TJ・ディラショー

TJ・ディラショー（TJ Dillashaw）は、1986年 2月7日生まれ、カリフォルニア州ソノラ出身のアメリカ合衆国の男性元総合格闘家です。UFC世界バンタム級王者として二度にわたり頂点を極め、その変幻自在なファイトスタイルで多くのファンを魅了しました。

経歴

ディラショーの格闘技キャリアは、高校時代から取り組んだレスリングに始まります。カリフォルニア州で優秀な成績を収め、その実力が認められてカリフォルニア州立大学フラトン校にフルライド奨学金を得て入学。大学でもNCAAディビジョン1で活躍し、レスリングの基礎をしっかりと固めました。

大学卒業後、当時のレスリングコーチであったマーク・ムニョスの紹介を通じて総合格闘技の世界へ足を踏み入れます。2010年にプロ総合格闘家としてデビューすると、すぐに4戦無敗という好成績を収め、登竜門であるリアリティ番組「ジ・アルティメット・ファイター」（The Ultimate Fighter、TUF）への参加を決めました。

The Ultimate FighterからUFCへ

2011年、TUFシーズン14にバンタム級トーナメント参加者として出場。チーム・ビスピンに所属し、トーナメントの予選、準決勝を勝ち進み決勝へ駒を進めます。同年12月3日に行われたTUF 14 Finaleの決勝でジョン・ドッドソンと対戦しましたが、プロキャリアで初めての敗北となる1ラウンドTKO負けを喫しました。

UFC本戦デビューは2012年2月15日のUFC on Fuel TV 1。ワレル・ワトソンを相手に判定勝利を収め、UFCキャリアをスタートさせました。その後もUFCでの試合を重ねますが、2013年10月にはハファエル・アスンソンに判定で敗れます。この試合はファイト・オブ・ザ・ナイトに選ばれる激戦となり、海外メディアの多くがディラショーの勝利を支持するなど、内容的には高い評価を得ました。

UFC世界バンタム級王座獲得

ディラショーのキャリア最大のハイライトの一つは、2014年5月24日のUFC 173での出来事です。UFC世界バンタム級王者ヘナン・バラオンへの挑戦が決定。当初は水垣偉弥との対戦が予定されていましたが、挑戦者アスンソンの欠場により急遽タイトル挑戦が決まったのです。試合前のオッズでは圧倒的に不利と見られていましたが、ディラショーは開始から王者バラオンを圧倒。5ラウンドには左ハイキックでぐらつかせた後、強烈なパンチ連打からパウンドに繋ぎ、下馬評を完全に覆すTKO勝利で新王者となりました。このパフォーマンスはファイト・オブ・ザ・ナイトとパフォーマンス・オブ・ザ・ナイトを同時受賞する快挙となりました。

初防衛戦は2014年8月30日のUFC 177。これもまた、当初の挑戦者バラオンが試合前日に欠場するというアクシデントがあり、急遽ジョー・ソトが代役挑戦者となりました。ディラショーはソトを5ラウンドKOで下し、王座初防衛に成功。

2015年7月25日には、因縁の相手ヘナン・バラオンと再戦。この試合でもディラショーは主導権を握り、4ラウンドTKOで勝利。2度目の防衛を果たしました。

チーム移籍と王座陥落、そして再戴冠

王座を守り続ける一方で、2015年10月には長年在籍したチーム・アルファメールを離れ、エレベーション・ファイトチームへ移籍するという大きな変化がありました。そして2016年1月17日、ドミニク・クルーズを相手に3度目の防衛戦に臨みます。一進一退の攻防が繰り広げられましたが、僅差の判定で敗れ、王座から陥落しました。しかし、この試合もファイト・オブ・ザ・ナイトを受賞する名勝負となりました。

王座陥落後もUFCでの戦いを続け、2016年にはかつて敗れたハファエル・アスンソンに判定勝利しリベンジを果たしました。さらにジョン・リネカーにも勝利し、再びタイトル戦線へ浮上します。

2017年にはTUFのコーチとして、元チームメイトでありバンタム級王者となっていたコーディ・ガーブラントと対立。そして同年11月4日、UFC 217でそのガーブラントに挑戦します。1ラウンドにダウンを喫する苦しい展開となりましたが、驚異的なリカバリーを見せ、2ラウンドに左ハイキックからの右フックでダウンを奪い、パウンドによるKO勝利で王座返り咲きに成功しました。これはガーブラントとの因縁に決着をつける形となり、再びパフォーマンス・オブ・ザ・ナイトを受賞。

2018年8月には、UFC 227で再びガーブラントと対戦するダイレクトリマッチが実現。この試合ではディラショーが1ラウンドTKOで勝利し、王座初防衛に成功しました。

フライ級挑戦とドーピング問題、そして引退

2019年1月19日、ディラショーはバンタム級王者のまま、一階級下のフライ級王者ヘンリー・セフードに挑戦するという異例の試みを行います。しかし、試合はわずか32秒でセフードのパウンドによるTKO負けとなり、二階級制覇はなりませんでした。

このセフード戦後、ディラショーのキャリアに大きな暗雲が立ち込めます。2019年3月、自身がドーピング検査で陽性反応が出たことを公表し、バンタム級王座を返上すると発表しました。その後、ニューヨーク州アスレチック・コミッションから1年間、米国アンチドーピング機関（USADA）からは組換えヒトエリスロポエチン（rHuEPO）の検出により2年間の出場停止処分が科されました。

約2年半のブランクを経て、2021年7月24日にUFC on ESPNで復帰戦に臨みます。コーリー・サンドヘイゲンとの激しい試合を判定で制しましたが、この試合中に膝の靭帯などを断裂するという重傷を負いました。

怪我からの復帰後、2022年10月22日のUFC 280でバンタム級王者アルジャメイン・スターリングへの挑戦が決定。しかし、試合開始直後に肩を脱臼するというアクシデントに見舞われ、2ラウンドTKO負け。王座再々獲得は叶いませんでした。

そして2022年12月5日、ディラショーはUFCに引退を通知したことが発表され、波乱に満ちたキャリアに幕を下ろしました。

ファイトスタイルと人物

ディラショーのファイトスタイルは、レスリング仕込みの体幹とフットワークを活かした、独特の構えとステップからの打撃が特徴です。特に角度をつけたポジションから放たれるパンチは精度が高く、ノーモーションのハイキックも相手にとって非常に見えづらい武器でした。エレベーション・ファイトチームに移籍してからは、テイクダウンやグラウンドでの攻防も向上し、穴のないオールラウンダーへと進化。激しい試合を戦い抜く豊富なスタミナとリカバリー能力も持ち合わせていました。

パーソナルな側面では、かつて所属したチーム・アルファメールの一部メンバーとの間に確執があったことが知られています。入場時にはレッド・ホット・チリ・ペッパーズの「Can't Stop」を使用し、その歌詞をタトゥーとして刻んでいます。大学では運動・臨床実践科学の学士号を取得しており、知的な一面も持っています。2014年に結婚し、一児の父でもあります。

獲得タイトル・表彰

第3代UFC世界バンタム級王座
第6代UFC世界バンタム級王座
UFC ファイト・オブ・ザ・ナイト（3回）
UFC パフォーマンス・オブ・ザ・ナイト（5回）
* World MMA Awards アップセット・オブ・ザ・イヤー（2014年/ヘナン・バラオン戦）

TJ・ディラショーは、その技術的な卓越性、予測不能な動き、そして逆境を跳ね返す精神力で、総合格闘技史において特にUFCバンタム級のトップ戦線で強烈なインパクトを残したファイターと言えるでしょう。

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