、同世代のGPUと比較して、回路規模が小さく消費電力が低く抑えられていました。

最上位の"F1"から廉価版の"S4"まで複数のモデルが存在し、モデルによってコアクロックやメモリ容量が異なりました。日本では、"S8"以外にも高速版の"S8 Pro"や、"S8"の名前が付いていますが"S4"の高速版である"S8 XE"を搭載した製品も発売されました。

主な仕様

Shader Model 2.0+ (8基、S4、S8XEは4基)
Chromotion ビデオエンジン
ハードウェア頂点シェーダ4基
AGP 8x
130nmプロセスルール(TSMC)
コンポーネントビデオ出力
Duo Rotate (ハードウェアローテート)

Gamma Chrome

Gamma Chrome（ガンマクローム）は、2004年3月に発表されたGPUです。インターフェースはPCI-Express 16xに対応していますが、それ以外の仕様はDeltaChrome S8とほぼ同様です。Chromotionはver. 2.0に改良されました。

日本では"S18 Pro"を搭載した製品が発売されました。

主な仕様

Shader Model 2.0+ (8基、S14のみ4基)
Chromotion 2.0 ビデオエンジン
ハードウェア頂点シェーダ4基
PCI Express 16x
130nmプロセスルール(TSMC)
コンポーネントビデオ出力
Duo Rotate (ハードウェアローテート)
Ultra Low Power configurations (省電力機能)

Chrome 20

Chrome 20シリーズは、2005年11月に発表されたGPUです。富士通三重Fabの90nmプロセスで製造され、上位のS27と下位のS25が存在します。グラフィックスコアや機能はDeltaChrome以来の設計を踏襲していますが、マルチGPU技術MultiChromeへの対応を大きな特徴としています。Flexible Memory Architectureによる柔軟なメモリ構成も特徴です。

これにより、32～128bitのメモリバスで接続されたGDDR1/GDDR3 32～256MBまたはGDDR2 32～512MBのビデオメモリをサポートします。またS25のみ、メインメモリ領域の一部をVRAMとして利用するAcceleRAM機能を搭載しています。Chromotion 3.0によりWMV-HDやMPEG2-HDへの再生支援に対応するなどHD動画コンテンツへの対応も行われています。

HDMIインターフェースを搭載したS25搭載製品の発売もXIAiからアナウンスされていましたが、実際には発売されませんでした。S27はコアクロック700MHzと発表されていましたが、後に650MHzに引き下げられました。2006年にはマイナーチェンジ版の"S27JE"が発売されたほか、モバイル向けにLCD表示機能の最適化や省電力機能の追加がされたChrome XM20シリーズもラインナップされています。

主な仕様

Shader Model 2.0+ (8基)
Chromotion 3.0 プログラマブルビデオエンジン
ハードウェア頂点シェーダ4基
PCI Express 16x
90nmプロセスルール(富士通)
コンポーネントビデオ出力
Duo Rotate (ハードウェアローテート)
Multi Chrome
AcceleRAM (S25のみ)

Chrome 400 / 500

Chrome 400シリーズは2008年2月18日に発表されたGPUです。富士通Fabの65nmプロセスルールで製造され、上位の440と下位の430が存在します。ローエンドデスクトップおよびノートPC市場をターゲットとしており、メモリバスはいずれも64bitです。

DelatChrome以来となるグラフィックスコアの大幅な刷新が行われており、Shader Model 4.1に対応しDirectX 10.1をサポートすることが最大の特徴です。MicrosoftによるVista SP1 Premium認証を取得しています。また、同社製品としては初となるOpenGL 2.1のサポートを行いましたが、Chrome 500発表後にリリースされたドライバでOpenGL 3.0への対応も行いました。

Chrome 400以降に対応したS3 GPGPU用写真修正ソフトウェア「S3FotoPro」も提供され、OpenCL 1.0にも対応しており、GPGPUとしての利用も可能になりました。動画再生機能もChromotion HDに強化されており、Blu-rayビデオやH.264など、各種HDコンテンツに対する再生支援機能が強化されています。

上位の440は同時に2つのビデオストリームに対する再生支援に対応しますが、下位の430では1つのみとなります。インターフェースはPCI Express 2.0に対応し、HDMI出力をネイティブサポートします。また、DVI出力はデュアルリンクに対応し、外部トランスミッタを追加することでDisplayPort出力もサポートします。

派生品として、モバイル向けのChrome 430ULP, 435ULP, 440ULPや、組み込み向けの4300Eが発表されています。2008年11月20日には、Chrome 500シリーズが発表されました。これはChrome 400をベースにサポートするメモリ容量を強化したマイナーアップデート版で、530GTおよび540GTXがラインナップされています。これがS3のコンシューマー向け最終製品となりました。

主な仕様

Shader Model 4.1 (統合型シェーダー)
ChromotionHD ビデオテクノロジ
Blu-ray/HD-DVD、H.264, VC-1, MPEG2-HD, AVS再生支援
OpenGL 3.0サポート
OpenCL 1.0サポート
AES 128bit暗号化エンジン搭載
PCI Express 2.0 16x
65nmプロセスルール
Duo Rotate (ハードウェアローテート)
Multi Chrome
PowerWise Technology (省電力機能)
HDMI, デュアルリンクDVI, Display Portサポート

