TD平行カルダン駆動方式

TD平行カルダン駆動方式とは

TD平行カルダン駆動方式（TD Drive）は、鉄道車両、特に電気車の駆動方式の一つです。この方式は、中空軸平行カルダン駆動方式に代わるものとして、日本の東洋電機製造によって実用化されました。「TD」という名称は、2組のたわみ板を用いる自在継手構造「ツインディスク」(Twin Disc)に由来しますが、開発を手掛けた東洋電機製造の頭文字(Toyo Denki)を意味するとも言われています。

1969年に実用化されて以来、京王帝都電鉄（現：京王電鉄）への納入を皮切りに、多くの鉄道会社で採用されてきました。この駆動方式は、たわみ板を使用することから、たわみ板継ぎ手方式とも呼ばれています。中空軸平行カルダン駆動方式も同様にたわみ板を使用します。

構造と特徴

TD平行カルダン駆動方式では、主電動機を車軸と平行に台車枠に固定します。主電動機の電機子軸と輪軸の歯車駆動軸との間は、大きな偏位を許容する「TD継手」のみで接続されています。このTD継手内部では、2枚の円盤状の「たわみ板」を組み合わせることで、長さと角度の偏位を吸収しています。

たわみ板の材質は、初期には特殊鋼が用いられていましたが、近年では軽量で耐久性に優れた炭素繊維強化プラスチック（CFRP）が使用されることが多くなっています。CFRP製のたわみ板は、1989年に京阪電気鉄道に納入された車両から実用化されました。CFRPの耐久性が向上したことで、たわみ板が単板になったものも存在しますが、慣例的に「TD」と呼ばれています。

駆動系の全体的な構成は、TD継手をWN継手に置き換えるとWN駆動方式と同じになります。偏位の許容が小さい「たわみ板継手」を2つ使用し、大きな偏位を吸収するという点で、中空軸平行カルダン方式と類似しており、その発展型とみなすこともできます。

中空軸平行カルダン駆動方式との比較

TD平行カルダン駆動方式は、中空軸平行カルダン駆動方式と比較して、主電動機内部の電機子軸である中空軸を、出力軸の反対側にあるたわみ板継手を介して中空軸の内部に配置されているねじり軸（駆動軸）と組み付ける必要がないため、内部構造が単純化され、軽量化されています。また、TD継手はメンテナンスフリーのモジュール部品として扱えるため、保守性が向上します。これらの利点から、中空軸平行カルダン方式を採用していた鉄道事業者を中心に、TD平行カルダン駆動方式の採用が進んでいます。

WN駆動方式との比較

インターナルギアを用いるWN駆動方式と比較しても、TD平行カルダン駆動方式は伝達効率が良いとされています。また、構造が単純で、組み立てや調整が容易であり、給脂の必要がないため、保守も簡素化できるというメリットがあります。

一方で、大出力や長時間駆動における耐久性については、WN継手に一歩劣るとされており、かつては新幹線での採用は見送られていましたが、近年、たわみ板の耐久性が向上したことから、JR東海所属の700系C19編成以降やJR西日本を含むN700系16両編成のグリーン車で採用されるようになりました。

また、一般的に使用される「トンボ型」の継手は、高速回転時に風切り音が発生するという問題点がありますが、騒音を低減するために円筒形状の継手が採用される場合もあります。

その他の特徴

TD平行カルダン駆動方式は、WN方式と同様に継手の設計を変更することにより、電動機を車軸に直角に配置することが可能です。このため、設置スペースに制限のあるモノレールなどでも採用されており、その際は「TD直角カルダン駆動方式」と呼ばれます。

採用事例

TD平行カルダン駆動方式は、日本国内の多くの鉄道事業者で採用されています。以下に主な採用事例を示します。

JRグループ
JR北海道：733系、735系、789系
JR東日本：205系、209系、E217系、E231系、E233系、E235系、E257系、E259系、E351系（廃系列）、E353系、E501系、E531系、E653系、E721系、E751系、E954形、E955形
JR東海：700系（一部）、N700系（一部）、313系、373系、383系
JR西日本：N700系（一部）
JR四国：6000系、7000系、7200系、8000系、8600系
JR九州：303系、811系、813系、815系、817系、BEC819系、883系、885系
鉄道総研：LH02形
私鉄・公営・第三セクター
札幌市交通局：1100形（路面電車）
東武鉄道：100系、200系、250系、500系、9050系、10080系、20050系、20070系、50000系、60000系
京成電鉄：3700形、2代目3000形、2代目AE形
北総鉄道：7300形、7500形、9100形
京王電鉄：5000系電車 (2代目)
東急電鉄：300系、2000系、3000系、5000系、6000系、7000系、7500系
横浜高速鉄道：Y000系、Y500系
京浜急行電鉄：600形、800形、1000形、1500形、2000形、2100形、デト17・18形
小田急電鉄：7000形、30000形
相模鉄道：10000系、11000系、20000系
東京都交通局：10-300形
多摩都市モノレール：1000系
首都圏新都市鉄道：TX-1000系、TX-2000系
上信電鉄：7000形
伊豆箱根鉄道：7000系
静岡鉄道：A3000形
名古屋鉄道：3100系、3500系、3700系
富山地方鉄道：8000形
伊賀鉄道：200系
京阪電気鉄道：7000系、7200系、9000系、10000系、3000系、500形以降の大津線車両など
叡山電鉄：900系
京都市交通局：20系
阪急電鉄：5300系、6300系、7300系、8300系、9000系
阪神電気鉄道：5500系以降のVVVFインバータ制御車
南海電気鉄道：2000系、2300系、8300系、50000系
泉北高速鉄道：9300系
伊予鉄道：モハ5000形
西日本鉄道：9000形
沖縄都市モノレール：1000形

海外での採用事例

TD平行カルダン駆動方式は、日本国外での採用例は少ないですが、台湾鉄路管理局のTEMU2000形電車、北京地下鉄、MRTジャカルタ、日立製モノレールなどで採用されています。

まとめ

TD平行カルダン駆動方式は、その優れた構造と保守性、高い伝達効率から、多くの鉄道事業者で採用されている駆動方式です。今後も、技術の進歩とともに、さらなる発展が期待されます。

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