統合グラフィックス向け

UniChrome

UniChromeは、ProSavage-DDRをベースに開発された統合チップセット (IGP) 用グラフィックスコアです。内部的にAGP 8xで接続される128bitグラフィックスコアを持ち、UMAにより最大64MBのメモリをサポートします。シェーダやハードウェアT&Lは搭載しておらず、構成的にはDirectX 6世代に相当します。マルチディスプレイ機能DuoViewをサポートしています。VIA TechnologiesのKM400チップセットなどに搭載されています。

UniChromeグラフィックスコアは、2002年6月に発表されたCLE266で採用されて以降、マイナーチェンジを重ねながら2006年11月発表のCN800チップセットまで4年半にわたって採用され、非常に息の長いグラフィックスコアとなりました。

UniChrome Pro

UniChrome Proは、UniChromeのマイナーチェンジ強化版に当たる統合チップセット用グラフィックスコアです。UniChromeと比較して、パイプラインを1本から2本に強化し、コアクロックを上昇させています。コンポーネントによるHDTV出力に対応し、動画再生機能Chromotion CEを搭載するなどHD動画への対応がされています。VIA TechnologiesのK8M800チップセットなどに搭載されています。

UniChrome ProII

UniChrome ProIIは、UniChrome Proのマイナーチェンジ強化版に当たる統合チップセット用グラフィックスコアです。WMV-HDの再生支援に対応するなど、HD動画再生機能の強化がされています。VIA TechnologiesのVX700チップセットなどに搭載されています。

主な仕様

AGP 8x (内部接続)
UMAによる最大64MBのメモリサポート

Chrome9 HC

Chrome9 HCは、Delta Chromeをベースに開発された統合チップセット用グラフィックスコアです。128bitのグラフィックスコアを持ち、UMAにより最大256MBのメモリをサポートします。Shader Model 2.0+のProgramable Shaderを搭載し、DirectX 9に正式に対応しており、MicrosoftのVista Basicロゴ認定となっています。表示機能としてChromotion CEおよびデュアルDVIに対応したDuo View+をサポートし、動画再生支援機能としてはMPEG-2デコードおよびビデオデブロッキングに対応しています。VIA TechnologiesのK8M890, CN896, P4M900チップセットなどに搭載されています。

Chrome9 HC3

Chrome9 HC3は、Chrome9 HCのマイナーチェンジ版に当たる統合チップセット用グラフィックスコアです。350MHzのRAMDACを3つ搭載し、三画面の出力に対応する他、デュアルリンクDVI出力およびビデオキャプチャにも対応します。また動画再生支援機能として、MPEG-2, VC1ビデオ デコード アクセラレーションに対応しています。VIA TechnologiesのVX800チップセットに搭載されている他、低クロック版がVX800Uチップセットに搭載されています。

Chrome9 HCM

Chrome9 HCMは、Chrome9 HC3のマイナーチェンジ版に当たる統合チップセット用グラフィックスコアです。主に動画再生支援機能が強化されており、1080pのMPEG-2/H.264 VLDハードウェア デコード アクセラレーションへの対応が追加されました。VIA TechnologiesのVX855チップセットに搭載されています。

主な仕様

Shader Model 2.0+
PCI Express 16x (内部接続)

Chrome 4000/5000

Chrome 4000およびChrome 5000シリーズは、Chrome 400/500シリーズをベースに組み込み用に再構成したものです。Chrome 400/500シリーズ同様にShaderModel 4.1およびDirectX 10.1をサポートする点が特徴です。

Chrome 4300
Chrome 5300
Chrome 5400

Chrome 600

Chrome 600シリーズは、S3の統合グラフィックチップとしては初めてDirectX 11に対応しました。VIAのMedia System ProcessorであるVX11に搭載されており、主にMini-ITXなどの小型マザーボードやノートPC向けに提供されています。VX11H with HDPCに搭載されているチップにはBlu-rayのデコーディングをサポートしています。

Chrome 640
Chrome 645

Chromeシリーズの技術

Chromotion

Chromotionは、Chromeシリーズに搭載されている動画再生支援技術です。バージョンによって対応するコーデックや機能が異なり、シリーズの進化と共に強化されてきました。

Multi Chrome

Multi Chromeは、NVIDIAのSLIやAMDのCrossFireに類似するマルチGPU技術です。2枚のカードでの構成、または1枚のカードに2つのGPUを搭載する構成が可能であり、自由度が高いことが特徴です。Chrome S20シリーズおよびChrome 400シリーズでサポートされています。

S3 Graphicsは、Multi Chromeに使用するChrome S20搭載カードはビデオメモリを256MB以上搭載していることを推奨しています。

Chromeシリーズの呼称について

"Chrome"は一般に「クロム」と発音される金属クロムと同じスペリングですが、本シリーズにおいては「クローム」と発音されるのが一般的です。

関連項目

Savage
S3 Graphics
VIA Technologies

外部リンク

「Chrome 20」シリーズHP
「Chrome 400」シリーズHP
「Chrome 500」シリーズHP
Chrome関連技術文書
S3GPGPU用写真修正ソフトウェア「S3FotoPro」
S3FotoPro™
* S3 GPGPU

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